冬目景「空電ノイズの姫君」玉置勉強「彼女のひとりぐらし ツーアウト満塁」|同じ漫研出身! でも作風はまったく異なる2人が“あの頃”と互いの最新作を紐解く

男性作家にしか描けない女の子のかわいさ

──では玉置さんの「彼女のひとりぐらし ツーアウト満塁」についても伺わせてください。主人公のアラサー独身女性・輿水理香は、冬目さんの目にどう写りましたか?

「彼女のひとりぐらし ツーアウト満塁」より、妹に結婚を勧められる理香。©玉置勉強/幻冬舎コミックス

冬目 友達にこういう人いるなと思いながら読んでました(笑)。

玉置 女性から聞いた話をネタにすることもあるので、そこはリアルかも。

冬目 理香はダメな感じの女の子なんだけど、ちゃんとかわいげがあって、友達にしたいタイプですね。一緒に飲みに行ったら楽しそう。なんというか放っとけない感じで。そう感じるのは男性目線でキャラが描かれているからですかね。

玉置 そうなんです。ちょっとだらしない女性の暮らしぶりを“男目線”から描くというのがこの作品のコンセプトでした。

「彼女のひとりぐらし」より、深夜にジャージ姿でコンビニを訪れた理香。イケメン店員を目にしあらぬ妄想を始める。©玉置勉強/幻冬舎コミックス

冬目 だらしない女の子を同性が描くと、コメディにしても目線がもっと厳しくなっちゃうと思うんですよ。

玉置 でしょうね。そうなるとたぶんマンガの方向性は違うものになる。自分の読者は男性が主なので、読者サービス的なところは意識しますが。一方で女性の生態をあんまり生々しく描くと、男性読者では引く人もいると思うし。

冬目 それで男女どちらが読んでも「ダメだけどかわいいな」と思える落としどころを見つけているんですね。

「彼女のひとりぐらし ツーアウト満塁」より、理香は友人の伊香から彼女の元夫との性事情を聞かされる。©玉置勉強/幻冬舎コミックス

玉置 「男女関係なく人間としてこういうだらしないのってダメだよね」みたいなユルい感じで。まあそもそも自分が男だから、女性の心理みたいなものをメインに据えたら、女性作家には敵いませんよ。理香だけじゃなく専門学校時代の友達の伊香にしても妹の祐香にしても、僕が普段女の子に対して無意識にかわいいなと思っている部分を形にして描いているつもりです。

冬目 ちゃんと伝わってますよ!

玉置 でも、冬目さんが描く女の子のかわいさはずるいなと思ってますよ。

冬目 えっ、どういう意味ですか?

「彼女のひとりぐらし ツーアウト満塁」より、理香のカラーカット。©玉置勉強/幻冬舎コミックス

玉置 ここはないものねだりなんですが……どうがんばっても男には描けないかわいさがあるんですよ。絵柄の話じゃなくて、女性が描く女の子のかわいさってしっかり中味があるんです。性格の裏付けがあって、それがちょっとしたセリフやしぐさに出てくる。キメの見せ場に限らず、ちょっとした会話やしぐさ、間とか。そこにガツンとやられることが多いですね。

──「彼女のひとりぐらし ツーアウト満塁」は、その前に描かれた「彼女のひとりぐらし」から2年後の設定なんですよね。

玉置 「彼女のひとりぐらし」が2012年に完結してから、「ツーアウト満塁」を描くまでにけっこう間が空いちゃったんですよね。とは言え実際の時間に合わせて歳をとらせちゃうと理香がかわいそうなんで、2年くらい経過したことにしようかなと。

冬目 さらに、理香のその後を描く構想はあるんですか?

玉置 たぶん描くことないと思いますね。まあ作中では理香の人生は続いていきますけど(笑)。

「彼女のひとりぐらし」より、「女は選ぶ方の性だからモテないはずがない」「可愛い女の子には絶対に彼氏がいる」というテレビやネットの意見に、ビール片手に反論する理香。©玉置勉強/幻冬舎コミックス

──では最後に改めて、読者に一言ずつメッセージをいただけますか。

冬目 手に取っていただいて、楽しんでもらえたらうれしいです!

──ありがとうございます。ちなみに玉置さんの「彼女のひとりぐらし」は「ツーアウト満塁」の刊行に合わせて、前シリーズ「彼女のひとり暮らし」3巻分を1冊にまとめて番外編を追加した「彼女のひとり暮らし 大盛」も発売されるんですよね。

玉置 はい。通しで読むとよくわかるので、「大盛」のほうも、持ってない方はぜひ買ってください。前の3巻を持ってる方も……もし数ページの特別描き下ろしのために買ってくださるのでしたらよろしくお願いいたします!

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2017年5月24日発売 / 幻冬舎コミックス
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輿水理香、28歳独身。そろそろ彼氏をつくって結婚したい、ひとりぐらしのフリーランサー。「いい男をつかまえて、キラッキラの女になってやる!!」…とは言ったものの、彼氏ってどうやってつくるんだっけ?
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冬目景(トウメケイ)
冬目景
神奈川県生まれ。1992年、コミックバーガー(スコラ)で「六畳劇場」を発表しデビュー。コミックバーガーおよびコミックバーズ(幻冬舎コミックス)で連載した「羊のうた」は、第6回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の審査委員会推薦作品に選出され、映画、OVA、ドラマCDなどさまざまなメディア展開が行われた。このほかの代表作に「イエスタデイをうたって」「マホロミ」など。現在月刊バーズ(幻冬舎コミックス)で「空電ノイズの姫君」、グランドジャンプ(集英社)で「黒鉄・改 KUROGANE-KAI」を連載中。
玉置勉強(タマオキベンキョウ)
玉置勉強
1973年生まれ、東京都出身。成年向け作品を中心に執筆した後、1998年にヤングマガジンアッパーズ(講談社)で、「恋人プレイ」の連載をスタートさせ一般誌での活動を開始する。その後月刊コミックバーズ(幻冬舎コミックス)で「東京赤ずきん」「彼女のひとりぐらし」、ヤングチャンピオン(秋田書店)で「ちっくたっく」、NEMESIS(講談社)で「猫まち主従」といった作品を発表。マンガ家のほかに4人組バンド・砂利道のボーカル、ギターとしても活動している。