ステージナタリー Power Push - 「過激派オペラ」江本純子インタビュー

青春と愛とエロを描いた処女小説で初メガホン

セックスシーンはコントで!

──映画好きの江本さんのこと、初監督作品でこう撮りたい、こう見せたいというプランをいろいろお持ちだったのでは?

ありました。でも、私が今まで映画を観て面白いと思ったシーンはいっぱいあるけど、観たことあるシーンを作ってもしょうがないわけで、結局現場で面白いと思った視点を突き詰めて、とにかく撮っていくしかなかったですね。好きなものしか撮ってないから、編集はものすごく大変だったんですけど(笑)。

──その中で、セックスシーンの撮影についてはどんな意識を?

映画「過激派オペラ」より。

私よく思うんですけど、男性の映像作家さんたちが、機材にしろ撮り方にしろすごく情報が多かったりとか進化してるのって、AVがあるからじゃないかと思って(笑)。ずっと子供の頃からAVに親しんでるから、映像でものを作ることへの意識というか、文化的偏差値が高いと思うんですよね(笑)。そういう意味ではセックスシーンの撮影に関して遅れを取ってるという意識があります。自慢するようなことじゃないですけど、私本当にAVとか観たことないし、映画のセックスシーンもあんまりちゃんと観ない。そういうことに興味がなく来てしまったものだから、いざセックスシーンを撮らなきゃいけないとなって、さあどうしようというのがありましたね。だから自分的にどう撮るというプランも、エロく撮るっていう意志も一切なくて、コントとして撮ろうと思いました。とにかく笑えるように撮れれば私のセックスシーンは完成すると。

──セックスシーンは何度も出てきますが、実は“最中”のシーンより、自然光の中でナオコと春が会話しているシーンのほうが生々しく、剥き出しな感じがしました。そういう点で、「女たちが繰り広げる15分に1度の剥き出しの愛──。」とか「狂おしいほどの青春と愛とエロ。」というキャッチコピーから持っていた印象と、観たあとの印象は少し違う気がしました。

映画「過激派オペラ」より。

キャッチコピーの「エロ」は、タイトルの「過激」に対してくっついてきた言葉で、ある種のハリボテ感というのと似てるんじゃないかと思っていて。裸であればエロかというとそうじゃないし、私としてはセックスシーンも女同士の恋愛も、人の営みの一部でしかないと思っているので。ただ、「エロ」って言葉を使うときの違和感というか難しさは確かにあって、この「エロ問題」は、私も長年考えているんですけどね(笑)。

育て耕すように、作品を作っていく

──先ほど江本さんは、「“演劇を通じて人と関わってきたこと”という部分で、私が書くことはいっぱいある」とお話されました。「過激派オペラ」の登場人物たちが、演劇のために人や社会に体当たりしていく感覚は、江本さんの実感としてもあるのではないかと思うのですが、今年の夏に小豆島で滞在制作された「大部のできごと」に関するインタビュー(参照:2016 | スペシャルなロング対談 ② )などを拝読すると、近年の江本さんは以前と少し違う展開を見せ始めているなと感じます。演劇と“それ以外”は、今、江本さんの中でどういった距離感なのでしょうか?

江本純子

20代の頃の演劇と生活の密着のさせ方とは違うけど、今もつながってはいます。私は今作るってことに対して、ある意味無理をしないようにしてるんです。わざわざ自分で枠組みとかルールを作って、その中で自分のやりたいことをやるというよりは、自然と道を進んでいったら場所を見つけて作品を作るというか。それが私の思う無理をしないってことなんですけど、そういうやり方っていわば、私の生活の中に常に演劇があるということなんです。ただ生活自体が、食とか住む場所もどんどん削いでシンプルになっている。10年前は何が必要かもわからなくて、人間関係も含めて過剰に無駄なものが多かったけれど、今は選択できるようになった。そういう意味で環境は変わったんですが、でも(創作の)姿勢自体は変わってないんじゃないかと思ってますね。あ、でも、演劇を演劇って呼ばなくなるかもしれない(笑)。ちょっと飛躍しちゃうかもしれないけど、農作業に近いというか、自分が食べるもののために、まず土地を耕し、生やし、育て、食べる、みたいな。この“耕す”って部分がかなり加わっているかな。

──その耕すものの中に、映画も入ってきている?

そうだと思います。だから今、人の姿を見て「あ、撮りたい」って思う。前は演劇にしたいって思ったんですけど、今は映画にしたくなる感覚が芽生えているんですよね。今はとにかく、作るってことをやっていきたくて。例えば今でも毛皮族のときのように、スーツ着て帽子かぶって歌って、ということはすぐできる。むしろ前よりも、芸の1つとしてできちゃうと思うけど、今はそれより作りたい。この間も小豆島に行ったらあまりに創作の環境が(東京と)違って、演劇の価値観が崩壊しちゃったし(笑)、これからも野外劇はやりたいと思ってるし、映画もやったらやったでまた新たな価値観を知ったりもするから……まだまだ全然、うごめいてるものがある。きっとずっと、こうしていくんでしょうね。

江本純子
映画「過激派オペラ」

映画「過激派オペラ」

東京・テアトル新宿:2016年10月1日よりレイトショー、大阪・第七藝術劇場:10月29日より、愛知・名古屋シネマテーク:11月12日より、福岡・福岡中洲大洋:12月17日より、ほか、順次全国公開予定
あらすじ

“女たらし”の女演出家・重信ナオコは劇団「毛布教」を立ち上げ、旗揚げ公演「過激派オペラ」のオーディションを開催。そんな中、1人の女優、岡高春に出会う。春に一目惚れしたナオコは春を主演に抜擢し、学生時代からの演劇仲間や新たに加わった劇団員たちと旗揚げ公演に向けて邁進していく。同時に、ナオコの猛烈なアタックにより春との恋愛も成就。絶好調のナオコは旗揚げ公演を大成功に終わらせ、すべて順調に進んでいるように思えたのだが……。

スタッフ

監督:江本純子
原作:江本純子「股間」(リトルモア刊)
脚本:吉川菜美、江本純子

キャスト

重信ナオコ:早織

岡高春:中村有沙

出水幸:桜井ユキ
工藤岳美:森田涼花
寺山田文子:佐久間麻由
麿角桃実:後藤ユウミ
松井はつね:石橋穂乃花
三浦ふみ:今中菜津美

夏村ゆり恵:趣里

ミツキ:増田有華
里菜:遠藤留奈
伊集院吹雪:範田紗々

仙川:宮下今日子
バイト先の女:梨木智香
松平了:岩瀬亮
劇場スタッフ:平野鈴

白塗りの男たち:<大駱駝艦>小田直哉、小林優太、金能弘、宮本正也

オーディション志願者:大井川皐月、木村香代子、妃野由樹子、藤井俊輔、巻島みのり、安川まり、吉川依吹、吉水りふ

不動産屋の女:安藤玉恵

桜田美代子:高田聖子

江本純子(エモトジュンコ)

1978年千葉県生まれ。立教大学入学と同時に演劇を始め、21歳で劇団「毛皮族」を旗揚げ。2009年の「セクシードライバー」、2010年の「小さな恋のエロジー」が岸田國士戯曲賞の最終候補作となる。2012年に初の海外公演として、毛皮族「女と報酬Le fric et les femmes」をフランス・パリ日本文化会館にて上演。近年の主な演出作品に「ライチ☆光クラブ」「幕末太陽傳」など。今年は「二月のできごと」、小豆島の大部で滞在制作した野外演劇「とうちゃんとしょうちゃんの猫文学」で台本・演出・出演を務めた。