「NIRVANA-ニルヴァーナ-」じん×沙雪 対談|「今、2人にとって一番面白い」 “アツさ”を求めて120%で描くこと

お互いが“最初の読者”だからこそ妥協できない

──じんさんも沙雪さんも、物語を1から共同作業で作るのは初めてかと思います。共同作業ならではのつらさと面白さはありますか?

沙雪 大変なことも面白いことも、たくさんありますね(笑)。

じん 2日前とかも大変だった……(笑)。

──いったい2人の身に何が……?

「NIRVANA-ニルヴァーナ-」3巻に収録される第10話より。

じん ちょうど第3巻にも収録される話のペン入れ済み原稿が沙雪さんから上がってきていて、その最終チェックをしていたんですね。夜12時に始めて、朝9時が締め切りだったんですけど……読んでいるうちに「ここ、もっと面白くできるのでは」というところが出てきて。それで、沙雪さんにSkypeで「ここをこうしたらよくなるかな」などと相談しながら、結局7ページ直してもらったということがありました。それが2日前の出来事です……修正原稿を読んだ担当編集さんにも「なんで変えたか、意味がわかりました」と言ってもらえたので、結果的によかったのですが。

──ギリギリまでこだわり続ける、作品に対する情熱がすごいです。そしてそれに応えて7ページ直す沙雪さんもすごすぎる……修正作業はお1人で?

沙雪 はい。

じん 沙雪さん、普段からアシスタントを雇わず1人でやっているんですよ。八千夜たちは国から国へ移動して冒険してますから、回によって描くものも全然変わってくるので、ものすごく大変です。僕も背景くらい描けたらいいんですけど(笑)、まあ、沙雪さん1人でやったほうが早いという……。

──「NIRVANA」にはメインキャラ以外の人たちもかなり出てきますし、文様や造形物などもかなり精巧に描かれてるので、当然アシスタントを入れて作業されているのかと思ってました。

「NIRVANA-ニルヴァーナ-」2巻では、八千夜一行の前にテンカを支持する戌、午、卯の十二始が現れる。

沙雪 アツいアシスタントさんがいたら、ぜひお願いしたいとは思ってます……でもじんさんからの指摘は、「あー、確かにそっちのほうが面白くなる」というものが多いので、苦じゃないんですよ。

じん そう、沙雪さんが「うーん、もうちょっと今回は」と言ったり「そうは思わないな」って反応ばかりなら、そこでストップするんだけど、こっちが何か提案すると「いいね、それ」とさらにいいものを出してくれてしまうので、僕も歯止めがきかなくなるんです。だって、僕は原作者の1人であると同時に“最初の読者”なので、最初の読者として「面白い!!」と一点のくもりもなく言えるものにしないといけないと思うんですよね。逆に、自分が話を考える番になったときは、沙雪さんが最初の読者なんですよ。だから沙雪さんが“泣ける”くらいの反応をしてくれるまで、試行錯誤します。自分1人で何か作ってるときより、はるかに限界に挑戦してる気がする。「もっとやれんだろ」みたいな。

──共作することで、お互いに鼓舞する気持ちが高まる。

じん 1人で作ってるときは「まあ今回自分がやりたいのはこういうのだし、いいか」と、“自分のやりたいこと”を優先することもあるんです。でも、沙雪さんとの共作だからこそ「自分の好みとか関係なく、面白いものになってるか」が気になる。毎回バタバタすることもありますが、終わってみると本当に楽しいんです。

沙雪 最初に対談したときからそうなんですけど、じんさんと僕は「面白い」と感じるツボが一緒なんですよね。「あの展開がアツかった」の“あの展開”がだいたい一致します。

じん そうそう。僕は「弱虫ペダル」が大好きなんですけど、あの作品って本当にアツいところがいろいろあるじゃないですか。ほかの人と話していると、同じ作品が好きでも細かい点の評価が分かれたりするんですけど、沙雪さんとはそういうことがあんまりないですね。なので「NIRVANA」の見せ方についても、意見が一致しないということがあまりありません。

沙雪 全部壊してさらにいいものに、ということはありますけれど(笑)。

「NIRVANA-ニルヴァーナ-」カット

じん 感性の方向性は近いんだけど、同じものを見ていても別の視点で見ていることが多いので、かえってやりやすいんですよね。僕が「このセリフ、もっとやりようがあるかも」と思っている間に、沙雪さんは作画の見せ方を検討し直したりしている。

──喧嘩することとかって、ないんですか?

