「MASKMEN」坂本裕次郎×サイコミ編集長葛西歩 対談|近未来に起こりうる人類の危機、それを救う正義とは何か──これは絵空事でなく、僕らが生きる世界と地続きのリアルだ!

「MASKMEN」のテーマは、現実の先にある「危機」と「これからの正義」

──制作体制のことはよく理解できました。ここからは実際の作品内容についてお聞きしていきたいのですが、「MASKMEN」全体で掲げているテーマのようなものはあるのでしょうか?

「SHADOW NEWT 再生能力で目指すS級最強!」より。

坂本 これ僕が言ってもいいんですかね……? 「MASKMEN」で描こうとしているのは、「これからの正義」です。

葛西 今日はこの話がしたかったんですよ!!

──「これからの正義」というと?

坂本 「MASKMEN」で描かれるヒーローとヴィランの戦いというのは、一見よくある設定ですよね。けど単純に勧善懲悪の物語をやりたいというわけじゃなく、それを通して僕たちが強く主張したいのは、ヒーローたちが戦っているものは、実はこれから来る現実の未来に対して人類が抱えている危機そのものだということです。

葛西 話が大きすぎるので順を追って説明しましょうか(笑)。坂本先生がおっしゃっている「これからの正義」というテーマが出てきたのは、そもそもZooさんが「サピエンス全史」などで知られる歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏の思想に影響を受けたのがきっかけで。詳しい内容は割愛しますが、ハラリ氏は著作の中で、人類には4つの危機があると語っています。1つめに「核兵器による破滅」、2つめに「温暖化をはじめとする地球規模の災害」、3つめに「生態系の崩壊」、そして4つめ「AIとバイオテクノロジー技術の加速による、人類の存在意義そのものの崩壊」。

左から葛西歩編集長、坂本裕次郎。

坂本 環境破壊や自然災害のニュースを見るたび、皆さん「この先どうなるんだろう?」って、未来に漠然と不安を感じていると思うんです。「MASKMEN」の舞台って今から25年後なんですが、その頃まともに生きていける世界なのかなって。そうした危機に対してどうやって解決策を導き出すか、それぞれのクリエイターの考えをマンガの中で描いているのが「MASKMEN」なんです。

──もう少し詳しくお聞かせいただけますか?

坂本 「MASKMEN」が描いている2045年の世界ではすでに国家間の戦争どころか、宗教やイデオロギーの対立もなくなっています。でも、環境破壊と温暖化は進んでしまい、多くの国が海に沈み、今で言うGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)などの巨大企業が集まって、太平洋上に浮島を作り、自分たちの都市国家を設立しているんですね。

「SHADOW NEWT 再生能力で目指すS級最強!」より。

葛西 一方、人類にも大きな変化が起きていて、とある事故によって約1500人に1人の割合で、地球上の生物や植物などの能力を取り込んだ姿に人が「進化」してしまう現象が発生する。

坂本 すると何が起きるかと言えば、「人」と「新しい人」の対立です。ハラリ氏が言う従来の「ホモ・サピエンス(人類)」とAIやバイオテクノロジーの進化によって生まれる「ホモ・デウス(神なる人)」の対立ですね。そういった話をチーム内で話した結果、みんなが不安になった。自分たちが生きている可能性がある時間内に、高い確率でそんな危機が起きるかもしれない、と。

葛西 「そういう危機を救ってくれるヒーローってどんな奴だろう?」とメンバーで何時間も話し合って、帰ったらみんながそれぞれにヒーローを作って、そのヒーローがどうやって問題を解決するかを物語にする。そんな感じで「MASKMEN」は作られているんです。正解はわからないけど、未来のためにとにかく考えよう、そのためにマンガを描こうって。

──架空社会の中で起こっている危機を、クリエイターがどう解決するかを考えながら描いていく。そこで示されるのが「これからの正義」なんですね。

坂本 旧人類と新人類、ヒーロー(正義)とヴィラン(悪)の対決って、それこそ「X-MEN」をはじめいろいろな作品で扱われていると思うんです。でも、僕たちは2020年という今の時代から見た、リアルな近未来について考えて描きたい。それはもはや絵空事ではなく、今の僕たちのいる世界と地続きのリアルな問題ですよね。もちろん少年マンガなので、アクション要素もいっぱい盛り込み、エンターテインメントとして面白いものを目指していますが、物語の背景にある「未来の危機」というテーマはしっかりと伝えていきたいなと思います。

葛西 すでに各タイトル10話以上、単行本で言えば3巻分くらい話ができているのですが、それぞれの物語同士が密接に関わり合っていて、面白い展開になってますよ。この時期に起きた事件が、まさかあの事件に影響を与えていた、みたいな。

