ASMR×アニメ=癒しのフロンティア!「180秒で君の耳を幸せにできるか?」ASMR初心者もきっとハマる新感覚のエンタテインメント (2/3)

ASMRで癒される新感覚アニメ
「180秒で君の耳を幸せにできるか?」の魅力とは

文 / 太田祥暉

あなたは“ASMR”という言葉を聞いたことがあるだろうか?
ASMRとは、「Autonomous Sensory Meridian Response」略で、直訳だと「自律感覚絶頂反応」。聴覚や視覚によって気持ちいいと感じる反応のことだ。最近では、雨音や虫の鳴き声、筆記音、耳かきの音などをバイノーラル環境で収録し、どこで鳴っているのか詳細な距離感も掴めるような“音フェチ動画”のことを指すことが多い。2019年の上半期に発表された女子中高生のトレンドをリサーチする「JK・JC流行語大賞」ではコトバ部門で第1位を獲得。それからYouTubeでの爆発的な普及もあって、多くのファンを獲得してきた。

TVアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか?」より。

TVアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか?」より。

YouTubeでASMRと検索してみると、国内外問わず多くの動画がヒットする。YouTuberがスライムをカットするものや耳かきをするもの、VTuberやキャラクターがオノマトペやシチュエーションボイスを耳元で囁くもの……。近年では白石麻衣や本田翼のような著名な芸能人もASMRに挑戦したり、ラジオでASMR音声のみを取り扱ったプログラムが放送されたりするケースもあり、知らず知らずのうちに聴いていたなんてこともあるかもしれない。
しかし実際にASMRを聴いたことのない方の中には、「そんな耳元で音が鳴るだけで、本当に気持ちいいの?」と思ってしまう人もいるだろう。かくいう筆者も、初めてバイノーラル音声を聴く日まではそういった認識であった。それにここまでさまざまなASMR作品が乱立してくると、どれを初手で選べばいいのかわからないのも事実だろう。そこで、ASMRの魅力を筆者がかいつまんで紹介したいと思う。

ASMRで聴くバイノーラル音声の良さ

そもそも、何故耳元で音が鳴るだけで「気持ちいい」と感じるのだろうか。その理由の1つは、ASMRが特殊な機材を使用して収録されていることにある。通常の音声はLとR、つまり左右に音声が分けられているだけだが(厳密にはそうではないものの)、ASMRは場所と距離が詳細にわかるようなバイノーラル環境で収録されていることが多い。例えばKU100をはじめとするダミーヘッドマイクがその代表格。ダミーヘッドマイクの耳元で囁いた音声は、イヤフォンやヘッドフォンで聴いている私たちの耳元でもそのまま聴こえるため、ゾクッとした刺激を受ける。誰かが耳元で気持ちいい音を鳴らしてくれている! それがまさにASMRの気持ちよさだ。
環境音をBGMにしてもよし、気持ちいい音を聴いて心を休ませるのもよし。大好きなアイドルが耳元で囁くなんていう現実でならあり得ないシチュエーションが可能なのもASMRの魅力だ。

TVアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか?」より。

TVアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか?」より。

先にも挙げたように、YouTubeなどでもASMRの定番となっているのは調理音や耳かき、オノマトペなど。そんなありふれたただの音が気持ちいいの?となるかもしれない。だが、シンプルだけれどもどこか気持ちよさが伴った音が耳元で流れることで、癒しが生まれる。これも、ASMRが受け入れられている1つの理由だろう。
シチュエーションボイスについても触れたが、VTuberのほかにも人気声優やマンガ・ライトノベルのキャラクターによるASMRコンテンツは年々増加傾向にある。特に後者は、マンガやライトノベルの本編では描かれないキャラクターの日常シーンが深掘りされているのが特徴。調理音や筆記音、呼吸、添い寝などほんの些細な描写であっても、距離感のわかるASMR音声にすることで、キャラクターを密に感じられるようになるのだ。
しかし、シチュエーションボイスは音という情報のみに頼ったコンテンツ。ASMRを未だ聴いたことがない人が入り込めるかというと厳しい面もあるだろう。そんな初心者にもオススメなのが、アニメという媒体でさまざまなシチュエーションを映像化し、さらに耳元で気持ちよい音が聴こえる作品「180秒で君の耳を幸せにできるか?」である。