沙雪 ないですよね。

じん ないですね。編集さんからは「普通2年もやってたら喧嘩する」と言われます(笑)。

──いつも「NIRVANA」の打ち合わせにどれくらいの時間を割いているんですか?

じん 週に10時間は電話してるような……。

──長い! それは趣味の話とかも含めてですか?

沙雪 いえ、もうずっと「NIRVANA」の話をしてますね。今2人にとって一番面白いのが「NIRVANA」なので。

じん 僕は海外のゲームが好きで、沙雪さんに薦めることもあるんですけど、それもだいたい「『NIRVANA』の参考になりそうだから」ですしね(笑)。

目指したのは「90年代のアニソン」

──先日、「NIRVANA」のMVも公開されましたね。キャラクターが動いていることと、ストーリーが歌になっていることに感動しました。

「NIRVANA-ニルヴァーナ-」公式MVより。

じん ありがとうございます。「NIRVANA」を連載し始めたときは、マンガ以外の展開はあんまり考えてなくて。周りからは「曲作らないの」ってずっと言われてたんですけど、別に僕は自分のメインの活動が音楽制作とも思ってないですし、マンガはマンガとしての活動と考えていたんです。でも連載しているうちに、イメージソングを作るのも面白いかなと思うようになりました。そこに周りからの後押しもいただいて……という感じですね。

──いつ頃制作されたんですか?

じん 昨年末くらいからですかね。ちょうど同年代の非常に信頼できるクリエイターたちが「NIRVANA」を気に入ってくれて、彼らがMVを作ってくれることになったんです。その後「とりあえずやってみよう」という感じで制作がスタートしました。

──マンガ内のイラストをうまく組み合わせて制作したのかと思っていたのですが、描き下ろしもされたんですか。

沙雪 ほぼ描き下ろしですね。いっぱい描きました。

「NIRVANA-ニルヴァーナ-」公式MVより、沙雪描き下ろしイラストが用いられたシーン。

じん 僕は音楽制作チームに、沙雪さんは映像制作チームに別れて、別々に作業してた感じですね。

沙雪 けっこうボリュームのある作業だったので、結局1カ月マンガ連載を休載することに……。

──でも、それだけの気合の入ったMVに仕上がっていると思います。

じん ほかの誰かに依頼したらこうはいかないだろうなというくらい“NIRVANA感”が出ましたね(笑)。いろいろな楽器を使っているのでそのぶんレコーディングも大変だったんですが、曲作り自体も挑戦の連続でした。沙雪さんの意見も聞きながら、1990年代のアニソンのような空気感を目指しました。

──言われてみれば、そんな感じがしますね。

じん 僕は妹がいたのもあって、当時やっていたヒロインが主役のアニメをけっこう観ていまして。あの時代の空気感をなんとなく思い浮かべながら制作していました。“6歳の自分が好きだったもの”という感じで、いつも以上に自分自身のパーソナルな好みで自由に作りました。

沙雪 そもそも「NIRVANA」自体が、90年代に僕たちが楽しく観ていた作品のアツさや楽しさを再構築して見せようと思いながら作ったので。

──確かに、子供時代に心に刻み込まれた“わくわく感”を刺激される気がしますね。

じん どんな作品を作るときもそうなんですけど、1から新しいことをやるのも大事ですが、昔からあるものを分解して今の感度でやることも大事だと思っています。

「NIRVANA」が人生の息抜きのようなもの

──「NIRVANA」の展開は、すでに最後まで決まっているんですか?

沙雪 一応大きいところは決まってますよね。

「NIRVANA-ニルヴァーナ-」カット

じん はい。過去の王道作品をリスペクトしながら作っているとは言え、「これまでにないものを」という気合いもあるんで、けっこう驚くような展開が待っているんじゃないかなと思います。期待していただければ。ただ、もしかしたら想定と変わる可能性もありますけど。

──「もっとやれるかも」と思ったら?

