西村純二×押井守のアニメ「火狩りの王」久野美咲、石毛翔弥、早見沙織、細谷佳正は重厚なファンタジーをどう読み解いた? (2/2)

綺羅役・早見沙織インタビュー

燠火家で生まれ育った少女が、次々と新しい扉を開けるさまを演じるために

──早見さんが「火狩りの王」出演についてのお話を伺ったのは、かなり早いタイミングだったそうですね。

そうなんです。それに、普段の作品ならアフレコが始まる頃にキャラクター設定画が来る、ということもあるんですが、「火狩りの王」は先んじて設定画やほかのキャストさんについても伺っていました。なので、当日にその人とどんな感じでお芝居をしていくのか考えながら、台本を読んでいましたね。

早見沙織

早見沙織

──綺羅というキャラクターの第一印象はいかがでしたか?

とても可憐で、気品のある女性ですよね。空気感やしゃべり方も上品で、ただのお姉さんキャラクターではない雰囲気を纏っているように感じました。でも、緋名子のことは大好きで、彼女に対するイメージとは違うあどけない表情を見せるんです。なので、気品があるイメージだけに囚われずに演じていきたいと思いながら、役作りを進めていきました。

──その気品があるのは、燠火家という不思議な環境にいることが大きいですよね。

はい。綺羅は自分が今いるお屋敷や両親に対して親しみを持って接しているんですけど、胸の中にほんの少し違和感を抱えているんですよね。環境も相まって生まれてしまった影を抱えつつ、彼女は生きているんです。

アニメ「火狩りの王」より、綺羅。

アニメ「火狩りの王」より、綺羅。

──そもそも「火狩りの王」は人類最終戦争後の世界を舞台にしたファンタジーものです。燠火家の境遇もやはり世界観があってこそですが、この設定面に関して、早見さんはどのように受け止められましたか?

すぐに理解できるかどうか怪しいくらいには、世界観の設定が難しいですよね。それだけ独自の世界観が作り込まれている本格的なファンタジー作品だけあって、「火狩りの王」でしか描けないものがあるように感じました。その一方で、燠火家には少し前の日本でもあったかもしれないと思う要素があって。描かれているのは未来のはずなんですけど、私たちが辿り着いた先にこんな世界があるんだなと思うと、考え込んでしまうと言いますか……。

──現代日本の情勢にも繋がる部分が描かれていますよね。

怒濤のように世界が移り変わっていく今に通じていて。ファンタジーとして作り込まれた物語ではあるものの、今を生きる私たちに刺さる要素がたくさん描かれているんですよね。

──その物語を構成する一要素として早見さんは綺羅を演じています。演じる上で特に意識されたことはありましたか?

世界観をすでに把握している私とは違い、綺羅はあまり真相を知らないわけです。どうしても台本には綺羅の出てこないパートも載っていますし。なので、綺羅が無意識に言葉を発しているように意識をしていましたね。音響監督の若林さんから、「少し空気が明るくてもいい」とディレクションが入ったので、重厚感のある作品ではあるものの、明るい独特の雰囲気を出していければいいなと感じています。

──やはり作品内容を熟知していると、またお芝居も変わってきてしまうものなんですね。

本当は見ていないはずのシーンまで知ってしまいますからね。その塩梅にはかなり気を使いました。原作を読んだときには、このシーンでは綺羅がどんなことを考えていたのか、どんなことをイメージしていたのかということも頭の中で考えていましたね。

早見沙織

早見沙織

──原作を読まれた際の印象はいかがでしたか?

綺羅を演じるということを念頭に読んでいたんですが、人間の感情や、これから世界に起こるさまざまな物事が生々しく描かれている物語だと感じました。その中で、灯子や煌四が大人たちの思惑が渦巻くなか、未来を見据えて生き抜いていく。言葉では表せないような心の奥深くにある感情が捉えられている作品でした。

──綺羅を演じるうえで読まれると、やはり燠火家について気になったのではないでしょうか。

もちろんです(笑)。綺羅は燠火家との関わりが強いですし、そこで生まれて育った少女です。でも、灯子たち新しい存在との出会いがあることで、綺羅の世界も広がっていきます。そこから彼女の物語が始まるので、その点もぜひ注目していただきたいですね。「この人は何を考えているんだろう?」とか、探りながら観る楽しさもあると思います。綺羅のほかにも魅力的なキャラクターがいっぱいいるので、楽しみにしていただけたらうれしいです。

──では最後に、早見さんが考える見どころをお教えください。

綺羅は燠火家という場所から、灯子たちとの出会いを機に次々と知らない扉を開けて「火狩りの王」という物語の奥深くに潜っていきます。その気持ちに没入しながら、ぜひ観ていただきたいですね。独特な世界観のもと描かれるお話なので、ちょっとした非日常を味わいたいときにもオススメです。でも、ふとしたときに、現実社会に通ずるお話が盛り込まれて、不思議な感覚に引きずり込まれると思います。その感覚も楽しみにしながら、放送をご覧になってくださるとうれしいです!