「180秒」は新感覚の「癒しアニメ」だ

「180秒で君の耳を幸せにできるか?」は180秒=本編3分間でさまざまなASMRならではのシチュエーションを描くショートアニメだ。主人公は視聴者自身。「あなた」がASMRに興味を抱いていると知った幼なじみの澤家月光(CV:三上枝織)は、自分に興味を持ってもらおうとダミーヘッドマイクを購入し研究を開始する。さらに月光と仲良くなりたい鏡秋水(CV:三森すずこ)も、共通の話題を作るべくASMRを始めるように。そうして彼女らを中心に、7人のキャラクターがASMRと出会っていく。

TVアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか?」より。

TVアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか?」より。

「180秒で君の耳を幸せにできるか?」というタイトルを聞いて、ASMRファンの筆者は放送前にどんなシチュエーションとストーリーを繰り広げるのかと疑問を抱いていたが、第1話の放送とともに衝撃を受けた。キャラクターが耳かきをする、風鈴や蝉の音、炭酸水のシュワシュワ音を聴くなど、ひとつの気持ちよい音を180秒もの間たっぷり見せるという作りだったからだ。それをさまざまなキャラクターで、そして多くの人が観るであろうアニメという媒体で行っており、とても実験的な作りをしているのは一目瞭然だった。

TVアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか?」より。

TVアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか?」より。

TVアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか?」より。

TVアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか?」より。

特に第1話は月光がダミーヘッドマイクに向かって耳かきを行うという内容で、続く第2話は秋水が同様にダミーヘッドマイクに向かって耳かきを行っている。なぜ2話連続で同じ内容を?と思う方もいるだろう。キャラクターが変わっているからやり方が違う、というだけではない。第1話では竹、第2話ではチタンと耳かきの材質が異なっていて、それによりまた異なる気持ちよさを感じられるのだ。もちろん恥ずかしがりやな月光と、友達を作りたい秋水ならではのセリフによって、視聴者の感情も高ぶること必至である。

「180秒」で視聴者を癒しまくる演出の妙

本作の妙はシチュエーションだけには留まらない。YouTubeでもASMRの実写動画は多く投稿されているが、そのほとんどは定点カメラによるもの。確かに聴き手は動くわけではないから定点でもよい。しかし「180秒で君の耳を幸せにできるか?」はアニメという媒体を活かし、さまざまな構図からASMRに挑む少女たちの姿を映している。いろんな視点から少女たちやシチュエーションに使われるアイテムの姿を観られるというのは、まさにASMRアニメならではの新たな衝撃! 特にダミーヘッドマイク内部から口元を映すというフェチズムに満ちたカットは破壊力が凄まじかった。

TVアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか?」より。

TVアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか?」より。

そして魅力的なキャラクターたちが主人公=視聴者のためにASMRを行う、というのも本作の気持ちよさを際立たせるギミックのひとつ。第5話で登場した月光の母・澤家雨読による、母性の行き場がなくなった結果ダミーヘッドマイクに赤ちゃん言葉で話しかけながら、綿棒で耳掃除を行うというシチュエーションには鳥肌が抑えられなかった。シチュエーションと音声、加えてキャラクターがダミーヘッドマイクに対してどうやったら気持ちよくなるのか試行錯誤をしているという画が相乗効果となって耳元を刺激し、観ているだけ/聴いているだけで気持ちよさを感じるのだ。

ASMRの入り口としての「180秒」

多種多様なシチュエーションとキャラクターたちが、180秒という限られた尺の中で視聴者の耳を癒す「180秒で君の耳を幸せにできるか?」。ASMR初心者の方にはお気に入りのシチュエーションを見つけるための、そしてASMRをよく聴いている方には改めて好きなシチュエーションを知る指標になるのではないだろうか。ショートアニメゆえ、まだまだ月光や秋水たちキャラクターに癒されていたいという方は、公式で配信されている本作の音声作品を聴いていただき、そのほかのASMR作品にも手を伸ばしていただきたい。
本作はASMRに特化したショートアニメであるが、アニメファンに対して筆者が訴えたいことは「まだまだアニメには開拓できる演出があった」ということ。少女たちののどかな描写を観て癒されるだけでなく、音によって癒されるというレイヤーが加わったことでこれからのアニメに新たな表現方法が加わるかもしれない。そんな可能性を「180秒で君の耳を幸せにできるか?」には感じることができた。

TVアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか?」より。

TVアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか?」より。

プロフィール

太田祥暉(オオタサキ)

編集者・ライター。編集プロダクション・TARKUSに所属。学生時代より同人活動としてエンタメ系ZINE・PRANK!を編集し、2018年より商業媒体でもライター活動を始める。アニメやライトノベル、特撮を中心に書籍や記事の編集・執筆を行い、ASMR作品のシナリオなども手がけている。