「自分の意思はどこにあるか」を問う侍アニメ「ブッチギレ!」一番星役・佐藤元インタビュー

「ブッチギレ!」は侍が日本を支配していた時代を舞台に、新選組の替え玉として選ばれた咎人たちの活躍を描くオリジナルTVアニメだ。監督・シリーズ構成を平川哲生、キャラクター原案を武井宏之、制作をジェノスタジオが担当。7月から9月にかけて放送され、10月26日にはBlu-ray / DVD-BOXがリリースされる。コミックナタリーではこれを記念し、主人公の一番星役であり、大の新選組ファンでもあるという佐藤元にインタビュー。“ブッチギって熱い”と感じた作中のエピソードや最推しのキャラクター、作品への熱い思いを語ってもらった。

取材・文 / カニミソ

自分が近藤勇になる日が来るとは思わなかった

──咎人たちが死んだ新選組の替え玉をやるというユニークな設定をはじめ、時代劇であり現代劇であり、人情モノでもあるという盛りだくさんの要素が詰まった本作ですが、近藤勇の替え玉・一番星役に決まったときの感想をお聞かせください。

僕自身大の幕末ファンで、当時の侍などの役をやってみたいという気持ちがずっとあったので、今回選んでいただけたことにすごく感謝しています。替え玉とはいえ、まさか自分が近藤勇になる日が来るとは思わなかったですし、こんなにトガった近藤勇は今後現れないのではないかというくらい、珍しいタイプの近藤勇をやらせていただけて、すごくうれしかったです。

佐藤元

佐藤元

──もともと幕末時代がお好きだったと。

特にあの時代の、夜明け前な感じがすごく好きで。いよいよ世界と繋がる瞬間、近代日本に通じる瞬間がもうすぐそこまで来ているわけじゃないですか。でもその変化に馴染める人と、今を変えたくない人がいて。それは現代に置き換えても同じことが言えると思うんです。自分の生き方を変えられる人と変えられない人というのがものすごく明確に表れたのが、幕末時代だったのかなと。

アニメ「ブッチギレ!」より、近藤勇の替え玉・一番星。

アニメ「ブッチギレ!」より、近藤勇の替え玉・一番星。

──今回役作りをするにあたって、東京・北区にある近藤勇のお墓を訪れたそうですね。

実際にあった歴史もので、近藤勇さんという信念を貫き通したすばらしい人物を演じさせていただくにあたり、僕自身覚悟しないといけなかったですし、近藤勇さんに対して尊敬の念を込めるためにきちんとお墓参りをしたいと思いました。実際に訪れてみて、歴史の教科書に出てくる方のお墓なのに、こんなにポツンとしたところにあるのかという虚しさや無常さ、お墓を残し続けた地域の方々の思いを感じられてよかったです。

──虚しさや無常さというのは、「ブッチギレ!」のキャラクターたちの境遇からも感じ取れる気がします。一番星も“侍殺し”に成らざるを得ませんでしたが、さまざまなことを経て成長し、使命感を持って懸命に前に突き進んでいく姿が印象的でした。実際に一番星を演じていく中で、佐藤さんは彼のどんなところに成長を感じましたか?

新選組唯一の生き残り・藤堂平助と関わることでリーダーシップが芽生えたのは、大きかったですね。替え玉ではあるけれど、藤堂が生き残ったのが無駄ではなかったということを、一番星の中に生まれた近藤勇を通して証明できたんじゃないかなと思います。

アニメ「ブッチギレ!」より、新選組唯一の生き残り・藤堂平助。

アニメ「ブッチギレ!」より、新選組唯一の生き残り・藤堂平助。

──第8話「ブッコメ!池田屋事件」で、藤堂が一番星を庇って斬りつけられたときに、「これからはお前が局長として新選組をまとめろ」「お前ならできる、お前の心にある誠に従え」と一番星に新選組を託しますよね。そんな藤堂もはじめは亡くなった仲間に付き従うばかりだったけど、自分がやらざるを得なくなってできるようになったと言っていて。一番星も藤堂と同じ状況となり、次第にリーダーとして覚醒していくというのも、説得力がありました。

彼自身今まで雑面ノ鬼に殺された親の仇を打つという復讐心や、生き別れた自分の弟への思いで動いていた部分がありましたが、藤堂から新選組を引き継ぐことで、一番星の中に侍としての覚悟が生まれたのだと思います。会津の白虎隊にも「ならぬことはならぬものです」という掟があるのですが、身内であろうとも不正を犯せば斬るくらい厳しい文化の中で生きていくのが新選組だったと思うので。

──佐藤さんの意識も、最初とは変わりましたか?