プロフィール

早見沙織(ハヤミサオリ)

5月29日生まれ、東京都出身。アイムエンタープライズ所属。主なアニメの出演作に「SPY×FAMILY」(ヨル役)、「うる星やつら」(おユキ役)、「ONE PIECE」(ヤマト役)、「鬼滅の刃」(胡蝶しのぶ役)、「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」(レオナ役)、「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」(ララァ・スン役)などがある。趣味はピアノ、料理、音楽鑑賞、映画鑑賞。

衣装協力
ワンピース / BELPER
アクセサリー / Lybius

炉六役・細谷佳正インタビュー

僅かな設定からキャラクターを膨らませてアフレコに挑む

──本作の印象は?

音響監督の若林和弘さんと、押井守さんが脚本で関わっているので、「高級感のある作品」という印象でした。ファンタジーではあるんですけど、世界観の設定が現実的にもあり得るかもしれない雰囲気で、それが押井さんの作品らしいなという感じが個人的にしました。

──細谷さんが演じる炉六について、どのような第一印象を抱かれましたか。

最初にもらった資料に「謎の多い男で、凄腕の火狩りである」というのがありました。音響監督の若林さんとは若い頃から仕事を一緒にさせていただいていて、当時は線の細い役だったり、少年の役で現場に入ることが多かったんですけど、時間が経つにつれていただく役もだんだんと変わっていきました。炉六役に決まったときは、「そろそろこういう役をやってみれば?」ということなんだろうなと。炉六のキャラクタービジュアルを見たときに、外国映画の吹き替えをされているようなベテランの声優がアフレコしそうなイメージを持ちました。

細谷佳正

細谷佳正

──若林さんや西村純二監督と一緒に、アフレコのたびにディスカッションなどをしてキャラクターを深めていったと思うんですが、演じながら変わった点や役をつかんでいった点はありますか?

音響監督や監督からの具体的な指示が多いのは、たいていの場合初回のアフレコだけなんですよ。そのときに、炉六の正体が不明で、火狩りとしての技術力は高い、という説明を受けました。そこからは自分で炉六の目つきや表情、言動から想像していくんですけど。監督の指示が、典型的な豪快で体育会系なキャラクターを望んでいるように感じたんですね。ただ自分ではそうは感じなかったので、自分が感じたものを、やりたいようにやりました。

──自分のやりたい人物像とは?

僕は、役を任されている自分が一番その役をわかっていると考えているんですね。そのほうが自分がやる意味があると思うので。炉六は火狩りのエキスパートという設定で。狩りの経験値は高いと思うし、炎魔とか落獣に関する知識はほかの火狩りよりたくさんあるだろうと思いました。だから狩りの最中も冷静でいられるし、心拍数が乱れることも、動じることもないというか。その動じない雰囲気を「この人強いんだな」と視聴者に感じてもらえたら「凄腕の火狩り」という設定に説得力が出るんだろうなと。なのでそんな雰囲気で作っていきました。それで録り直しはなかったので、多分よかったんだろうなと(笑)。

細谷佳正

細谷佳正

──こういうところを序盤から見ておくとこの先面白くなるかもというところは?

話が難しいので、原作を読んでいるとわかりやすいのかなと思います(笑)。セリフの中に情報量が多いので、ながら見だと厳しいかもしれないんですけど、それを面白がって観ていただけたら大丈夫なのかなと思います。放送時間の都合もあって原作と変わっている部分はたくさんあるとは思うんですけど、長セリフに注目してもらえれば、多分ストーリーを見失うことはないなと思います。

──細谷さんが観てほしいところは?

押井さんが連続アニメの脚本を書いて作ることは自分が知っている限りですけど、久しぶりのことだと思うんですね。たくさんある人気作品とは雰囲気も質感も違うし、世界観は独特ですし。なんとなく押井さん特有の「簡単には理解させない感じ」があるじゃないですか。そういう雰囲気はほかと違って面白いと思うので、物語全体ですかね。

細谷佳正

細谷佳正

プロフィール

細谷佳正(ホソヤヨシマサ)

2月10日生まれ、広島県出身。主な出演作は「クレヨンしんちゃん」(野原せまし)、「風都探偵」(左翔太郎)、「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」(オルガ・イツカ)、「TRIGUN STAMPEDE」(ニコラス・D・ウルフウッド)、「シャン・チー/テン・リングスの伝説」(シャン・チー)、「FBI:インターナショナル」(スコット・フォレスター)などがある。

衣装協力
YOHJI YAMAMOTO Inc.