音楽ナタリー Power Push - 女王蜂VS獄門島一家

2人が語る家族の“血縁関係”

女王蜂と獄門島一家のスプリットシングル「金星 / 死亡遊戯」がリリースされた。獄門島一家は女王蜂のアヴちゃん(Vo)がボーカルを務め、長岡亮介(G / ペトロールズ)、KenKen(B / LIFE IS GROOVE、RIZE)、中村達也(Dr / LOSALIOS、MANNISH BOYS)の4人からなるバンド。音楽ナタリーではスプリット盤のリリースを記念して、アヴちゃんとKenKenへのインタビューを実施。獄門島一家が結成されたきっかけや、メンバー間で交わしたスタジオ以外での会話といった獄門島一家の“家族関係”を紐解くエピソードについて言及してもらった。また2人は今作のジャケットに「ストリートファイター」など人気ゲームのイラストレーションを手掛けるイラストレーター・西村キヌによる描き下ろしイラストが採用された経緯や、同ゲームが与えた影響についても語ってくれた。

取材・文 / 田中和宏 撮影 / 西槇太一


獄門島一家結成の経緯

──まず獄門島一家の結成の経緯を聞かせてください。女王蜂が活動休止した際にアヴちゃんが音楽を1回辞めるくらい悩んでいたことがきっかけで結成されたそうですね。

左から、KenKen、アヴちゃん。

アヴちゃん そうなんです。活動休止して悩んでいた時期に実家に帰るか、それとも東京に居残るかっていうシビアな考えを巡らせてたときに、事務所のスタッフから「女王蜂に事務所やレコード会社が付いたってことは奇跡でもなんでもなくて、本当にいいバンドで、面白くてカッコいいからなんだよ」「もう1回、思いっきり音楽をやってごらん」と言っていただいてそんなときに、以前対バンで競演して以来仲良くさせていただいていた(中村)達也お父さまと「一緒に何かやりたいね」って話していたのを思い出して相談してみたら、即答で「やろう!」と言ってくれて。達也お父さまの紹介でKenKenちゃんとは出会ったんです。

──事務所の提案によって再び音楽を続けようという気持ちになれたと。

アヴちゃん 達也お父さまやKenKenちゃんが即答してくれて、「こんな人たちとやっていいんやな」と自信を取り戻せた感じ。あと周りが男の人だけのバンドをやったことなかったので挑戦でもありました。

KenKen 長岡(亮介)くんが入る前までは3人だけでスタジオ入ってたんだよね。

アヴちゃん そう。長岡キュンは女王蜂の休止前ラストライブのサポートをやってくれてたんですよ。女王蜂のときのどうしようもない、キリキリした私のことを知っているから頼もうか躊躇したけど、どうしても彼と一緒にやりたかったからお願いしたら快諾してくれて。獄門島一家が何をするかわからないっていうハラハラした感じが出せるのは長岡キュンのおかげ。「あ、こういう感じなのね」とやってることが想像できちゃうようなバンドは絶対に組みたくなかったから、彼の存在は欠かせなかったんです。

KenKen 3人は猛毒を持ってるんだけど、長岡くんだけが血清を持ってるみたいな感じがしてさ。そこでちょっとだけ解毒してくれるから、バランスがうまく取れて獄門島一家の音楽が人に伝わりやすくなってると思うんですよね。

アヴちゃんの苦悩

──獄門島一家を結成する以前のアヴちゃんはどういう心境だったんですか?

アヴちゃん そもそも女王蜂は結成して1年とちょっとくらいでメジャーデビューが決まって、全員が楽器を初めてやるようなバンドでした。デビュー当時はこれで一生食べてくというよりも青春の輝きというか、「やっていくうちに楽しくなって続けられていたらいいね」くらいの気持ちで、ただ漠然と女王蜂をやっていたんです。最初は自主企画も小さいライブハウスでやってたのに、気が付けばあっという間に大きいキャパシティのライブハウスでライブをやって、CDをリリースして、タイアップが決まって。そうこうしているうちにだんだん「どうしよう、(ファンの)期待を裏切れないぞ」っていう気持ちが強くなってきたんです。でも自分たちは練習することと、自分の音楽的なルーツを掘り下げることくらいしかできることがなくて、方向性が定まらなくなってしまって。

──練習することや、ルーツを掘り下げることは前向きなものではなかったということでしょうか?

