ナタリー PowerPush - VELTPUNCH
迎合せずに戦っていく──新作「BLACK ALBUM」堂々完成
バンドやシーンの流れはどうでもいい
──そうやってギリギリになってから曲を作ったというのは、音楽への接し方を改めて見つめ直すためですか?
長沼 そうかもしれません。VELTPUNCHは今作でアルバムが6枚目なんですけど、作っていく中で自分の欲求が満たされているのを感じたんです。そこでね、今までのアルバムもベストを尽くしてるんですけど、でももっと先へ向かうにはどうすればいいか考えて。その時々で流行っている音楽を取り入れるとかいろいろ逃げ道はあるけど、それはやりたくなかったんです。そこから先へ進むには、やっぱり本当に好きなもの、本当にやりたいことを自分の中から引っ張り出すしかないと。満たされつつあったものを一回ナシにした感じで。
──ギリギリになって出てきたものこそが本当に欲してるものだと。でも曲を作る長沼さんがギリギリまで曲を作らないって、メンバーから見ていかがでしたか?
ナカジマ ギリギリになって曲を作ってきて、私がその段階では「もう次のアルバムはダメだよね」って言ったらしくて。私自身は忘れてるんですけど(笑)。それで奮起したみたいで。
長沼 途中、何曲か持っていったときに「ダメだね」って。ちょっとこれは舐められたもんだと(笑)。
ナカジマ だから大変なレコーディングではあったんですけど、でも前作もギリギリだったしね(笑)。実際、途中までは「このアルバムはダメだな」って思ったんですけど、今までもシングル的な存在になるような、軸となるような曲は最後にできるんですよ。今回も2曲目の「クライマーズ ハイ」を最後に作ってきて。この曲のデモを聴いたときにすごくいいなと思って。そこから私も俄然やる気になった(笑)。
──「クライマーズ ハイ」はちょっとミディアムでメロディアスで。この曲があってシュッと軸が生まれたという。
ナカジマ そうですね。その曲ができてから、それまであった、私がダメっぽいって思ってた曲もどんどん輝き出して。曲と曲が反射し合ったというか。カッコよく言うと光が射した。洞窟の中で「そろそろ酸素もなくなるぞー」ってときに「ああ、助かった」って(笑)。
長沼 ちょっとひどいんじゃない? その例え(笑)。でも僕も今作、まだ自分でもよくわかってないとこがあって。作ってるときは狙いも何もなくガムシャラな感じだったんで。マスタリング終わってからずっと自分達のCDを聴き続けていて、今、咀嚼中の段階で。今の段階で思ったことは、難しいことはいらないなって。今作はカッコいいと思うし好きなものが出せた。そこはとても満足してるんです。それが自分達のバンドの流れであったりシーンの流れであったり、流れの中でどういう位置にあるのかはわからないんだけど。それもどうでもいいような気がするんですよね。そんなことより1作1作をきちんと作っていけばいいんだなって。
スマパンの解散インタビューを読んで声を出して泣いた
──私は今作で集大成的な、今までの活動の縦の線がつながったと思ったんだけど、それはむしろ意識しなかったから出てきたものなんですね。
長沼 うん。今までは「この時代だからこの音」って、自分の作品を分析できたんですけど、今回は分析できないし分析する必要もないんじゃないかって。
──前作はカラフルな感じでしたけど、今作はメロディアスだし起伏もあるけど全体の感じはドッシリしてますよね。
長沼 そうですね。勢いはありつつ、ドッシリやれてると思います。
──実は私は、安心してのびのびと作ったんだなって印象を持ったんですよ。爆音でもメロディという着地点があるから大丈夫だって。だからバンドの素が出た堂々とした作品だと。
長沼 ああ、実際はストレスもあったし大変だったんですけど、そもそも僕がギリギリまで曲を作らないでいられたのもメンバーを信頼してるからでしょうしね。昔、スリーピースの頃は、僕が曲をほとんど全部仕上げてからメンバーに渡してたんです。しかもスリーピースだと音数が少ないから頭の中で鳴ってる理想の音にするために、音源ではかなり音を重ねたり。でもフォーピースになってからは、そんなに重ねなくても理想の音が出せるし、同時に僕も曲の土台だけ作って、アレンジはメンバー各々だったりセッションで作ったりっていうふうに変わってきた。メンバーに任せる部分がすごく増えてきたんです。それによってバンド感が増したと思うし4人の個性が出るようになった。僕1人では出せない音ですよね。
──うん。あの、長沼さんはすごくポップな曲もひねくれた感じの曲も、両方作れますよね。
