石ノ森章太郎・三条陸・佐藤まさき「風都探偵」|しいはしジャスタウェイ(御茶ノ水男子)「仮面ライダー初心者でも、探偵ドラマとして純粋に楽しめる!」「仮面ライダーW」の正統続編マンガ

子供向け番組と、青年誌連載の違い

桐山漣と菅田将暉が揃って登場し話題を呼んだ、週刊ビッグコミックスピリッツ2017年44号。

──それだけ絶賛されている「仮面ライダーW」の続編「風都探偵」ですが、去年の夏に「『W』の続編が始まる」という告知がまず出ると、ネット上でかなり話題になりました。しいはしさんは聞いたとき、どんなふうに思いましたか?

正直に言っていいですか? ……心配でした。

──映像作品だと思いました?

はい。マンガだって聞いて、「え、続編の世界観を? できるのかな……」と思いました。

──続編となるとさらに表現が難しいのでは、と?

そうですね。「仮面ライダー」のマンガは、「仮面ライダーSPIRITS」とかいろいろありますけど、「W」って情報量が多いので。実写の見どころであるアクションも、どうなるのかなあと。でも実際に連載が始まってみて読んだら、それは杞憂でした。佐藤さんの絵がすごくきれいで魅力的で。実写にはいなかった、ときめ、という女性キャラクターが、Wと初めて出会う目線で翔太郎たちと接するから、彼女がいることで知らない人でも読みやすくなってますよね。すごく安心しました。

「仮面ライダーW」未見の読者にも、わかりやすく解説が。

──仮面ライダーではお馴染みのフォームチェンジも、ときめが「色が変わった!」と逐一驚いたりすることで、自然に解説が頭に入ってきますもんね。

マンガだと白黒だから色の違いを表現するのも難しいと思うんですけど、あれは親切ですよね。

──「仮面ライダーW」は、毎回依頼人やキーパーソンとして美女が多く登場するのも特徴でしたが、しいはしさんから見て、ときめは……。

いや、もう、エロすぎです。

──(笑)。

翔太郎が心を惹かれるのがわかるくらい、魅力的で放っておけないというか、気になる存在です。最初の事件が終わってもう出てこないのかと思ってたら、レギュラーキャラとして戻ってきてくれたので、すごくうれしかったですね。

「風都探偵」第1話より。

──ときめは一糸まとわぬ入浴シーンなども披露してくれていますが、子供向けという前提があるニチアサ(※4)とは異なり、今回は青年誌での連載です。そこの違いは感じますか。

お色気に関しては、もう「ありがたい」としか言いようがないですが(笑)、だいぶ違いは大きいですよね。第1話の最初のページから、切断された人間の腕がポロッと。死体の描写もごまかさずに描かれている。

──ニチアサでは絶対にできない描写ですよね。

こういうふうに思い切り死体がドーンって出てくると、よりミステリーな感じが強まって、仮面ライダーのマンガだってことを忘れちゃいますね。ニチアサでも、結構民間人とかがバンバンやられてるんですけど、改めて「こういうことなんだよな」と思います。

──「こういうこと」?

例えばビルが潰れて人が犠牲になったりするシーンは、ニチアサでは直接的に描写されることはないですけど、「風都探偵」を読むと、「人が死ぬとか傷つくって、このくらい残酷なことなんだよな」って実感するんです。だから怪人の恐ろしさも、余計に伝わってくる気がしますね。

しいはしジャスタウェイ

しいはしジャスタウェイ's point!