──世界観を共有しているから、1つの物語で描かれたことがほかの作品にも繋がってくると。坂本さんが担当している「シャドウニュート」は、「イモリ」の能力を持ったヒーローが主人公ですよね。

「SHADOW NEWT 再生能力で目指すS級最強!」より。

坂本 そうですね。最初にZooさんと「ヒーローものをやりたいよね」って話していたときに、僕が「忍者のヒーローを描きたい」と言ったんです。日本国内に限らず世界中の人たちに読んでもらいたいと思ったときに、忍者って国外でも人気あるよね、と。とはいえ、具体的に忍者をどう描こうか悩んでたんですけど……実は、僕の妻がイモリを飼っていまして。

葛西 えっ、それは初めて知りました(笑)。

坂本 それで会議で「イモリの能力を持ってるっていうのは、どうですかね」と言ってみたら、すんなりと決まりまして。なんでもよかったわけではないけれど、少年マンガ的に映える能力が欲しいなと思ったときに、たまたま身近にあったイモリがハマったというか。

──壁をスイスイと走る感じは忍者っぽいですし、再生能力を持っているところも個性的でイモリという設定が生きていると感じました。作品ごとに異なるテイストやテーマを打ち出していると最初にお話されていましたが、「シャドウニュート」はかなり王道の少年マンガですよね。

坂本 最初はあまりジャンルについて深く考えていなかったんですよ。自分がやりたいものをやろう、と思ったときに出てきたのが少年マンガだっただけで。今となっては僕は少年マンガ、「シャーリー」は少女マンガ、「JACK FOX」は青年マンガって、棲み分けは完全に意識しているのですが。

葛西 坂本さんたち作家さんが3人で話し合ったときに、なんとなく被らないようにした結果かな、と思います。お互いに影響を受けあっていて、「向こうがそれを描くなら自分はこれを描こう!」というコンセンサスが自然発生的にあったのかも。

できる限り世界に対してオープンに、そのためのWebtoon形式

──先ほど「世界中の人たちに読んでもらいたい」とおっしゃいましたが「MASKMEN」作品は、Webtoonのフォーマットになっているのも特徴的ですよね。

「SHADOW NEWT 再生能力で目指すS級最強!」より。

葛西 サイコミのリリース当初はそういう設計はまったく考えていなかったのですが、時代の流れを見たときに「いずれはやらなくてはいけない」とも思っていました。「MASKMEN」を立ち上げるに当たって石橋さんや坂本さんらの要望もあり、思い切ってサイコミでWebtoon作品を掲載できるようにシステム改修を行いました。いろんな意味でめちゃくちゃ大変でしたが……(笑)。

坂本 本当にありがとうございます! 最初は通常の日本的なマンガのフォーマットで作っていたんですが、世界で読まれるマンガを意識するうちにだんだん「Webtoonをやるべきでは?」という流れになってきて……。

葛西 サイコミとしても「これからはWebtoonの時代だよね」という話は出ていたので、いいタイミングでした。スマホの進化にともない、その画面に特化したWebtoon作品がこれからもっと流行することは想像に難くないし、そういう流れが来ているなら僕らも対応していくべきだと思ってました。

──坂本さんは「シャドウニュート」のネームに相当する部分を担っているとお話されていましたが、Webtoonと通常のマンガではだいぶ勝手が違うのでは?

左から坂本裕次郎、葛西歩編集長。

坂本 めちゃくちゃ研究しましたね。STUDIO SEEDのみんなもおっかなびっくりで、とにかく全員やってみようと描いて来るんですけど、最初は下手くそなんですよ(笑)。実績のあるプロの作家なのに、ですよ。

葛西 日本で馴染みのある横読みのフォーマットとは視線誘導の考え方が違うし、マンガの作り方がまったく異なりますよね。

坂本 とはいえ、より多くの人たちに読んでもらいたい、ヒーローの活躍を違和感なく楽しんで読んでもらいたい、そう考えたら必要な作業でもあって……。 できる限り世界にオープンにしたかったんですよね。僕たちが取り上げるテーマは世界的な問題なわけだし、世界中の人たちに読んでもらうことが優先事項だったんです。僕たちの考えた問題解決方法は「全然違うよ」と言われるかもしれないけど、考えるきっかけになるならば、それはそれでいい。

──世界中の人たちに読んでもらうとなると、翻訳版もリリースされるのでしょうか?

坂本 準備を進めています。それに絡めてYouTubeでの展開も考えていて、プロモーションビデオを作ったり、動画でマンガの配信もします。動画も今後、翻訳されたものを流せたらいいなと思ってます。


2020年3月2日更新