左から、アヴちゃん、KenKen。

アヴちゃん 私はボーカリストで曲を書く人間なので、壁にぶち当たっても、気分がどん底でも、それすら歌にしてしまえば作品になるんですけど、バンド全体としては悩みを抱えたままになってしまっていて。で、復活のめどもまったく立たないまま泣く泣く活動を休止したんです。私はもし実家に帰ったら自分の性格上、風俗関係の仕事をすることになるだろうという気持ちがあったんですよね。

──どうしてですか?

アヴちゃん ライブを経験していて、水商売というだけじゃ足りないって思ったんですよ。ライブで“ファンと交わる関係”をすごく楽しんでいたし、それに喜びを得ていたので。もし音楽以外でそういう関わりを求めるとなると、自分はそういうお仕事に就くんだろうなってぼんやり考えていて。でも、さっき話したように事務所が「いていいよ」って言ってくれたので、今につながってるんです。

女王蜂(ジョオウバチ)

女王蜂

2009年神戸にて活動開始。2010年「FUJI ROCK FESTIVAL '10」のROOKIE A GO-GOステージに出演し、その衝撃的なルックスとパフォーマンスでオーディエンスの注目を集めた。2011年3月に初の全国流通盤アルバム「魔女狩り」をリリース。同年9月にはアルバム「孔雀」でソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズよりメジャーデビューを果たす。収録曲「デスコ」は映画「モテキ」のメインテーマに抜擢されたほか、彼女たち自身も本人役として映画に初出演し話題を呼んだ。2012年5月にギギちゃん(G)が利き腕の長期治療に専念するためバンドを“降板”するも、アヴちゃん(Vo)、やしちゃん(B)、ルリちゃん(Dr)の3人編成にサポートを迎える形で活動を継続。しかし同年12月にバンドは無期限活動休止を発表し、2013年2月のSHIBUYA-AX公演をもって活動を休止した。その後バンドは2014年2月のワンマンライブ「白熱戦」で1年ぶりに復活し、2015年1月に新ギタリスト・ひばりくんが正式加入。同年3月にドラマ「怪奇恋愛作戦」のオープニングテーマ「ヴィーナス」を収めたアルバム「奇麗」、7月に篠崎愛や志磨遼平(ドレスコーズ)が参加したナンバーを含む5曲入りCD「失神」をリリース。12月から2016年3月にかけて対バンライブシリーズ「蜜蜂ナイト」を実施し、KEYTALK、チームしゃちほこ、アヴちゃん在籍の獄門島一家らと競演した。5月に獄門島一家とのスプリットシングル「金星 / 死亡遊戯」を発表し、5月15日の愛知・ElectricLadyLand公演から7月9日の東京・Zepp DiverCity TOKYO公演まで全国10カ所をまわるワンマンツアーを開催。6月にはフランス・パリ日本文化会館にてバンド初の海外ライブを行うことも決定している。

獄門島一家(ゴクモントウイッカ)

獄門島一家

女王蜂のアヴちゃん(Vo)がボーカルを務め、長岡亮介(G / ペトロールズ)、KenKen(B / LIFE IS GROOVE、RIZE)、中村達也(Dr / LOSALIOS、MANNISH BOYS)の4人からなるバンド。アヴちゃん在籍の女王蜂活動休止後の2013年に結成され、「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013 in EZO」でライブデビューを果たす。その後デモ音源がWeb上に公開されるもCDリリースはないまま、同年10月に東京・LIQUIDROOMでワンマンライブ「第一回 獄門島一家会合」を開催。チケットは即日ソールドアウトし、盛況を収めた。その後、表立った活動を見せなかったが2015年7月に約1年9カ月ぶりにLIQUIDROOMで再び単独公演を実施。11月には神奈川と京都でもワンマンライブを行い、会場限定でCD付き雑誌「実録!獄門島一家」を販売した。2016年3月に東京・EX THEATER ROPPONGIで行われた女王蜂の対バンライブシリーズの最終公演に出演。アヴちゃんが女王蜂、獄門島一家のメンバーとしてステージに立った。5月に女王蜂とのスプリットシングル「金星 / 死亡遊戯」をリリース。