「BURN THE WITCH」川野達朗(監督)×清水勇司(副監督)×山田奈月(キャラクターデザイン)|teamヤマヒツヂの挑戦、そしてこれから

久保帯人原作による劇場中編アニメーション「BURN THE WITCH」は、ロンドンの裏側に広がる“リバース・ロンドン”を舞台に、魔女と竜を描くファンタジーアクション。10月2日より新宿ピカデリーほか全国35館の劇場にて2週間限定でイベント上映されており、同日に世界同時配信がスタートした。

コミックナタリーでは上映と配信を記念し、「BURN THE WITCH」の特集を展開中。第2弾となる今回は監督の川野達朗、副監督の清水勇司、キャラクターデザインの山田奈月によるスタッフ鼎談をお届けする。彼らはスタジオコロリド内でteamヤマヒツヂとして活動している若手中心のユニット。そんなteamヤマヒツヂは、週刊少年ジャンプ(集英社)の代表作家の1人が放った新作とどのように向き合ったのか。そのチームの成り立ちと、今後彼らが目指すスタジオの在り方とあわせて聞いた。

取材・文 / 武井風太

ジャンプ作品への大抜擢

──「BURN THE WITCH」は週刊少年ジャンプ連載作品ですが、スタジオコロリド、teamヤマヒツヂがこれまで制作されていたタイトルとはずいぶん毛色が違う印象を受けました。

清水勇司 まさか自分たちがやらせてもらえるなんて、という気持ちでした。teamヤマヒツヂは言ってしまえば業界的にも無名なので驚きましたね。

山田奈月 teamヤマヒツヂとしては「BORUTO」のオープニングを手がけたことはあったんですけど、やっぱりびっくりしました。

川野達朗 今回のきっかけは、バンダイナムコアーツのプロデューサーさんから僕にお話をいただいたことでした。クリエイターとしての自分を買ってくださって、teamヤマヒツヂを絡めてやってくれませんかと言っていただいて。

「BURN THE WITCH」ティザービジュアル

──プロデュース側からそれほどの信頼があったのですね。改めてにはなりますが、teamヤマヒツヂがどういうスタジオなのか、お話を聞かせてください。

川野 デジタルだけで作品を完結させるコンセプトで、スタジオコロリド内で発足したスタジオです。タツノコプロで、(アニメーターの)りょーちもさんが、デジタルの現場を作ったのが前身でした。その後、僕がチームのメンバーを引き継いでコロリドに移籍したんです。

──スタートのきっかけは、やはりデジタルで作品を作ろうという部分が強かったんでしょうか。

川野 もちろんそれもありますが、アニメーションって作品ごとにスタッフが解散しては集合してと、毎回メンバーが変わるんですよ。

清水 傭兵システムなんですよね。

川野 それは仕方ないにしても、せめて指揮官だけは同じチームで担当してノウハウを蓄積したいなと。そのうえでスタッフの教育をしながら、業界でまだやられていないことにトライしたい。そこがスタートでした。

──所属しているメンバーも若手の方が多いですね。

川野 だから経験値が少なく失敗もありはするのですが、そのときのフィードバックが直接自分たちに来るシステムなので、メリットも大きいと思っています。

──ワンチーム内で経験の蓄積がされるわけですか。

川野 ええ。例えば宮崎駿さんがいた1960年~70年前後の東映動画みたいなことですよね。当時はセクションを越えて話し合ったり、同じチームで次の作品に挑戦したりといった道筋があったと思うんですよ。でも、現代のアニメーションにはそれがあまりない。常に売れ続けている一部の方々が監督をやって、そのまま現場スタッフへの還元までできないままチーム解散という形になってしまう。その負の循環をやめたいと思ったんです。

久保先生らしい“ヤンキー感”