じん “1週間の献立”をだいたい決めているからと言って、いざ前日になったら「やっぱり明日はカレーじゃないかも」って思うこと、ありますよね。僕らの仕事は別に設計図通りに作る仕事ではないので、「ここはやっぱりこうかも」と思ったら変える可能性があります。

──今のおふたりにとっても予想の付かない展開があり得るということですね。現在かなり多忙な日々を送っていると思いますが、最近の息抜きなどはありますか?

沙雪 どうだろう……ずっと「NIRVANA」描いてて、息抜きの暇もないですね(笑)。じんさんと旅行でも行きたいねと話しているけど、全然行く暇がありません。

じん むしろ「NIRVANA」が人生の息抜きみたいなところがありますね(笑)。お互いこの作品で培った力を、今後も色々なところで発揮していきたいです。

──本当に、おふたりの「NIRVANA」にかける情熱が伝わってきました。最後に、インタビューを読んだ皆さんへのメッセージをお願いしていいでしょうか。

左から沙雪、じん。

じん すでに「NIRVANA」を読んでくださってる方、見つけていただいてありがとうございます。毎回、そのとき一番アツくできあがってるものを叩き込んでいるので、そのアツさは筆にも乗って、伝わっているんじゃないかなと思っています。

沙雪 いつも120%出してますよね。ぜひ続きも楽しみにしていてほしいです。

じん 読んでない方も、アツい気持ちになりたい方はぜひ。そこまでアツさには興味ないという人も、まあとりあえず読んでみていただければ……(笑)。

──今後の八千夜たちの冒険も楽しみにしています。ありがとうございました。

じん沙雪 ありがとうございました!

色紙に八千夜のイラストを描く沙雪。じんと沙雪によるイラスト入りサイン色紙。
原作:じん×沙雪(ZOWLS) 漫画:沙雪「NIRVANA-ニルヴァーナ-③」
2017年7月27日発売 / KADOKAWA
「NIRVANA-ニルヴァーナ-③」

コミック 648円

Amazon.co.jp

Kindle版 648円

Amazon.co.jp

主人公は困っている人を見過ごせないボランティア好きの女子中学生・春秋八千夜(ひととせやちよ)。ある日突然、星廻界(グルグラフ)という異世界へ輪廻転生してしまった八千夜は、そこで希望の神・サクヤの生まれ変わりだと崇めたてられる。身に覚えもなく困惑する八千夜だったが、あることをきっかけに伝説の力・涅槃転装(ニルヴァーナ)を発揮し……。八千夜は危機に瀕した星廻界を救うべく、“十二始”と呼ばれる仲間集めの旅へと繰り出す。

付属情報
  • アニメイトでは描き下ろしの特典イラストペーパーを配布。
  • 一部の電子書店では1巻の無料試し読みも公開中。

7月29日よりLINEマンガでも連載スタート
毎週土曜更新

じん
じん
1990年10月生まれの北海道利尻島出身。2011年よりニコニコ動画に自作の楽曲を投稿し、歌詞の世界観がストーリーとリンクした楽曲群「カゲロウプロジェクト」をスタートさせる。2012年3月には同プロジェクトにまつわるCDと小説の発売、コミカライズ化の発表といったマルチメディア展開が始動。2012年の月刊コミックジーン2012年7月号(KADOKAWA)にて、じんの原作をもとに佐藤まひろ作画を担当する「カゲロウデイズ」の連載が始まった。その後も同プロジェクトは、アニメ化および劇場化を果たすなど広がりを見せていく。「カゲロウデイズ」の連載と並行し、2016年には同誌にて「ダブルゲージ」の沙雪と「NIRVANA-ニルヴァーナ-」を開幕させる。
沙雪(サユキ)
沙雪
九州在住のマンガ家。2011年、メディアファクトリー主催の第6回MFコミック大賞にて「ネココハウス」が大賞を受賞。2012年から2014年にかけて月刊コミックジーン(KADOKAWA)にて「ダブルゲージ」を連載し、2013年から2016年までは同誌にてボカロ楽曲シリーズ「ミカグラ学園組曲」のコミカライズを手がける。その後、Webマンガサイト・ジーンピクシブで「月下ノ外レ外道」を連載。2016年には「カゲロウデイズ」のじんとZOWLSというチームを組み、月刊コミックジーンで「NIRVANA-ニルヴァーナ-」の連載をスタートさせた。