単行本の売り上げか、新規読者の開拓か

──アプリの配信開始、おめでとうございます。まずはWEBマンガサイトの裏サンデーをやっていく中で、アプリをやってみようということになった経緯を伺いたいのですが。

まずは、裏サンデー創刊時の考え方として……絵の巧拙はそこまで重視せず、ネット上に現れた才能たちの面白い漫画を、なるべく多くの人に読んでもらうんだ！というのがあったんです。僕らが昔読んでいた週刊マンガ誌は、玉石混交だったけれどバラエティに富んでいて、毎週楽しみに読んでたじゃないですか。だから普通に面白い連載マンガを全部無料でやっていったら、ファンがたくさん付いて、単行本も売れるんだと思っていたんですね。

──実際に裏サンデーをやってみて、その考え方は正しかった？

一部は合っていました。開設以降アクセス数は伸び続け、ユニークユーザー数は一時期100万人以上集まり、非常にたくさんのクリエイターの方が、連載権を懸けた賞に応募してくれて。例えば「懲役339年」で「次にくるマンガ大賞2015」の9位を取った伊勢（ともか）君とかもその1人です。一見成功したかのように見えたんですが……単行本が売れなかった。

──それだけの読者がいて、盛り上がっていてもそうなんですね。

読者の数は増えていってサーバーの負荷も上がり、いろいろなコストがかかってくる。それにも関わらず単行本の売り上げが伸びないというわけで、これは非常に苦しいという状況になりまして。それでほかのWEBマンガサイトと同様に、過去エピソードの公開制限をかけたんですね。実際そうしたら、次々と単行本に重版がかかり始めたんです。でも今度は、ユニークユーザー数が伸びなくなった。新しい読者が増えなくなってしまったんですよ。

──うーん、痛し痒しというか……。

本当にどうしようかなと思って（笑）。そんなときに裏サンデーで実施した「ビジネスパートナー募集」という企画で、開発会社のLink-Uさんからアプリを作らないかという提案があったんですね。

──なるほど、そこからはトントン拍子だったんですか？

僕は最初、アプリっていうのに懐疑的だったんですよ。審査もあるし、表現に制限もあるし、ブラウザで快適に見られるんだったら必要ないじゃんと思ってたんですけど……。でも実際に、ダウンロード数がすごく伸びているマンガアプリも出てきているわけで。それでアプリの業界について色々と調べていくうちに、もしかしたらここには、日常的に雑誌や単行本でマンガを読むコアなファンではなく、ライトに作品を楽しむ潜在的な読者がたくさんいるのではないかと。だったら新しい読者を開拓するチャンスがあるのではないかと考えたんです。

マンガ業界を上昇気流に乗せたい

──新しいエピソードを読むたびにポイントが費やされていく「ライフ制」というのが特徴的だと思うのですが、そのアイデアはどのようなところから出てきたんでしょうか。

ライフ制は開発会社さんからの提案でもあったんですが……全部無料で読めるという感覚も残しつつ、マンガ家さんが描いたコンテンツの価値を極力保つ、ということを考えた結果ですね。

──やはり無料で読める、というのにはこだわられたんですね。

世の中の流れとして、音楽でもなんでもそうですけど、コンテンツにお金を払うっていう考えがどんどんなくなってきましたよね。最初は僕らも、無料で読んでファンになってくれたら単行本を集めてくれるのでは、と思っていたのですが……。そこで今の時代に合わせて、無料で読めるけど、少し制限はあると。ハマって一気読みしたくなったら、単行本を集めなくてもこのアプリ内でライフを買えば読める、という新しい形を提案してみようと思いまして。

──なるほど。逆に言うと、単行本の売り上げにはこだわらないということですか。

もちろん売れたほうがいいんですけれど……単行本は買わないけれど、毎週読むのは楽しみにしていた作品ってありませんでしたか？ 雑誌を買ったら必ず最初に読むギャグ、とか。単行本の売り上げが重視される今の時代でも、このアプリの方式で収益が出れば、そういう作品が得意なマンガ家さんの連載を載せることができるし、原稿料と印税以外にもお支払いできるものが生まれるんですね。絵がちょっと未熟でも、あまりにも独創的すぎる作品であっても、僕ら自身が読みたい作品を育てられる。

──マンガ業界の裾野を広げることができると。

ええ。「マンガって、こんなに面白くて可能性がある表現方法なんだ！」ということをよりたくさんの読者に伝えたい。その小さなチャレンジが裏サンデー、ひいてはMangaONEでやっていることですね。