ちゃんと新選組を背負おうと思いましたね。それまでは単独行動というか、自分の正義感を優先して「自分が許せねえものは許せねえ」という状態で演じていたんです。でも藤堂に言葉をもらってからは、より誰かのために動くようになり、そのために斬るべき人間は叩き斬るというように変化していった。それこそ土方歳三の替え玉であるサクヤがよく言っていた、“甘さが消えた瞬間”なのかなと思いますね。

魂と魂がぶつかり合う瞬間をものすごく感じた

──第12話までを振り返って、特に“ブッチギって熱い”と思ったエピソードを教えてください。

やっぱり第10話「マモレ!亜米利加黒船」で、兄である一番星と弟の羅生丸が斬りあったシーンでしょうか。羅生丸の本音も出てきますし、一番星がこれまで積み上げてきた本音もあるし。侍としての矜持もあって、殺さないといけないが、捨てきれない兄弟愛もあったりと。そういった部分も印象的でしたし、何より羅生丸役の八代拓さんとのかけ合いが、個人的にはとても楽しかったです。八代さんが僕の熱量を買って、どんどん上げていってくださって。その感じでくるならもっと僕も熱量を上げてやろうというような相互作用が生まれていました。そういう魂と魂がぶつかり合う瞬間というのを「ブッチギレ!」では、ものすごく感じさせていただいたんです。それこそ、ノーガードの殴り合いみたいな(笑)。そういうむき出しなところが大好きで、ぶつかり合う瞬間に立ち会えることも含めて役者をやっていて楽しいなと思います。役者だけでなく、制作の皆さまも含めて全員で熱さをむき出しでいこうとしているところを、ものすごく感じられる作品だったので、その座長を務めさせていただいて、改めて光栄に感じましたね。

第10話「マモレ!亜米利加黒船」より、一番星。

第10話「マモレ!亜米利加黒船」より、一番星。

第10話「マモレ!亜米利加黒船」より、羅生丸。

第10話「マモレ!亜米利加黒船」より、羅生丸。

──一番星と戦っているときに羅生丸が、「必要なのは強さだ。弱いものは踏みにじられる」って気持ちを吐くじゃないですか。それに対して一番星が「本当に強いのは俺たちのために命を投げ出したおっとうとおっかあだ、それが本当の強さだ馬鹿野郎!」と啖呵を切る。あそこの場面は、本当に熱くて泣けました。

自分の中で一番魂を込めた瞬間というか。ちゃんと相手のことを思って、心を強く持てる人が一番強い人なんだというのを感じてほしいという願いを込めて、羅生丸に訴えかけたシーンだったので、そう言っていただけるととてもうれしいです。

──ほかに印象に残っているシーンはありますか?

全体を通して熱い中で、ずっとイチャイチャしている桂小五郎と沖田総司の替え玉・アキラが許せなかったというのはあります(笑)。つい「そういったの、一番星にはないんですか?」と監督に聞いてしまいました(笑)。そうしたら、「いやー、一番星には羅生丸やサクヤがいるから。ね?」と、おっしゃっていて。「ね?」じゃないですよ!と思いました(笑)。

第7話「フセゲ!新選組解散」より、左から沖田総司の替え玉・アキラ、桂小五郎。

第7話「フセゲ!新選組解散」より、左から沖田総司の替え玉・アキラ、桂小五郎。

──(笑)。桂とアキラのキスシーンは、SNSでもざわつかれていましたね。

あの2人がくっつくだろうなというのは、なんとなくわかってはいたんです。第3話「ヨソオエ!遊郭潜入」で、芸姑として潜入したアキラに、幾松という実在した桂小五郎の奥さんと同じ名前が当てられていたので。そうしたら本当に歴史通りになったという。いいなって思っていました(笑)。