ダンロップ「ROAD TO YOU ~君へと続く道~」|“頼まれてもいないのに” ネームを20枚以上描き下ろし! キャラクター原案・高橋しんインタビュー ネーム全ページを初公開!

マンガ家は自分の中にあるものだけでマンガを作りがち

──そもそも、今回のように設定をもとにしてキャラクター原案というのは初めての経験ですか?

「最終兵器彼女」1巻

そうですね。以前アニメにしていただいた「最終兵器彼女」のOVAが出たときは、「新キャラのデザインはこういう感じで」という提案はさせていただいたんですが、それは自分の作品の孫みたいなものだから、またちょっと違うかな。

──「最終兵器彼女」のアニメのときはあくまで基本は原作者という立ち位置で、今回の「ROAD TO YOU」のような関わり方はしてないですよね。

はい。あれは13話あって、自分が口を出し始めたら流れを止めてしまいますから(笑)。最初に作品そのものに関しての意見のやりとりはスタッフさんとしましたけど、それ以降は「あとはよろしくお願いします」という感じでしたね。

──では今回のように、監督やスタッフと一緒にひとつの作品を作るという作業は新鮮だったのでは。

それはありますね。マンガ家って自分の中に持っているものだけで描いてしまいがちなんですよ。だから今回みたいに、今まであまり描いたことのないタイプのキャラクターを描く機会をいただいて、それについていろいろ考えて、スタッフさんとやりとりして、自分の幅を広げていくということをやって、結果としてたくさんの方に楽しんでいただけたのは勉強になりました。マンガのときと違って、すぐに反応をもらえるスピード感も新鮮でしたし。「新しい本が出たから読んで」と言っても、ハードルをひとつ、ふたつ越えないとなかなか読んでもらえないですから。

──確かに、YouTubeベースの短編アニメだと拡散しやすいですよね。

ショートアニメ「ROAD TO YOU ~君へと続く道~」より。タイヤのCMでありながら、タイヤが登場するシーンはごくわずか。「CMらしくなさ」「押し付けがましくなさ」を狙った構成だという。

皆さん「こういういいのがあったよ」「じゃあ見てみよう」という感じで気軽に観てくださるのかなと。あと反響という部分で言えば、先日、両親の喜寿の祝いで週末に(実家のある北海道に)帰ったんですけど、そのときに「タイヤをWINTER MAXX 02に換えたよ」って言われたんですよ。

──「ROAD TO YOU」はそのタイヤの広告動画なわけですから、いい話ですね。

一応、1セットは売れましたよと(笑)。

──(笑)。「ROAD TO YOU」で高橋さんが起用された理由って、やはりそういった、雪国の人の気持ちを掴むためなんでしょうか。北海道出身ということもあって、「最終兵器彼女」や「雪にツバサ」といった、雪国が舞台の作品を多く描いていらっしゃるので。

左から、ユキ(CV:沢城みゆき)と、その恋人であるリョウタ(CV:神谷浩史)。

そういうことであればありがたいですね。監督さんからも「北海道出身だから大丈夫でしょう」と言われましたし(笑)。大学が関東なので北海道に住んでいたのは実質、高校生のときまでなんですけど、雪国って、当たり前ですが常に寒いんですよ。だから靴にしても(雪のないところとは)少し違うし、女の子はマフラーとかでモフモフっとさせて。逆に男の子は厚めのやつを羽織ったりはするんですが、あんまり着込んだりしないイメージ。今回のネームでも、そういった雰囲気は描きながら自然に作られていきましたね。

雪国の“あの2人”が今も普通に暮らしていたら

──動画が公開された際、高橋さんは「雪国の人の、おっとり柔らかい感じを伝えられたらと思いながら描きました」とコメントされていました。服装以外でも、雪国の人特有の人柄などをイメージしていたということでしょうか。

