コミックナタリー Power Push - 「アマイタマシイ~懐かし横丁洋菓子伝説~」 作者・杉本亜未×お菓子研究家・福田里香対談

スイーツよ、永遠に! 未来へ引き継ぐ幸福感

マンガ家とパティシエは似ている

──中盤には料理バトルをする展開もありました。

杉本 そうですね。あのあたりは編集さんの意見を取り入れました。本当はもう少し平和に街おこしをする様子を描いていきたいなと思っていたんですが、「次々に(キャラクターを)危機に陥れてほしい」と要望がありまして。

福田 でもそこも男性誌の醍醐味なのかもしれないですね。

杉本 ええ。なので「じゃあテレビに出て、バトルとかしてみますか?」とアイデアを出して、ああいったストーリーを描いていきました。

「アマイタマシイ~懐かし横丁洋菓子伝説~」より。

福田 杉本先生が「アマイタマシイ」の中で特に思い入れのあるシーンはどこなんですか?

杉本 熊谷が、昔入ったバーでものづくりの秘密を話し合って、いろんなことを吸収していったと語るシーンです。夜洸町という場所に来て「もしかしたら かつて物をつくる人間の命が脈づいていたから この街の何かが俺を帰らせないようにしているのかと思った」と、思いを吐露するあのシーンは、「アマイタマシイ」を連載するうえで一番描きたかったところなんです。

福田 そうだったんですね。

「漫画家とパティシエは似たところがある」と語る熊谷周作。

杉本 私は鶴見の工場地帯に思い入れがあるんですけど、そこに行くと、何か気持ちが動くような感覚を味わうんです。切磋琢磨してものを作っている人たちのエネルギーを感じるというか。パティシエと施盤工とマンガ家では全然業種が違いますけど、クリエイティブなことをして人に喜んでもらうという点ではみんな一緒なんですよ。なのでその突き動かされる感覚も同じなんじゃないかと思い、そのシーンには思い入れがありますね。

──マンガ家とパティシエは似たところがある、というのはマンガにも登場する台詞ですね。

杉本 マンガ家と似てる部分というと、マンガ家と一緒でパティシエも普通の会社員ではない。なので熊谷のちょっと変わった性格も、そこを意識して考えていました。普通の人だったら譲るところを譲らないとか、こだわりが強いところとか。マンガとしてちょっと奇をてらって考えてみたんですけど、「熊谷みたいな変わった性格のパティシエって結構いるよね」ってネットで言われてるのを見て、ちょっとショックでした(笑)。

福田 ははは(笑)。

杉本 「そ、そうだよね」って(笑)。確かに、あれくらい変わったパティシエっていうのは、実際にかなりいるんですよ。

お菓子はタイムマシン

──福田さんは「アマイタマシイ」でお好きなシーンなどありますか。

「アマイタマシイ~懐かし横丁洋菓子伝説~」より。

福田 羽衣ちゃんがスイーツを利用した街づくり計画を説明するときに、「構想がすべて達成するとしたら百年後くらい」と言って、実際の例を挙げながら街の未来について語っているじゃないですか。理想ではあるけど、未来に思いをつなげようとしているのがすごくいいなと思いました。

杉本 ありがとうございます。先日、パティスリー・ユウ・ササゲのお菓子教室に伺ったんですけれど、フランボワーズのケーキを作って「美味しい!」って食べていたら、捧(雄介)シェフが「これは50年前のルコントのレシピですけど、今食べても皆さん『美味しい』って言いますよね」とおっしゃっていて。そのときに、今はもう亡くなられた人もいるかもしれないけど、50年前にこれを食べた人たちも、今の自分と同じように“美味しい”と感じていたのかなと想像したら、なんだか感動してしまったんです。

福田 素敵ですね。

杉本 以前三原順先生の原画展に行ったときも、すごく感動して泣きそうになっちゃったんですよ。展示を見ていた若い女の子が、原画に張り付いて離れない姿を見たりすると、三原先生はいなくなっても三原先生が描いた作品でみんなが泣いたり心を動かされたりするんだと実感して。そういった部分でも、パティシエとマンガ家は似ているのかなと思いました。

