「アオペラ -aoppella!?-」前野智昭&濱野大輝|男性声優×本格アカペラ!「異次元の難しさ」に挑んで手に入れた達成感と絆

“青春×アカペラ”をテーマにした新規音楽原作プロジェクト「アオペラ -aoppella!?-」。自身もアカペラ経験者であるというKLabのプロデューサーが新たに立ち上げた、男性声優11人による本格アカペラプロジェクトだ。3月4日のプロジェクト発表と併せて公開された「J-POPカバーメドレーMV」では、King Gnu「白日」、Official髭男dism「Pretender」をアカペラでカバー。この動画は公開1カ月を待たず再生回数が200万回を突破するなど、大きな話題を呼んだ。そんな「アオペラ -aoppella!?-」の本格始動を告げる1st CDが、5月21日にリリースされる。

コミックナタリーでは「アオペラ -aoppella!?-」に登場する2つのグループ、都立音和高校のアカペラ部・リルハピから宗円寺雨夜役の前野智昭、私立奏ヶ坂中学高等学校のアカペラ部・FYA'M'(フェイム)から猫屋敷由比役の濱野大輝にインタビュー。それぞれのグループでベースパートを担当する2人に、アカペラの難しさやベースならではの苦労を語ってもらった。事務所の先輩・後輩同士でもある前野と濱野のリラックスしたトーク、爽やかな撮り下ろし写真もたっぷりと楽しんでほしい。

※当記事の取材・撮影は新型コロナウイルス感染症への対策を行ったうえで実施しています。

取材・文 / 柳川春香 撮影 / 曽我美芽

CHARACTER

アカペラは「異次元の難しさ」

──インタビューに入る前に、濱野さんは3月にお誕生日を迎えられたばかりですよね。おめでとうございます。

濱野大輝 あっ、ありがとうございます! 32歳になりました。

前野智昭 おめでとう! まだ若いね。

濱野 いやいや、もうすぐ9年目なのでがんばらないと(笑)。

──前野さんは32歳のときってどんな感じでしたか?

前野 7年くらい前か……「俺の時代来るかも!」って思って結局来なかったときですね(笑)。

濱野 全然来てるじゃないですか!(笑)

前野 来てない来てない(笑)。まあそれは冗談ですが、でも30代前半は特に楽しかった時期ですね。

──今日は「アオペラ -aoppella!?-」に登場する2つのアカペラグループから、ベースを担当している前野さんと濱野さんに集まっていただいたんですが、そもそもおふたりは事務所の先輩後輩同士なんですよね。

前野 そうなんです。でも、僕があんまり「おう! 飲み行くぞ」みたいなタイプじゃないので、とりさん(同じくアーツビジョン所属の鳥海浩輔)とかのほうが付き合いは深いんじゃないかな。後輩と交流が少ないのは僕の課題でもあるんですけど(笑)。

濱野 自分も「先輩! 連れてってくださいよ!」っていうタイプじゃないですし(笑)。確かに現場でお会いすることはあっても、しっかり掛け合いをする役とかは今までなかったので、こうやって2人でインタビューを受けるのも初めてですね。

前野 そうだよね。

──せっかくの機会なのでいろんなお話をしていただければと思います。まずは3月の「アオペラ -aoppella!?-」プロジェクト発表と同時に発表された「J-POPカバーメドレーMV」についてお聞きしたいのですが、この動画がもう200万再生を超えていて(※取材時点。現在は270万再生を突破)。

前野 すごいバズってますよね!

濱野 いやあ、ものすごい勢いですよね。これぞバズ!みたいな。うれしいですね。

前野 できあがったMV観て、意外とみんなカメラに向かってアピールしてるんだなって思った(笑)。

濱野 そうそう、人それぞれで面白かったですよね(笑)。

──ここでカバーされた「白日」も「Pretender」も、普通に歌うだけでも難しい曲だと思うんですが、おふたりはベースパートなのでさらに難易度が高かったんじゃないかと思います。やっぱりたくさん練習されましたか?

濱野大輝

濱野 しましたね!

前野 しなきゃできないです(笑)。1回2回聴いて「じゃあ録りましょう」っていうのはまず無理なので、自ずと聴く時間や練習する時間は増えていきましたね。

濱野 今はマスクをしていることが多いので、収録の合間とか移動の時間に、聴きながらバボンバボン言ってました(笑)。

──そもそもアカペラの企画に参加すること自体、ちょっとハードルが高く感じられるんじゃないかと思うんですが、オファーを受けたときはいかがでした?

