性格はシェイドよりちょっと悪め?
──たんぽぽとシェイドについては、それぞれどんなキャラクターだと感じましたか?
まず、名前がいいですよね。「魔法少女ダンデライオン」ってそういうことか!って、たんぽぽちゃんを見てすごく納得しましたし。あと、彼女のちょっとドジで、それでいて確固たる芯のある感じがめちゃくちゃ素敵だなと思います。
──つい応援したくなる主人公ですよね。
特に印象的だったのは、シェイドはたんぽぽのことを「まぶしい存在」だと言うけれど、そのたんぽぽもまた、シェイドのことをそう思っているところです。そこがすごく面白い対比だなと思いました。たんぽぽは、自分が意図していない言葉で相手の心を動かしてしまうようなところがある。だからこそ、シェイドも本来は敵であるはずの彼女を守りたくなってしまうんだろうなと感じました。
──シェイドはたんぽぽのことを守る一方で、陰のあるキャラクターですが、どう思われましたか?
すごく好きなタイプのキャラクターです。でも、シェイドのようなキャラクターって、2.5次元の世界だと割と背の高い方が演じることが多いんですよね。だから最初にこのお話をいただいたときは、正直「僕でいいのかな?」と思いました。第一に、シェイドをイメージした撮影というコンセプトがあったので。
──撮影中は一同、大絶賛でしたよ!
本来はすごく好きで、しかも自分的には得意なタイプの役でもあるのに、自分の体格や頭身的には、普段なかなか演じる機会のないキャラクター。だから、今回こういう形でシェイドを表現させていただけたことは、本当に光栄だったなと改めて思います。
──得意なタイプの役というのは、ご自身と重なるところがあるから……?
そうですね。僕はシェイドより性格が悪いかもしれないです(笑)。愛情表現があまり素直じゃないというか、好きな子にはちょっと意地悪したくなるタイプなんです。でも、好きな人を思う強さみたいな部分は、すごく近い気がします。
正義と悪は簡単に変わってしまうもの
──2人のほかにも、本作には妖しい雰囲気をまとう怪人や、可憐で気高い魔法戦士たちが登場します。気になったキャラクターはいますか?
鏡の怪人・アリスは、なんだか切なくて心に残りました。この作品における怪人側、いわゆる敵の背景には、切ないストーリーが隠されているんですよね。そこはぜひ注目してほしいです。そして、今一番気になっているのはなんと言ってもアイシー! シェイドと深い関わりのある彼がこれからどうなっていくのか、すごく気になります。
──アイシーは、最新3巻でも要チェックなキャラクターですもんね。
反対に人間側でいうと、瑠璃彦のように、本当は思っていることがあるのに、うまく発散できない……そんな現代人の心の弱さみたいな部分にも共感しました。あと、僕は強い女性が好きなので(笑)、ぼたんさんがいいなと思いました。強くて刀を使う女性、大好きです!
──本作では、そんな魔法少女と怪人の間で、正義と悪の境界が揺らいでいます。植田さんご自身は、正義と悪をどんなふうに定義していますか?
正義と悪って、どちらの視点で見るかによって、まったく違って見えるものだと思います。それこそ「魔法少女ダンデライオン」の世界だって、主観が変われば魔法少女側が悪とされるような、ひっくり返った世界線だってあり得る。
──なるほど。どちらの側から見るかで、正義も悪に姿を変えると。
日常でも同じようなことがあると思うんです。自分ではよかれと思って放った言葉や行動が、意図せず誰かを傷つけてしまうこともある。例えば、インタビューや人前で話した言葉が、切り取られ方ひとつで全然違う意味に受け取られることもあって。そうなると、僕は悪になってしまう。だから結局、正義や悪って、受け取る人や立場によって簡単に変わってしまうものなんだと思います。
──その中で、植田さんご自身はどのように折り合いをつけているのでしょうか?