4. ニチアサ
日曜日の朝、テレビ朝日系列にてプリキュア、仮面ライダー、スーパー戦隊各シリーズの作品が連続して放送される流れの俗称。2007年から2011年までは、上記3作品に「古代王者 恐竜キング」や「バトルスピリッツ」シリーズを加えた朝7時から9時までの2時間が「ニチアサキッズタイム」という公式名称だった。[↑戻る

表現媒体が違っても、ちゃんと“続編”してる

「風都探偵」第1話より。風都イレギュラーズの面々も登場。

──キャラクターの造形についてはいかがですか。翔太郎の髪型が少しパーマっぽくなっていたり、フィリップの髪が緑色になっていたり、マンガらしいアレンジが加えられていますが。

翔太郎は、まさに探偵という感じの、松田優作さんみたいな外見で。でも特徴をよく捉えてると思います。マンガなんだけど、表情が俳優さんに似てるんですよね。照井とかほかのキャラもみんな。だから抵抗なく入っていけました。ドラマでは単発のゲストキャラだったリリィ白銀とか、AKB48(当時)の板野(友美)さんと河西(智美)さんがやってたクイーンとエリザベスとか、風都の住人(※5)もいっぱい出てくるし、みんなそっくりで。鳴海探偵事務所の部屋の中も、再現度がすごく高いですよね。

細かいところまで再現して描かれた、鳴海探偵事務所の内部。

──翔太郎の帽子掛けからソファ、机まで、とても細かく描写されています。

逆に翔太郎の部屋とか、ドラマでは出てこなかったものも描かれていたりするので、それもまたうれしい。この作品を読んでると、セリフが俳優さんの声で脳内再生されるんですよ。それぐらいやり取りが、ドラマと同じくらい自然に描けていますよね。

──亜樹子と翔太郎のワチャワチャとした掛け合いだったり、スリッパでのツッコミだったり。

ドラマを思い出しますね。セリフの言い方ひとつとっても、「ああ、このキャラはこうだったな」って、記憶が蘇ってくる。表現媒体が違っても、ちゃんと“続編”してるな、と思います。

──同時発売される1、2巻には全部で3つの事件が収録されていますが、特に印象的だったシーンはどこですか?

ドラマでも活躍していた猫のミックが出てくる、「cは何処に」の事件が好きですね。亜樹子が最後に起こすアクションとか、自分のお父さんのことを思い出しての行動というのにすごくグッときました。

「仮面ライダーW」でもおなじみ、猫になりきる翔太郎。

──「仮面ライダーW」の第33話「Yの悲劇/きのうを探す女」で猫探しを依頼された翔太郎が、「奥の手だ」と言って「にゃーお」と猫のマネをして探そうとするも、亜樹子にスリッパで頭を叩かれる描写がありましたが、ドラマで桐山さんがコミカルに熱演していたその部分がマンガでまた見られるのもうれしいですよね。

その翔太郎を見て「ちょっと可愛い」って思うときめがまたいいですよね。このエピソードに「W」らしさがギュッと詰まっていると思います。

しいはしジャスタウェイ

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5. 風都の住人
「仮面ライダーW」では、クイーンとエリザベスのほか、なすび演じるウォッチャマン、腹筋善之介演じるサンタちゃんという個性豊かな風都の住人がサブキャラクター勢、通称“風都イレギュラーズ”として登場。「風都探偵」第1話でもモブキャラとして描かれている。[↑戻る

せめてトライドロンだけでもいいから!

「風都探偵」より、仮面ライダーW。

──仮面ライダーWへの変身は、第5話の最後のカラーページでやっと披露されました。

もう「仮面ライダー」というよりは、「風都探偵」という探偵モノのマンガとして引き込まれていたので、「5話まで引っ張ったなー」とは全然思わなかったです。変身しなくても満足してました。とはいえ、僕はなんといっても変身後が好きなので、マンガだと一時停止しなくてもじっくり見られてうれしいです。

──多くの仮面ライダーやスーパー戦隊の変身ポーズを習得されているしいはしさんにとっては、資料としてもとても貴重ですね。

本当ですよ! 年々仮面ライダーもスーパー戦隊も増えて、僕の脳の容量が追いつかないくらい、ポーズが膨大な量になってますから(笑)。あと、翔太郎とフィリップの主従が逆転するファングジョーカーのフォームでは、吹き出しの色がちゃんと反対になっていたり、映像ではあっさり表現できたけどマンガでは難しいところも多いと思うんです。それも丁寧に説明してくれているので、わかりやすいなと思います。

──ほかに、ファンとしてニヤッとしてしまった「風都探偵」のポイントはありますか?