濱野 最初にマネージャーから話を聞いたんですが、「こういう企画があるんですけど」みたいな、ちょっと不安そうな感じで来たんです。自分としては、以前からYouTubeでPentatonixさん(注1)やよかろうもんさん(注2)の動画も観たりしていて、カッコいいなと思っていたので、二つ返事で「やりたいです!」って言ってしまって、レコーディングのときにビビったという(笑)。「あれ? これは難しいぞ!」って。

注1 Pentatonix…2011年に結成されたアメリカの5人組アカペラグループ。2015年から2017年にかけて3年連続グラミー賞を受賞。公式YouTubeチャンネルは1890万人の登録者を誇る。

注2 よかろうもん…福岡発、音楽を中心としたエンターテインメントグループ。YouTubeでアカペラカバー動画やオリジナル楽曲を多数発表し、人気を博している。

猫屋敷由比(CV:濱野大輝)。“私立組”こと私立奏ヶ坂中学高等学校アカペラ部・FYA'M'(フェイム)のベース担当。

──思った以上に大変だったと。最初からベース担当としてオファーされたんでしょうか?

濱野 そうですね。この通り声が低いので、ベース以外ないだろうなって思ってたんですが、キャラクターの見た目はけっこうキュートな印象だったので、どういうふうにキャラクター作りをしていこうかなというのはいろいろ考えました。

──確かに猫屋敷くんは「このルックスでベース担当なんだ」という意外性があります。一方の前野さんは、「アオペラ -aoppella!?-」の前身にあたるプロジェクト「ぺらぶ! a cappella love!?」(注3)から引き続きの参加ですね。

注3 「ぺらぶ! a cappella love!?」…2011年から2012年にかけて展開されていた、アカペラがテーマのコンテンツ企画。「アオペラ -aoppella!?-」のキャスト陣では前野のほか木村良平、柿原徹也、KENNがメインキャストとして参加しており、小野友樹もドラマCDに出演していた。

宗円寺雨夜(CV:前野智昭)。“都立組”こと都立音和高校アカペラ部・リルハピのベース担当。

前野 はい。「ぺらぶ!」では歌やドラマCDはもちろん、ラジオもやらせていただいていたので、また機会があるならぜひお願いしますとお返事させていただきました。「ぺらぶ!」のときにアカペラの難しさや奥深さは痛いほど実感していたので、10年経って自分がどう成長を遂げているかなって思ったんですが、全然10年前と変わらず難しくて(笑)。

──そうなんですか。この10年で歌われる機会も多かったと思うのですが……。

前野 ありがたいことにキャラクターソングはたくさん歌ってきたんですが、アカペラというのはやっぱりまったくベクトルが違いますね。レコーディングが本当に、異次元の難しさでした。10年前もまったく同じことを言ったんですけど(笑)。

低音ならではの悩みは「お店で声が届かない」

──アカペラのベースはアタック音やスキャットといった独特の歌唱法を用いるものですが、特に大変だったのはどういうところでしょうか。

濱野 僕は大学生のときにバンドでボーカルをやっていて、そのときにおふざけでベースラインを口で真似たりしていたんですが、実際に自分でやるとなると本当に難しくて。ただリズムを刻むだけじゃなく、ちょっとした遊びの部分もなきゃいけないし、その中で声量も出さないといけないし。そういった細部のところで「こんなに難しいんだ」って痛感しました。

前野 あと、どうやって覚えたらいいのか全然わからなかった。

濱野 そこですね、ほんとに。最初は全然入ってこなかったです。

前野智昭

前野 普通の歌なら仮歌を何回か聴いていれば自然とメロディが入ってくるんですが、ベースは歌詞もないし、1人で歌っていてもよくわからないじゃないですか。そこを自分の中に落とし込むまでがすごく大変でしたね。何回も自分のパートを聴き込んで、「あっ、ここだけなんとなくわかってきた!」っていう、その繰り返しで少しずつ覚えていって。

濱野 「表拍かと思ったら、ここは裏拍か!」とか、噛むはずないところで噛んだりとか……。そういう意味ではさっき前野さんがおっしゃっていたような、未知の難しさがありましたね。「白日」は、当初の予定よりさらにキーが低くなったんです。ベースの最低音がかなり低くて、自分でもあんまり出さない音域を出さなきゃいけなくなって。高いほうじゃなく低いほうで「出せるかな?」って気にしたことがなかったので、そこは新鮮でしたね。

──確かに、濱野さんが出せるか不安になるレベルの低音はなかなかなさそうです。ちなみに、前野さんは普段からけっこう低音のキャラを演じられていますが、もともとそんなに声が低いほうではないですよね。

前野 よくそこにお気付きになりましたね(笑)。皆さんに低音のイメージを持っていただいているのはありがたいんですが、僕の地声自体はそこまで低音でもないので、例えばキャラデザがすごいごつくて、いかにも重低音!みたいなキャラクターだと「やべえ、どうしよう」って思うことはけっこうあります(笑)。もちろんがんばろうって思ってやらせていただいていますが。

濱野 低音の中でも、筋骨隆々な低音のキャラクターと、細身だけど低音のキャラクターとありますよね。前野さんの出す低い声って、屈強な「うおー!」っていうのじゃなくて、ちゃんとカッコいい低音なのがうらやましいなって。

前野 でも地声が低いのと作って低い声を出すのって、また違うと思うんですよね。俺からすると濱野くんみたいな、普段からしっかり低いラインで出せるほうがうらやましいよ。

左から濱野大輝、前野智昭。

──濱野さんは地声が低いゆえの苦労って何かありますか?