雪国の人の意識として、人の側に寄りたいっていうのはあるのかなというのは思いますね。人と人との距離が近そうな気はしています。性格やちょっとした動作に特有のものがあると思うので、そういった部分を思い出しながら描きました。あとはシナリオにもありましたけど、寒いところの、特に男の子はちょっと引っ込み思案なんじゃないかとか。

──確かにメインキャラの1人であるリョウタは、このショートアニメ中のわずかな出番を観ただけでもちょっと言葉足らずなイメージが伝わってきますね(笑)。

リョウタくんも、心の中には言葉をたくさん持っている子だと思うんですよ。でも雪国の子っていうか、男の子は自分の思っていることを女の子に10分の1も伝えてないんじゃないかというのは常々思っていて。いただいた最初のシナリオでも、彼女のことを自分なりに大切にしたいと思っていながら伝えることができない感じでしたね。そこを汲み取ってくれるユキちゃんという子がいて初めて成立するという。「大事にしたい」って思っていても受け取ってくれる人がいなかったら霧散してしまって、ハタから見ると何もなかったことになってしまうのが、だいたいの男の子(笑)。「もっとうまくやれよ」っていうエール的な意味も込めて、そういう男の子を描きがちなんですよね。

──うまくやれる人は、マンガでも主人公にはなりづらいですよね(笑)。

ちせとシュウジが表紙に描かれた「最終兵器彼女」5巻。

そうですね(笑)。だからリョウタくんにはユキちゃんがいて良かったなって。またこの2人に関しては、キャラクターに対するとっかかりはどこかな、と最初は少し悩んでいたんですよ。そしたら監督さんが「『サイカノ』の2人みたいな雰囲気で大丈夫ですよー」って、軽い感じで言ってくださって。

──ということは、この2人は「最終兵器彼女」のシュウジとちせをイメージしたということですか? 作品のファンからしたらこれはかなりすごい事実だと思うんですけど、そんな軽い感じで決まったんですね(笑)。

ユキとリョウタの初期案のラフ。この時点ではリョウタはメガネをかけている。

でも監督のそのひと言は助かりましたね。「気楽にやりなさいよ」という意味合いだったのかなと思います。キャラクター原案というのは経験のない仕事でもあったので、結果的にはそこがとっかかりになって、ほかのキャラに繋がったのかなと思います。

──なるほど。その話を伺ってから2人を見るとまた印象が違いますね。

自分なりの裏設定というか、IFの世界というか、あの2人が今も普通に暮らしていたらこんな感じじゃないかと密かに楽しみながら描きました。リョウタくんも初稿ではメガネをかけていたんですが、そうなると今回の男性キャラが3人ともメガネになっちゃうので……「シュウちゃんはコンタクトにしたのかな?」的な(笑)。

ROAD TO YOU ~君へと続く道~
ROAD TO YOU ~君へと続く道~
スタッフ
  • キャラクター原案:高橋しん
  • 監督:川又浩
  • キャラクターデザイン・作画監督:土屋堅一
  • アニメーション制作:アンサー・スタジオ
キャスト
  • リョウタ:神谷浩史
  • ユキ:沢城みゆき
  • トシロウ:谷昌樹
  • マイ:津田美波
  • ケイ:浅野真澄
  • ジン:野島健児
高橋しん(タカハシシン)
高橋しん
1967年9月8日北海道生まれ。1990年「好きになるひと」で第11回スピリッツ賞激励賞を受賞、同年マンガ家デビュー。1993年、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて「いいひと。」の連載を開始。お人好しの主人公が人々の幸せを願い努力する様子を描いた同作はヒットを記録、ドラマ化も果たした。2000年より同誌で連載を始めた「最終兵器彼女」では、世界の崩壊を背負った男女の壮大なラブストーリーを展開し、セカイ系の先駆けとして新たなファンを獲得。現在、同誌にて駅伝をテーマにした「かなたかける」を連載中。 またメロディ(白泉社)から少女マンガ「トムソーヤ」「あの商店街の、本屋の、小さな奥さんのお話。」が刊行されるなど、幅広いジャンルで活躍している。