WOWOWの開局30周年を記念したオリジナル長編アニメ「永遠の831」が1月30日に放送される。同作で監督・脚本を務めたのは、「攻殻機動隊 S.A.C」「精霊の守り人」「東のエデン」といった名作アニメを生み出してきた神山健治。“未曾有の大災厄”によって世界中が混迷を極める現代を舞台に、心に傷を負ったことで“時間を止める力”に目覚めてしまった男女を軸にした物語が展開される。
コミックナタリーでは、アニメの放送を前にメインキャストである浅野スズシロウ役の斉藤壮馬、橋本なずな役のM・A・O、亜川芹役の興津和幸にインタビューを実施。考えるきっかけをくれる作品だと3人が口を揃える本作について、それぞれの思いを語ってくれた。
取材・文 / 粕谷太智撮影 / 中川容邦スタイリング(斉藤壮馬) / 本田雄己ヘアメイク(斉藤壮馬) / 三田彩聖スタイリング(M・A・O) / 長谷川香ヘアメイク(M・A・O / 興津和幸) / 福島加奈子
「永遠の831」とは
“未曾有の大災厄”により世界中が混迷を極める現代。
大学生のスズシロウは、高校3年の夏に起こったある事件をきっかけに、自分の意志とは無関係に周囲の時間を止められるようになってしまった。
誰にも言えない秘密を抱えるスズシロウだったが、そんなある日、自分と同じく、心に傷を負い、時間が止められるようになってしまった少女・なずなと出会う。
初めて秘密を分かち合える相手だと思ったなずなが、彼女の異母兄・芹によって犯罪に利用されていることを知ったスズシロウは、衝動的に彼女を救い出そうとするが……。止まってしまった時間を、2人は再び動かすことができるのか。
キャラクター
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浅野スズシロウ(CV:斉藤壮馬)
新聞販売店で働きながら都内の大学に通う青年。生真面目な性格で、自らはよかれと思った「行い」が原因で起きた事件により心に深い傷を負う。それ以来、自分ではコントロールできない“時間を止める力”を得る。
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橋本なずな(CV:M・A・O)
スズシロウと同じ“時間を止める力”を持つ女子高校生。両親はすでに他界しており、異母兄である芹と都内で二人暮らしをしている。心優しい性格でありながら、唯一の肉親である芹の犯罪を止めることができず、やむを得ず力を貸している。
斉藤壮馬インタビュー
観終わった後に、考えるところまで含めての物語
──本作のシナリオを最初に読んだ印象からお伺いできればと思います。
世界と自分とか、社会と個とか、いろいろな形の対比を重層的に描いている作品で、単純明快に1つの主題をわかりやすく提示する作品というよりは、観終わった後に自分の中で何を感じ、考えるかというところまで含めての物語なのかなと思いました。おそらく観ていただいた皆さんが違った意見を持たれると思うので、その多様な意見、感想を対話する場を作ってくれるような、一度のみならず何度も繰り返し観て、自分の中で考えを熟成させたくなるような作品だなと感じました。
──ご自身の演じるスズシロウはどのようなキャラクターだと捉えましたか?
彼は過去にある事件があって、心に傷を負っている青年なんですけれども、個人的な解釈としては、その事件の前までは、自分の世界に対する見方とか、自分の物差しを割と素直に信じられていた人なんじゃないかと思いました。ただ、その事件をきっかけに「正しさとはなんなのだろう?」とか、「自分の価値観と他人の価値観とを対応させて考えるってどういうことなんだろう?」とか、今まではある種疑いもなく信じていた正しさ、公平さみたいなものがわからなくなっている状態で、だからこそ時間を止めるっていう能力に目覚めてしまった人なのかなと。時間だけでなく、彼自身の心も停滞してしまっているような、そんなキャラクターなのではないかなと思ってますね。
──スズシロウに共感する部分はありましたか?
スズシロウの「わからない」にはすごく共感しました。この作品のキーワードの1つに「わからない」というものがあると思っているんです。「理解できない」「共感できない」「知らない」とか、いろんな「わからない」があると思うんですけど、その「わからない」をどう捉えるかがすごく大事なのかなと。自分の生きる世界の裏側では、いろんなことが起こっていて、いろんな人の思惑が入り乱れている。自分はそれを知らない、わからない、じゃあどうするんだっていうのが、ある種、神山監督からの問いかけなのかなっていう気がしていて。僕も世の中の仕組みとか、知らないことのほうが圧倒的に多くて、まず「わからない」ということを認めることから始めないといけないのかなっていうのを、改めて考えさせられました。
──キャラクターの話が続きますが、同じく時を止める力を持った少女・なずなは、スズシロウにとってどういう存在でしたか?
スズシロウからしたら、唯一出会えた同じ世界や感覚を共有できる人というか、同じ能力を持つ人なので、やはりそれはすごくいろんな意味で特別な存在だろうなとは思いますね。
──なずなをとっさに助けようとするのもそういった思いから来ているのでしょうか?
考えや意図が先にあって言葉を発するだけじゃないときって、日々生きている中でもあるじゃないですか。とっさに助けたいって言ってしまって、その後に助けたいっていう感情が自覚されるような。物語の中で、なずなとの掛け合いは、なんらかの意図をもって行動しているわけではない、スズシロウの生理的な部分が描かれているように感じていて。スズシロウにとって、そういう部分が出てしまうのは、なずなだけだったのかなと思います。
──収録でも掛け合いでそのあたりは意識されましたか?
なずなってセリフ自体がそこまで多くはないんですけど、すごく素敵なパスをM・A・Oさんが出してくださいましたし、僕が投げ掛けた言葉を丁寧にすくい上げてくださっていたなっていうのは感じました。心のきめ細やかさというか、M・A・Oさんの優しさが芝居に表れていましたね。興津さん演じる芹は、すごく魅力的で、スズシロウにとっても強烈な印象を与えられるキャラクターなので、そこに興津さんの芝居が相まって、後半のスズシロウは特に感情がかき乱されるんです。収録は、刺激的な掛け合いができて本当に楽しいものになりました。
──この作品を勧めるとしたらどういった方に観ていただきたいですか?
今回、WOWOW30周年という記念すべき作品として、作品への入り口は広く開かれているので、ここで僕が答えることで、入り口で制限するのは非常にもったいない作品だなと思っているんです。きっといろんな方に違う形で届いていく物語なのではないかなと思うので、観た後に責任を持って自分の意見はこうだと言える人であれば、本当に1人でも多くの方に観ていただきたいですし、皆さんの心の中にどんな思いが湧き上がってきたのか、いろんなところで対話して楽しんでもらえればうれしいです。それこそ、キャストの皆さんとも完成版を観た後に座談会とかしてみたいですね。
プロフィール
斉藤壮馬(サイトウソウマ)
4月22日生まれ、山梨県出身。81プロデュース所属。主な出演作に「憂国のモリアーティ」(ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ役)、「オリエント」(鐘巻小次郎役)、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」(レーン・エイム役)など。
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M・A・O、興津和幸インタビュー