濱野 お店で声が届かない、とかですかね(笑)。普通にご飯してるときとか、雑音が多いところだと「すみません」って言っても届かないんです。自分は父もこういう低い声なので、低い声を聴いて育ったからすんなり聞き取れるんですけど、周りに低い声の人がいない中で育った人には認識されない周波数なんじゃないかなって(笑)。

前野 なるほど、面白いね(笑)。

濱野 僕は子供がいるんですが、たぶん3歳ぐらいまで僕が何を言ってるかわかってなかったんじゃないかな(笑)。あと子供の友達に、普通にしゃべってるだけで「お前のお父さん怖い!」って思われたりします。

前野 威圧感があるって思われちゃうんだろうね(笑)。

自分の出した音がキャラクターのパーツになっていく

──では、実際にできあがった「J-POPカバーメドレーMV」を観たときの感想はいかがでしたか?

前野 最終的には「やってよかったなあ」って思いました。

濱野 できあがったものを観るとそうなりますよね。映像もすごく素敵に仕上げてもらいましたし。

前野 難しさならではの達成感というかね。全員のハーモニーがひとつになったものを聴かせていただいたときに、「アカペラってこんなにすごいんだ、こんなにも美しいメロディになるんだ」って。1人で「ドゥンドゥンドゥン」とか録ってると、どうしても不安になるんですよ(笑)。うまくできてるのかどうか自分ではよくわからないですし。そういう孤独なレコーディングだったので、完成したものを聴いたときはすごく感動しましたね。やってるときは「どうすんのこれ!?」って思いましたけど(笑)。

濱野 「あーくそ!」「あーくそ!」って(笑)。

前野智昭

前野 「やばい、できない、どうしよどうしよ」って(笑)。でも、アカペラを専門でやられてる方ももちろんいらっしゃるわけだし、せめてそういう方に対して失礼のないように、やれるところまでは全力でやらなきゃなって思いでやらせていただきました。たぶんずっと忘れないレコーディングだと思います。もちろんいい意味で。

濱野 私立組は(仲村)宗悟がボイパ担当なんですが、重なったときに「ここでリズムががっちりはまるんだな」っていう面白さもあって。レコーディングは今回1人でしたが、きっと実際にアカペラをやられている方は、それを一緒に紡いでいく感覚が面白いんだろうなって、アカペラの面白さの片鱗を見させてもらった気がします。

前野 J-POPカバーメドレーの音源は公式サイトで楽譜も公開されているので、アカペラに興味がある方はぜひ歌ってみてほしいですね。たぶん難しいと思うんですが(笑)、アカペラの奥深さを感じていただければうれしいです。

──ちなみに都立組はボイパがいないぶん、前野さんが1人でリズムを背負うので、それも大変なんじゃないかなと。

前野 確かにボイパがいてくれたら楽なところもあるとは思いますけど、ボイパかベースかを選べって言われたら、僕はベースやってますね(笑)。

濱野 僕もそうですね(笑)。参加が決まった頃に、宗悟と「今度一緒だね」「リズム隊同士お互いがんばろうね」っていうような話をしてたんですが、「いやーほんとボイパじゃなくてよかったわ」って言いましたもん(笑)。

前野 ははは(笑)。ボイパはマジで無理だよね。

濱野 やれって言われてもできないですよ。宗悟もだいぶ練習したって言ってました。彼も努力家ですし、やっぱりすごく音楽のセンスがあるんだろうなって思います。

前野 僕も最近ちょうどカッキー(柿原徹也)とKENNくんと話す機会があって、10年前の「ぺらぶ!」のときもすげー難しかったけど、今回のほうが難易度的には高かったっていう話をしたんです。10年前も難しかったのは間違いないんだけれど、やっぱり年々声優に求められるスキルがどんどん上がってるんだなって。

──ちょっと難しい質問かもしれないんですが、ベースパートでキャラクター性を出すというのは、技術的に可能なものですか?

濱野 リズム隊でキャラクター感を出すのは難しいですよね。

前野 難しいね。僕もどちらかと言えば、自分をキャラクターに寄せてそこでニュアンスを出すタイプなんですけど、「アオペラ -aoppella!?-」の歌唱に関しては、キャラクターを自分のほうに寄せるような感覚でやらせていただきました。自分の出した音がそのキャラクターのパーツになっていくんだ、っていう考え方で。その分ドラマパートになったときはしっかりとキャラ感を出させていただいたかなと思います。