(手前から)杉本亜未、福田里香。

福田 逆に、物件とかはなかなか残らないですからね。形になってるから残りそうなんだけど、昔の建物とかどんどんなくなっていきますし。だけど紙は残るし、レシピも残る。例えば、とらやなんて室町時代から続いてますよね。だから“お菓子はタイムマシン”なんですよ。

──名言ですね。

杉本 本当にそうだと思います。おいしいものは、ずっと引き継がれていきますから。

──思いをつなぐという意味では、「アマイタマシイ」が全話単行本になったのも、「紙の本が欲しい」という思いをファンの皆さんが届けてくれたからですよね。

杉本 はい。スイーツ好きな方々が今でも「アマイタマシイ」を応援してくださって、今回こうやって単行本になることも喜んでくださって、非常にうれしかったです。

福田 それも素晴らしいですよね。

杉本 ありがたいですね。また今回の単行本化を機会に、新たに手に取ってくださる方がいたらうれしいです。

「アマイタマシイ」ファンはこちらも要チェック!

8月発売のMystery Blanc(ミステリーブラン)2016年9月号(青泉社)にて、杉本亜未の“スリラーマンガ”「鮮血のマーダーゲーム」の短期連載がスタート!

杉本亜未「アマイタマシイ~懐かし横丁洋菓子伝説~」全3巻 / 各1620円 / 復刊ドットコム
全巻購入はこちら
1巻 / 2016年8月中旬配送
2巻 / 2016年10月中旬配送
3巻 / 2016年12月中旬配送
1巻収録エピソード
  • 小さな目覚め
  • スイーツ四天王の挑戦
  • みんなの夢
  • ワイルドサイドを歩け!
  • そして、タマシイの集まるところ
  • 名声と職人
  • 甘き戦いの刻は来れり
  • 描き下ろし18ページ
2巻収録エピソード
  • 運命が強くあれと囁いている
  • ティル・ビクトリー
  • GOGO!サンクチュアリ
  • 美しく甘く愛らしいバベル(*)
  • TO RULE THE NIGHT(*)
  • COLDHEAT(*)
  • Love Jossie アマイタマシイ Rising(*)
  • 描き下ろし8ページ
3巻収録エピソード
  • KEEP ON! 甘い魂!(*)
  • デパート!地下物語!(*)
  • デパ地下と商店街のあいだ(*)
  • MAKE A HAPPY~幸せを作ろう!~(*)
  • デパ地下戦線異状あり?(*)
  • I WILL SURVIVE(*)
  • 物質文明の幻想(*)
  • 甘い魂が自由になる場所を探して(*)
  • 描き下ろし6ページ

*印は初単行本化となるエピソード。

あらすじ

きっかけは、幼い頃に夢中で食べたあのケーキ。
スイーツ好きで意気投合した羽衣と賀句は、天才パティシエ・熊谷周作シェフを口説き落とし、共同で洋菓子店を経営しようと決意した。
しかし、シェフは恐るべき超変人だったのだ…!!
材料費を惜しまぬ熊谷シェフの方針で、店の経営状態がみるみる悪化していく。
そこへTV番組のスイーツ対決出場の話が舞い込む。
店の宣伝を目指し、出場することになるが、対決相手たちは強者揃い!
果たしてスイーツ対決の行方は!?
一方、洋菓子店の繁盛のおかげで活気づいてきた商店街には、不穏な影が忍び寄っていた…。
杉本亜未の傑作コメディ、初の全単行本化!

杉本亜未(スギモトアミ)
杉本亜未

マンガ家。代表作に「Animal X」「ファンタジウム」ほか。

福田里香(フクダリカ)

お菓子研究家。マンガ好き。著書にマンガをイメージしたレシピ&コラム集「まんがキッチン」(アスペクト)、画像の中のフードに関するエッセイ集「ゴロツキはいつも食卓を襲う」(太田出版)がある。