音楽ナタリー PowerPush - 米津玄師

“花の壁”が示すもの

許されたい、肯定してもらいたい、定義してもらいたい

──カップリングの曲についても話を聞ければと思うんですけれども。まず「懺悔の街」。これはバンドアレンジで、シャッフルビートのノリのいい曲。これはどういうふうに作った曲なんでしょうか?

この曲も引越ししたあとにできた曲です。本当に一瞬でできたんですよ。個人的にもこの曲はすごく気に入っていて。「Flowerwall」と近い部分もあると思います。“花の壁”もそうですけど、「懺悔の街」っていうのは、それ自体は善でも悪でもない。誰かの善意のもと、悪意のもと作られたわけではないものであって。

──この曲も核となるイメージがあったんでしょうか?

そうですね。自分が生まれ育った故郷にひさしぶりに帰ったときのことを覚えてるんですけど、そういうときって昔よく遊んだ公園が小さく見えたり、通学路が狭く見えたりしますよね。それは別に街が変わったわけではなくて、俺が大きくなっただけで。すごく当たり前の話ですけど、そういうことを思ったときに、もう元に戻れないっていう不可逆性みたいなものを感じるんです。それで、すごく憂鬱になったりするし、悲しくなったりする。この曲を作っているときはそういうことを考えてましたね。

──「懺悔」という言葉が象徴として出てきたのは?

なんというか……誰かに許されたいっていう感覚が昔からあるんです。「自分が今生きることは許されていないのではないか?」っていう感覚が子供の頃からあって。それはどうしても拭えないんですよね。結局根底にはそういうものがある。「元には戻れないんだ」「あのときああしていたら、自分の人生はもっと順風満帆だったのかもしれない」みたいなことを考えたときに……やっぱり誰かに許されたい、誰かに肯定してもらいたい、定義してもらいたいっていう感覚が強くあるんです。

「本当の自分」なんてちゃんちゃらおかしい

──「ペトリコール」はどうでしょう。サウンド的には海外のインディR&Bやエレクトロニカに通じるところがありますけれども。

これも本当に、なんのフィルターも通っていない曲です。「Flowerwall」とか「懺悔の街」には、「こうするべきなんじゃないか」っていうか「こうしなければならない」みたいな感覚が少なからずあるんですね。それは別に悪いことではないし、ポジティブな意味なんですけれども。「ペトリコール」はそういうフィルターをまったく通さず自然体のまま作ったらこうなったっていう。

──「ペトリコール」って、“雨の匂い”という意味なんですよね。この言葉はどういう経路で知った言葉なんですか?

ネットで調べ物をしてるときにたまたま目に入った言葉です。すごく語感がいいし、字面もいいし、どういう意味なんだろうって思って調べてみたら“雨の降ったあとの匂い”という意味だと知って、「あ、じゃあこの曲にぴったりだな」と思って。

──イメージとしては、「Flowerwall」は花の壁、「懺悔の街」は子供の頃の公園があったわけですよね。この曲は?

それが何も考えてないんですよね。音を組み合わせていくのに夢中になって、さらっと書いてさらっと曲にしたらこうなったっていう。

──なるほどね。そういう意味でもフィルターを通ってない。

うん。ただ言っておきたいのは、この曲のイメージが本来の自分だとは思われたくないってことで。フィルターを通さずできたとは言っても、これが本来の自分であるとか、これこそが正義なんだみたいな捉え方はしてほしくない。「Flowerwall」とか「懺悔の街」にあるフィルターもすべて自分だから。どれも本来の自分なんです。

──なるほど。

だから「自分」っていうのは、そもそも座標でしかないと思います。「本当の自分」なんて考え方はちゃんちゃらおかしいと思う。「自分」というのは「今の自分はここにいます」っていうマーカーでしかないし、相対的にどんどん変わっていく。「本当の自分は何か?」みたいに探したところで何も出てこないと思いますね。

Alt-Jはすごく好き、あとはサム・スミスも

米津が描いたイラスト。タイトルは「2015 HAPPY NEW YEAR」。

──2015年は、このシングルをリリースして、4月からさらに規模を拡大した全国ツアーもスタートさせるわけですけれども。次はもっとこうしたいという課題もある?

それはもう、確実にありますね。めちゃくちゃあります。やっぱり、前回のツアーではやれたことよりやれなかったことのほうが絶対多いと思ってるので。だから、それを1つひとつやっていくしかない。継続していこうと思います。

──ちなみに先ほどEDMというワードも出てきましたけれど、米津さんは最近の音楽を聴いて刺激を受けるようなことはありますか?

多いですね。昔のも聴きますし、同時代の音楽もそうです。

──ここ最近で刺激を受けた音楽は?

なんだろう……Alt-Jはすごく好きです。あとはサム・スミスも。どっちも同世代だし、サム・スミスはたぶん同い年なんですよね。同世代の人たちがこれだけクオリティの高いものを作ってることにも刺激を受けたりします。自分自身も新しいことをどんどんやっていきたいと思います。

──わかりました。今は米津玄師の向かう先みたいなものもある程度見えている感じでしょうか?

そうですね。もうやることは1つしかないと思ってるんで、自分の中ではそのやるべき道筋をなぞっていくだけですね。曲が先にあって、自分はその後を付いていくような感覚です。

ニューシングル「Flowerwall」 / 2015年1月14日発売 / UNIVERSAL SIGMA
ニューシングル「Flowerwall」
初回限定盤 [CD+DVD+画集] / 2052円 / UMCK-9716
限定スペシャルセット [CD+ポスター] / 1620円 / PDCS-5915
通常盤 [CD] / 1188円 / UMCK-5554
CD収録曲
  1. Flowerwall
  2. 懺悔の街
  3. ペトリコール
初回限定盤DVD収録内容
  • Flowerwall (Music Video)
米津玄師(ヨネヅケンシ)

男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にボーカロイド楽曲の投稿をスタートし、代表曲「マトリョシカ」の再生回数は700万回を、「パンダヒーロー」の再生回数は400万回を超える人気楽曲となる。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表。全楽曲の作詞、作曲、編曲、ミックスを1人で手がけているほか、アルバムジャケットやブックレット掲載のイラスト、アニメーションでできたビデオクリップも自身の手によるもの。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月、シングル「サンタマリア」でユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。同年10月にメジャー2ndシングル「MAD HEAD LOVE / ポッピンアパシー」、ハチ時代のアルバム「花束と水葬」「OFFICIAL ORANGE」の再発盤をリリースした。2014年4月、米津玄師名義としては2枚目のアルバム「YANKEE」を発表。同年6月には初めてのワンマンライブを東京・UNITで開催した。2015年1月にシングル「Flowerwall」をリリース。4月には全国ツアー「米津玄師 2015 TOUR / 花ゆり落ちる」を開催し、10公演を行うことが決定している。