コミックナタリー PowerPush - 稚野鳥子「クローバーtrèfle(トレフル)」

読者はベタなハッピーエンドを望んでる! 女子の共感を得る王道少女マンガの描き方

「結婚がゴール」はベタだけど避けてはダメ

──「クローバー」前シリーズは沙耶と柘植さんの結婚でいったん終了しているわけですが、やはり少女マンガにおけるゴールは結婚なのでしょうか?

「クローバー」24巻で、沙耶と柘植さんがやっとゴールイン!

やっぱり読者はハッピーエンドが好きだと思うんですよ。特に集英社系の少女マンガは、例えばりぼんでもそうですけど、若くして結婚して終わる話がすごく多い。ベタだけど、そこを避けてはダメだと思うんです。作家のほうがそこを避けがちなんですよね。

──ちょっと変わったものを描きたいとか、変わったオチにしたいとか、そういう欲望は作家だったらあるかもしれないですね。

そうなんです。でも読者は、作り手が「えー?」と思うくらいベタなものを求めてると思うんですよ。予定調和が必要なんです。最後は幸せになるってわかってるんだけど、途中にはいろいろあってハラハラさせられて、最終的にはやっぱり幸せになったー!っていう。それが爽やかな読後感をもたらすんだと思います。

──稚野さんの「少女マンガはこうあるべき」という条件ってどういうものですか?

稚野鳥子

恋する気持ちを表現しないといけない、というのは常にあります。例えば「どうすればいい男がゲットできるのか」っていう仕立てにすると、それは恋愛マンガではなくてハウツーものになってしまう。

──おお、なるほどー。

集英社の王道と言われているのは、誰が誰のことをどんなに好きかっていう、そこのところを描くことだと思うんですよね。もう読者はどんなマンガでも表紙に男女ペアで描いてあったら、その2人がくっつくってわかってるんです。わかってるんですけど、まだそのプロセスは描かれてないから、本当にくっつくのかどうかが見たいはずなんです。

──すごく読者の気持ちに寄り添った考え方ですね。

私はマンガを自己表現というよりは、そうだな、大げさにいえばひとつの事業みたいに考えているところがあって。だからニーズがあるところに描いていきたいし、お客さんに奉仕するとまでは言わないけど、読んでくれる人がいてこそだと思うので。だから結婚がゴールのベタな話を、怖がらず描いていきたいなと。

「いかに彼を好きか」という気持ちを描くことが大事

──そのゴールに向かっていくプロセスは、どのように導き出されるんでしょうか。

私の場合はストーリーに先立ってまず感情があるんですね。いかに彼を好きかとか、そういう女の子の気持ち。だから細かくプロットを考えても面白くならないと思うんですよ。新人さんを見てても、ストーリーの整合性に多少破綻があっても、この女の子はこの男の子のことをすごく好きなんだな、って分かるシーンがあれば、「この作家さんはイケる!」って思っちゃう。

モノローグに始まりモノローグに終わるのが稚野鳥子作品の特徴。

──それこそが少女マンガである、という部分なんですね。そういえば稚野さんのマンガはたいていモノローグから始まりますよね。

ええ。前フリみたいな感じで読んでもらって、ストーリーの後のほうで「あのモノローグはこういう意味だったんだ」ってわかるようにしてます。ネームもモノローグから決まってきますね。

──モノローグ始まりがすなわち、感情から作るってことなんですね。

お話が考えつかなくても、今回はこの子がこういう気持ちになるっていう、大体の感情は決まってるんです。で、それに合わせたエピソードを後から考える。ページの都合でモノローグが入らないときもあるけど、ちゃんと入れば、それで稚野鳥子らしい作品になる気がしています。

稚野鳥子「クローバーtrèfle(トレフル)」1巻/ 2013年1月25日発売 / 440円 / 集英社
作品解説

沙耶と柘植さんの結婚から3年後。オフィスでは、沙耶の同期で「最後の独身」と呼ばれる鈴木妃女子が黙々と働いていた。同じ会社で働く妹・花音は結婚が決まり、柚葉は彼氏が切れないモテ女子だが、妃女子はもう10年彼氏がいない。30歳の誕生日を機に人生を変えようと決意した妃女子は、思い切った行動に――!? 大ヒットコミックス「クローバー」の新章スタート!

稚野鳥子(ちやとりこ)

8月25日、東京都生まれ。1988年、ぶ~け(集英社)に掲載された「半透明の扉」でデビュー。以後、ぶ~け、コーラス(集英社)、Kiss(講談社)などの女性マンガ誌で活躍を続け、25年間でヒット作を多数発表。1997年から連載を開始した「クローバー」はシリーズ累計860万部を突破。ほか代表作に「天国の花」「天使に聞いて」「東京アリス」「家族スイッチ」など。