出版事業の立ち上げから「魔法使いの嫁」移籍まで、代表取締役・新福恭平氏と編集長・稲垣一真氏が語り合う (2/2)

作品は時間を超えられる、面白いものは残る

──今のコミックグロウルではどんなジャンルに人気がありますか? 何か読者の好む傾向みたいなものはあるんでしょうか。

稲垣 出張編集部への持ち込みや月例賞を見ていると、やはりファンタジーは多いなとは思いますね。「魔法使いの嫁」が好きな作家さんが、ファンタジー作品に可能性を感じてくれているのかなと。

左から新福恭平氏、稲垣一真氏。

左から新福恭平氏、稲垣一真氏。

──最近はファンタジーのような設定が複雑なマンガは敬遠される傾向もあるのかなと思うのですが、そういった難しさを感じることはないですか。

新福 難しさは感じます。読み手側が作品に対して掛けられる時間が減っているので。ただ、僕としてはファストな欲求だけにフォーカスしていくつもりもないんです。再帰性のある作品は息が長く、結局は利益につながる。時間軸だけの問題ですから。僕らとしては難しいと思われているジャンルや構造の作品も送り出していく気概を持っていたい。作品は時間を超えられる、面白いものは残ると信じています。また、ビジネスとして考えたときにも直接的な利益以外にも副次的な効果から間接的に利益に繋がる状況は今まで多く見てきました。なので、短期的な利益も大事にしながらも、それ以外の物差しも持ち続けたいなと。

──マンガが世に溢れていますし、多様化する中で常に新しい作品を作って売っていかなければいけないのは大変ですね。

新福 大変ですね。ただ、いいと思ったものを出し続けて世に問うていくしかないかなとも思います。農業や林業と同じく、重要なことはただひとつ。継続することです。

新福恭平氏

新福恭平氏

稲垣 こんなことを言うと作家さんも不安になるかもしれませんが、同じようにデザインし、帯を作り、宣伝をしても、Aは売れたけどBは売れないってことはある。でもその差って、僕が17年くらい編集をやってきた体感からすると最後は運の要素が強いんですよね。その確率を少しでも上げるために、作家さんと一緒に「よい」と思ったことをやり切る。「面白い」を信じて通すことが大事だと思っています。

新福 そうですね。売れる・売れないも大事ですがやはり一番は「面白い」作品を連載に載せていきたいです。その純粋さを維持しながら、ビジネスとしても成立させていくのが僕の仕事だと思っています。

「グロウル初の看板作品を作ってやる」みたいな人に来てほしい

──現在コミックグロウルでは総合職ではなく、編集職として新卒募集も行なわれていますが、おふたりが考える編集者に向いている人、編集に必要なスキルとはなんでしょうか。

稲垣 なんでも楽しめる人ですかね。作品に関わっている本人たちが楽しそうにしていれば、アウトプットするものも楽しそうになっていくのかなと個人的には思うんです。仕事だからマンガや小説を読まないととか仕事だからアニメや映画を観なきゃってなってしまっている人だと、それはもう楽しめてないからインプットもうまくいかないかなと思うので。

稲垣一真氏

稲垣一真氏

新福 僕は仕事だと思わずに仕事をしていくセンスですね。遊びをとんでもない熱量で真剣にやりきることができる人間は向いているかなと。あとは、ポジティブであれネガティブであれユニークな経験を積んできている人は難しい状況に慣れているでしょうから向いているかなと思います。

──ではコミックグロウルにはどんな人に来てほしいですか?

新福 ただ好きなだけじゃなくて真剣に、常軌を逸して物語が好きな人。真剣に好きってことは真剣に嫌いも存在するってことなんじゃないかと思っていて。好きなものだけしかないのはいいことなんですが、それは嫌なものが目に届かない範囲でしか生きてないとも言える。なので、常軌を逸して物語が好きな人に来てほしいなと思います。あとはメジャーだけでなくマイナーもよく理解している人、メジャーマイナーな作品が好きな人も合っていると思います。

稲垣 まだ3年目に入ったばかりの雑誌なので、僕は野心のある人がいいですね。もちろん作家さんもそうですけど、編集者にもやっぱり野心が欲しくて「グロウル発のヒット作、グロウル発の看板作品を作ってみせる」みたいな人がいい。今なら実現可能な夢でもありますし、そういう強い気持ちがある人にきてほしいです。

新福 編集者って若いうちから1人でいろんなことを任せてもらえるのが面白い。マンガも小説もアニメやゲームに比べれば、関わる人間も予算も遥かに少なくて済むので、経験のない人間に裁量を与えられやすい。今の時代、作品がヒットすれば世界にも繋がるのに、それを20代、しかも作家さんと担当の2人で経験できる仕事なんてほかにないなと思うので野心と想いをもって、鉄火場に入ってきてほしいですね。

新人を送り出した数でナンバーワンになる

──3年目に入ったコミックグロウルですが、現時点で手応えは感じてますか。

新福 イチから始めていろいろ苦労もしましたが、今は出版社としての体裁はいよいよ整ってきた状態です。先にあげたような勢いのあるオリジナル作品の連載ができてきたり、グロウルで描きたいと言ってくれる作家さんが増えてきたことは手応えを感じています。ただ、まだまだ規模感は足りてないので、社員一丸となってより大きな成長をしていきたいと思っています。

稲垣 グロウルのPVやUUは毎月右肩上がりに大きく成長してきているので、ちゃんと読んでいただけてる、認知されていっているのは実感してますね。この調子で成長していけば、もっと大きくなれるという手応えもあります。

──今後コミックグロウルの目標はなんでしょうか。

新福 まだまだ「魔法使いの嫁」に支えられている部分はあるので、それ以外の作品たちがもっと輝きを放っていく場所になることですね。そのためにはたくさんの作品を掲載していくことになると思うので、掲載数や新人を送り出した数でナンバーワンになるというのが一旦の目標でしょうか。もちろん、「魔法使いの嫁」も若い才能たちに押し負けないようにヤマザキさんが表現したいことを存分に表現していっていただきたいなと思っています。

左から新福恭平氏、稲垣一真氏。

左から新福恭平氏、稲垣一真氏。

稲垣 あとは語弊があるかもしれないんですが、「ブシロード」という印象を消し去りたいですね(笑)。どういうことかというと、今はまだブシロードワークスのコミックグロウルなんですよ。そうじゃなくてコミックグロウルが先にくるようにしたい。コミックグロウルってブシロードワークスという会社が手掛けているんだって、あとから知るくらいにしたいですね。それぐらい媒体の知名度を上げていきたいと思います。

新福 そうですね。今は親会社の名前が持つ光が眩いので、その光にしっかり伍しているほどの輝きを僕らも持ちたいですね。