自分の発言や生き方を「正義」だと決めつけずに生きるようにしています。今はSNSの普及で、匿名で何でも言える時代じゃないですか? そこで、顔も名前も出さずに一方的に人を傷つけるような言葉を投げることは、僕の中では間違いなく「悪」だと思っています。
──おっしゃる通りです。どんな理由があっても許されないことです。
でも、その場所で発言している人にとっては、それがその人にとっての正義なのかもしれない……。そういったこと1つひとつに反応していたら、きっと心がもたなくなってしまうと思うんです。だからこそ、「これは自分の正義」「これは相手の正義」といちいち定義づけることにこだわらず、少し距離を取るようにしています。それが、今の僕なりの折り合いのつけ方ですね。
情報が速く流れていく時代だからこそ響く作品
──もう1つ、作品にちなんでお聞かせください。本作は正義と悪の意外な関係性から物語が大きく動いていきますが、植田さんにとって、今年「意外だったこと」や「意外な出会い」はありましたか?
今年、お芝居の演出を4本ほどやらせていただいたのですが、その中で主演を務めながら演出もするという初挑戦がありまして。もちろん大変なのは覚悟していたんですけど、実際にやってみると想像以上にハードで……。どんどん自分を追い込んでいくうちに、「自分って、こんなふうになるんだ!」と驚くくらい、いい意味で心が擦り切れて、結果的に落ちるところまで落ちたんですよ。
──それほどまでに、深く作品と向き合われたんですね。
そのとき、自分の中にこういう弱い部分があったんだなって気づいたんです。もう36歳になりますが、まだ知らなかった自分の一面に出会えたと言いますか。それが、今年一番の意外な出会いだったかもしれません。まあ、めちゃくちゃ闇の部分だったと思いますけどね(笑)。
──たくさんのお話をありがとうございました。最後に、まだ作品を読んでいない方に改めて「魔法少女ダンデライオン」をおすすめするとしたらどんな言葉で伝えますか?
今って、流行っているものが、TikTokやショート動画、サブスクの倍速再生とか……とにかく短い時間の中に情報が詰め込まれている時代じゃないですか。もちろん、自分の好きなものだけを選んで集中できるのはすごくいいことだと思うんですけど、一方で時間の流れ方がどんどんタイトになってしまって。いろんなものに触れたり、じっくり浸ったりする機会が少なくなっているようにも感じるんです。
──情報の消費スピードが速い分、見失っているものもありそうです。
でも「魔法少女ダンデライオン」は、まさにそういう時代だからこそ響く作品だと思います。最初のページから、作者が「私が思う、面白いはこれだ!」と言わんばかりにまっすぐに世界を提示してくれる。しのごの言わずに、作品そのものの力でドーンッと魅せてくれるんです。僕が何も言わなくても、1ページ目を開いた瞬間にその世界に吸い込まれると思います。それに、この作品はファンタジーでありながら、誰かを思い合う……そんな感情の部分がすごくリアル。だからこそ、読んでいて心が熱くなるんです。もし最近ちょっと冷めてるなって感じている人がいたら、ぜひ手に取ってみてほしいです。
実はこの日のために、イラスト色紙を用意していた水帆先生。撮影を終えた後、植田さんに直接手渡しました。シェイドとたんぽぽ、そしてご自身が並んだイラストを見た植田さんの反応は──?
まさか色紙をいただけるとは思っていなかったので、本当にうれしい! 特にシェイドと僕が同じポーズをしているところに感激です。こうして見ると、自分のちょっと生意気に笑ったような口元がシェイドと似てますね(笑)。ありがとうございます、大切にします!
プロフィール
植田圭輔(ウエダケイスケ)
9月5日生まれ、大阪府出身。2006年に「ジュノン・スーパー・ボーイコンテスト」ファイナリストに選出され、翌2007年の舞台「少年陰陽師《歌絵巻》」にて主演デビュー。2022年に俳優生活15周年を迎え、約120作以上の舞台に出演。主な出演作に、舞台「鬼滅の刃」シリーズ(我妻善逸役)、舞台「東京リベンジャーズ」シリーズ(松野千冬役)、舞台「刀剣乱舞」シリーズ(大和守安定役)などがある。2018年にはヤマハミュージックコミュニケーションズよりCDデビューするなど、音楽活動も行っているほか、演出家としても精力的に活動中。