しいはしが注目したのは、ホワイトボードに書かれた「タイヤキ」の文字。

挙げたらキリがないです! サブタイトルに毎回使われているアルファベットは、テレビシリーズで大文字をすべて使いきっちゃってるから小文字なんですよね。すごく芸が細かいと思います。あとは……2話でフィリップがホワイトボードに「タイヤキ」って書いてるんですけど、あれってドラマの1話で「たこ焼き」(※6)って書いてあったのに関連してるんですよね。フィリップの中では、たこ焼きとたい焼きの間に知りたいことが膨大にあって、やっとたい焼きに行き着いたんだな……って、勝手に想像して楽しんでました(笑)。

──「W」は「仮面ライダーに興味のない人でも探偵ドラマとして楽しめる」と最初におっしゃっていましたけど、「風都探偵」にもそうした面はありますか?

「風都探偵」のほうがそういう面が強いと思います。タイトルに「仮面ライダー」と入れていないのも、作り手の意志が感じられますよね。だから変身が5話まで出てこなくても違和感はなかったし、いい意味で「W」の続編だって忘れられる。逆に「風都探偵」から入った人が、ほかの「仮面ライダー」シリーズを見てくれるようになったらうれしいですよね。

しいはしジャスタウェイ

──今後もいろんな事件やキャラクターが出てくると思いますが、期待することは?

「仮面ライダードライブ」(※7)のVシネマ(「ドライブサーガ 仮面ライダーチェイサー」)に、照井がゲスト出演してるんですよね。逆に……竹内涼真くんが演じてた泊進ノ介、仮面ライダードライブが、コマの隅っこでもいいから「風都探偵」に出てくれないかなって。

──「W」も「ドライブ」も同じ三条さんの脚本ですし、実現したら最高ですね!

難しいと思いつつ、期待しちゃいます。人物じゃなくて、せめてトライドロン(※8)だけでもいいから!と(笑)。

しいはしジャスタウェイ

しいはしジャスタウェイ's point!

6. 「仮面ライダーW」1話の「たこ焼き」
ある特殊な出自のため極端に常識知らずな一面があるフィリップ。第1話で亜樹子が「大阪知らないの? 少なくとも風都よりは有名では? たこ焼きとか……」と言ったことから、フィリップは初耳の「たこ焼き」という単語の検索に没頭し、しばらく使いものにならなくなった。[↑戻る
7. 仮面ライダードライブ
2014年より放送された、平成仮面ライダーシリーズ第16作。主役ライダーであるドライブが、「ライダー」の名前の由来であるバイクではなく、自動車に乗ることで話題を呼んだ。竹内涼真演じる主人公・泊進ノ介は警察官で、刑事ドラマの要素も取り入れている。[↑戻る
8. トライドロン
仮面ライダードライブ/泊進ノ介が使用する車。ただの移動手段ではなく、ドライブのフォームチェンジにあたる「タイヤコウカーン」の際にはタイヤ型の武装モジュールを射出する装置も兼ねている。[↑戻る
森章太郎・三条陸・佐藤まさき「風都探偵①」
2018年3月30日発売 / 小学館
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森章太郎・三条陸・佐藤まさき「風都探偵②」
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小さな幸せも、大きな不幸も、常に風が運んでくる風の街・風都。翔太郎とフィリップはその風都で鳴海探偵事務所に所属する私立探偵である。「街を泣かせる悪党は許さない」というふたりの元に、今日も数々の超常的な事件が持ち込まれる……!!

しいはしジャスタウェイ(御茶ノ水男子)
しいはしジャスタウェイ
1981年7月20日生まれ、千葉県我孫子市出身。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。趣味はヒーローショーを観ること、ヒーローを演じている人を誰か調べること。2018年5月3日より6日まで、東京・築地ブディストホールにて上演される「舞台版 まいっちんぐマチコ先生 ~こんな世界に誰がした?? 世直しバック・トゥ・ザ・ティーチャーの巻~」に、山形国男役で出演する。