桜が慎二くらい、魔術師としての才能がなければよかったのにね(川澄)
──第三章のアフレコに、奈須きのこさんは来ましたか?
下屋 いらっしゃってました。毎回来てくださいますね。
植田 奈須さんはいつも開幕の挨拶で「皆さんにお任せします。皆さんのほうが僕より知ってるから」って言ってくれるんです。
下屋 そうですね、「いつも通りでお願いします」って。私は個人的に確認したいシーンがあったとき、奈須さんや須藤監督のところに行ってお話しさせてもらいました。でも奈須さんから「ああしてください、こうしてください」ということはなくて、任せていただいてる感じでしたね。
──下屋さんは第二章の「わたし、処女じゃないんですよ?」という桜のセリフについて、「なぜ桜が士郎にこれを言わなければいけなかったのか」とすごく考えて葛藤したとおっしゃっていましたが、同じように第三章でも悩んだセリフはありましたか?
下屋 ひとつのセリフではないんですが、第三章では桜が凛に今まで言えなかった気持ち、ずっと自分の中で押さえ込んでいた思いをぶつけるシーンがあるんです。そこは何度台本を読んでも泣いてしまって。感情が昂ってしまい、困ったな、やれるかなって思っていたんですが、実際のアフレコでは佳奈ちゃんと一緒に演じられて、ずっと訴えたかったし、知ってほしかった十何年分の気持ちをぶつけました。
──桜が間桐家に養子に入ってからの十何年分の気持ちを。
下屋 ええ。桜は幼少期からずっと蟲蔵で体を変えられ、間桐家で過ごしてきて、魔術師としての自分を誇ったことはないと思うんですよ。どんなに一流の魔術師の才能があったとしても、凛と違ってそれを誇りには思えない。桜が凛に訴えた一言一言の意味や背景を考えると、セリフを発するのがつらいシーンでしたね。
──それを受け止めた植田さんはいかがでしたか?
植田 私個人の意見ですけど、凛に言われてもどうしようもないなと。
下屋 わー! 凛っぽい!
植田 もちろん第一章で蟲蔵を見た時点で、こんなひどい目にあってた、なんとかしてあげたかったという気持ちは凛にもあったと思うんです。でも凛は魔術の家系のサラブレッドでヤバい魔術も多いと知っているから、魔術に対してある程度諦めがある。だから「桜かわいそう、私が何もできなくてごめんなさい」ってふうにはならないんじゃないかな。でもそのシーンでは凛の甘さでありよさがかなり出ていて。私は凛を演じながら「甘いな」って思いましたね。
川澄 それは私も思った。
植田 でしょう?
川澄 TYPE-MOON作品を知れば知るほど、魔術師というものは根源に至るためには手段を選ばない存在だ、という認識になってしまって。おぞましいことでも「魔術師とはそういうもの」って思ってしまう。桜と凛のそのシーンを客観的に観て、則ちゃんの言ってる気持ちはとっても理解できるの。同じ姉妹である凛に一番知ってほしいって思い、間違いないと思う。だって、凛が間桐の養子になってた可能性だってあるわけじゃない。でもね、それが魔術、魔術師なんだって。魔術回路、一子相伝なんだもん。
植田 そう、凛が先に生まれちゃったんだもん。
川澄 残念だけど魔術ってそういうもんだよ。
下屋 それはわかるけど。それならせめて違う家に行きたかったあ(笑)。
植田 まさか蟲だとは思わないよね(笑)。遠坂は宝石(魔術)だからさ。
川澄 真逆だよね(笑)。
下屋 キラキラしてうらやましい……!
植田 凛は桜が間桐に養子に行ったことは、遠坂の魔術回路を桜に継がせられない以上、正しい選択だと思ってて。遠坂と同じくらい由緒正しい間桐の魔術回路をもらうなんて……。
川澄・植田 (声を揃えて)光栄なことだ、って!
下屋 でもね、桜は魔術師なんかに生まれたことを誇ってないと思うんですよ。いいんですよ、魔術回路なんていらないの。
川澄 虚数魔術もいらないよね。
下屋 そうですよ、全然いらないんです。先輩との日常だけでいいんです!
川澄 本当にね……。桜が慎二くらい、魔術師としての才能がなければよかったのにね。
下屋 能力が高いばっかりに。
……雁夜めええええ!(下屋)
植田 ちなみに私、(間桐)雁夜が逃げてなかったら丸く収まっていた気がするんです。
──虚淵玄さんの「Fate/Zero」に登場した雁夜ですか? 慎二と桜のおじさんの……。
植田 そうです、「Zero」のバーサーカーのマスター。雁夜は鶴野(慎二の父)よりも魔術の素養があったのに、魔術師になりたくないって間桐家から逃げたから、間桐純血の魔術師が絶えて桜が養子に行くことになっちゃった。雁夜が子供の頃からちゃんと修行して(第四次)聖杯戦争を戦ってたら、桜はあんな思いをしなくて済んだと思う。
──奈須きのこさんは「Zero」を「『Fate/stay night』と条件は同じだけど微妙に違う世界」と位置付けているので確かなことはわかりませんが、桜が間桐に行く必要はなくなりそうですね。
川澄 雁夜は、桜のためにと自分を犠牲にして、突貫工事の蟲修行で苦しんで間桐の魔術を継いだけど、そもそもは逃げずに最初から間桐の魔術を受け入れてたらあそこまでにはならなかったんじゃない?
植田 そうそうそう。
下屋 そっかあ、そこかあ……。私、雁夜おじさんが生きててくれたらなって思ってたんだけど、違うんだね。
植田 雁夜が逃げたせいだよ。
下屋 ……雁夜めええええ!
川澄・植田 (爆笑)
川澄 雁夜は桜に責任を感じて間桐家に戻ってきて、桜のヒーローみたいにも見えるけど、小さい桜はひどいこと言うじゃない。
下屋 「馬鹿な人」(アニメ版のセリフ)。
川澄 桜は全部わかってたのかな、と思うよね。
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戦うだけのマシーンのような気持ちで演じていました(川澄)