──では作品のお話に移れればと思いますが、原作をご覧になられていかがでしたか。

「BURN THE WITCH」第1話より、ニニーによるモノローグのシーン。

川野 冒頭でニニーが「おとぎ話なんかクソでしょ」とモノローグで語るじゃないですか。自分は最初から、このセリフこそが作品のテーマだと思っていたんです。

──魔法にかけられる側ではなく、かける側でありたいと思うニニーの主体的な性格が表現されているシーンですよね。

川野 そういうテーマをガツンと描くのが、本作の主眼になるだろうと。そこをなるべく拾いあげるようにはしようと思いましたね。久保先生にも確認をとったら冒頭のシーンが作品のテーマにつながっているとおっしゃっていたので,そこからのブレはありませんでした。

──原作の魅力は、どこに感じられましたか。

「BURN THE WITCH」の場面カット。

川野 映像の監督をやっていると、もう少し演出側に振ったり、文学的な面を出したりしたいと思うものなんですよね。「BURN THE WITCH」にもそういう面はありつつも、久保先生は第一に王道作品として描いていると思っていて、そのサービス精神が魅力的でしたね。「これ面白いでしょう」という自信みたいなものが、しっかり感じられました。これが“ジャンプ作品”なんだなと。

──山田さんにお伺いしたいのですが、原作のキャラクターをアニメーション用にデザインし直すにあたって、どのようなご苦労がありましたか。

山田 参加した段階では読み切り分の原稿と連載版のネームしか資料がなかったので、久保先生から詳細設定はいろいろいただいてはいたものの、やはり情報が少なかったんですよね。キャラクターの魅力を自分の中で落とし込めないことが、だいぶ苦労になったかなと。情報不足を補うために「BLEACH」のマンガを会社側で購入していただいて、そのイメージも参考にしました。

──デザインする過程で、久保さんらしさはキャラクターのどういう部分にあると感じましたか。

山田 ううん、これは清水さんがよく言っていたのですが……ヤンキー感。

「BURN THE WITCH」の場面カット。

──ヤンキー感ですか(笑)。

山田 ただ最初はちょっとピンと来なくて。それもあって、クレジットには入っていないのですが、実はキャラクターデザインに監督の修正ががっつり入っているんですよ。ですから、「私がキャラクターデザインをやりました!」とは、とても胸を張って言えない……。

川野 いやいや、そんなことはないですよ!(笑) 多少やり取りをした程度で。

清水 山田さんが最初に上げてくれたキャラクターデザインも、とてもよかったんです。ただ、山田さん特有のかわいらしさが割と前面に出ていたので、ある種少年マンガ的な、男たちのヤンキー感、活き活きしたものがもう少しあるといいかなと。そこを意識していただいた感じです。

──ちなみにヤンキー感はデザインのどこに出ているのですか。

全員 ……難しい。

──(笑)。

ブルーノはウイング・バインドの最高意思決定機関“トップ・オブ・ホーンズ”の長官を務めている。

山田 例えばブルーノですが、彼は悪者ではないんですよ。物語の展開上、ニニー、のえると対立しますが、彼自身の正義なり目標なりがあって、突き進んでいくタイプなんです。だから、ヤンキー的な一本筋の通った人間だと。

清水 そういう感じを意識してほしかった、ということです。

──さきほど、山田さんの絵の性質として「かわいらしさ」を挙げていただいていましたが、その特色は作品にも反映されているのですか。

清水 メインキャラよりも、むしろモブのデザインによく出ていると思いますよ。

山田 「BURN THE WITCH」のメインキャラは、久保さんの絵に寄せていく大前提があったんです。キャラクターデザインだけじゃなくて、原画についてもマンガと引き写したりしていて、とにかくみんなで似せようってことに注力していました。

清水 だから、モブのほうにらしさが出ているんです。山田さんのデザインの特徴は、かわいらしさもそうですが、いわゆる世の中のアニメっぽい絵のラインじゃない“洒落っ気”がある部分だと思っていて。

川野 今回の版権やグッズ絵は、女性からも評判がいいとバンダイナムコさん側から聞いていますので、そのあたりは山田さんの特性が間接的に影響しているかもしれませんね。


2020年11月13日更新