長沼 そうですね。両方作れますね。
──だから器用な方だと思うんです。でも器用なだけの音楽は好きではないと思うし、実際、今作には器用なバンドでは済まされない熱が充満してる。
長沼 うん。基本的にはドMだと思います(笑)。普段の生活はわりと器用だし、音楽に関しても器用にやれてしまうとこもあると思うんです。でもそれはつまらない。そんなものでは満たされない。いかに自分を苦しめて胃がキリキリする思いをして、そうやって出てきたものこそ自分で信用できる。
──エモが好きなのもそういうとこですよね。
長沼 そうですね。熱いほとばしりってやつですよね。
──それと同時にポップな感覚もあればひねくれた感覚もある。そのせめぎ合いが熱となって出てると思います。
ナカジマ やっぱりね、その狭間だと思うんですよ。世代的にも。
長沼 うん。かつてのハードコアのストイックな感じと、今の世代の柔軟な感じ。幸か不幸か、両方を知ってるんですよね。
──やっぱりそこがVELTPUNCHの存在感ですよね、90年代と現在をつなぐ感じ。実はなかなかいないですよ、そういうバンド。
長沼 多分僕は、例えばソロになったらいろんなことをやりたいと思うし、先端の音もこだわりなくやるかもしれない。でもVELTPUNCHをやる以上はVELTPUNCHの音楽をやろうと。あの、スマパン(THE SMASHING PUMPKINS)が解散したときのインタビューで、セールス的にピークなとこから落ちてきて、当時の人気のブリトニー・スピアーズとかのポップアイドルに比べてCDが売れなくなってきて「僕らは敗北したんだ」って、まるで自分達がやってきたことを否定するような言葉を残して解散して。僕は物心ついてから泣いたことなかったのに、それ読んで声を出して泣いたんですよ。裏切られた思いがしたし悔しかった。当時のオルタナティブは僕にとって世界を変えるぐらい強い力があって、それを信じて自分もバンドを始めた。それなのに、セールス的なことを口にしてポップアイドルなんかを引き合いに出して敗北なんて言ってほしくなかった。だから僕はVELTPUNCHをやる以上は、絶対にリスナーの人が聴いてVELTPUNCHだって納得するものを作り続けようって。セールスとか流行りの音楽への迎合じゃなく、そんなとこで戦うんじゃなく、戦うべきとこはVELTPUNCH自身の中にある。それは今作を作ってわかったことです。
CD収録曲
- CRASH CRASH CRASH
- クライマーズ ハイ
- それは正に蛇のように頭上を蛇行する首都高速が彼女の部屋から太陽を奪った。
- Kill the CLUB DJ
- Don't spit to your pineapple
- FREE FALLING (A dolphin, is there?)
- youth
- FEEL LIKE A STAR
6th Album“BLACK ALBUM”
レコ発東名阪ワンマンツアー
- 2010年3月6日(土)
@名古屋新栄クラブロックンロール
ローソンチケット Lコード: 40363 (発売中)
イープラス (発売中)
店頭販売 (発売中)
[問] 新栄クラブロックンロール (TEL:052-262-5150) - 2010年3月13日(土)
@東京下北沢SHELTER
ローソンチケット Lコード:75237 (発売中)
[問] 下北沢SHELTER (TEL:03-3466-7430) - 2010年4月17日(土)
@大阪福島LIVE SQUARE 2nd LINE
ローソンチケット Lコード: 51711 (発売中)
チケットぴあ Pコード: 347-140 (発売中)
イープラス (発売中)
[問] 大阪福島LIVE SQUARE 2nd LINE (TEL:06-6453-1985)
全公演共通
OPEN 18:30 / START 19:00
前売 2300円 / 当日 2800円
VELTPUNCH(べるとぱんち)
1997年に長沼秀典(Vo,G)、ナカジマアイコ(B,Vo)らを中心に結成された4人組バンド。下北沢、渋谷、三軒茶屋を中心にライブ活動をスタート。また国内のみならず、「SXSW」など海外ライブも積極的に行い、現地での人気を高めていく。2003年に遠藤泰介(Dr,Scream)、2006年には姫野聖二(G,Cho)が加入。長沼&ナカジマによるツインボーカルが特徴で、時にエモーショナルで激しく、時に繊細なギターロックサウンドが多くのファンを惹きつけている。