突然生まれた「KLING! KLANG!!」

──ここからはアルバム楽曲について詳しく聞かせてください。アルバム全体の構想はどのように固めていったんですか？

沖井　まずは全部で12曲という大枠を決めて。その中で最初に来るもので「あなたにはがっかり」って言うのはいいなと（笑）。

清浦　出会っていきなり「あなたにはがっかり」って！っていう（笑）。

──ははは（笑）。個人的な感想を言うと、アルバムの全12曲の中で最もシングル的だなと感じたのは「月の女王と眠たいテーブルクロス」だったんですね。「沖井礼二と清浦夏実が新たに始めたバンド」を想像したときに一番イメージ通りというか。

沖井　ええ、ええ。これはプロジェクトのかなり早い段階でできた曲ですが、今のTWEEDEESの原型になる曲だと思うんです。順番としてはこの曲の前に「電離層の彼方へ」を作っていて……僕は「十九色」に入っていた「銀色の悲しみ」という曲が持つ憂いが大好きなんですけど、彼女のキャラクターは明るいんだけどどこか憂いのある感じ、それを僕ならもっと引き出せると思って書いたのが「電離層」なんです。メロディとしては自分で作った曲の中でも特に好きな部類なのですが、TWEEDEESを代表する曲ではないなと。そう思って次に作ったのが「月の女王」なんですよ。この「月の女王」を軸に「ブリキの思い出」や「蝉時雨の止む頃に」といったバリエーションができてきた。

──でもTWEEDEES結成発表のタイミングで真っ先にリリースされたのは、アルバムのラストを飾る「KLING! KLANG!!」でした。この曲を挨拶代わりの1曲に選んだのはなぜですか？

沖井　この曲は、竹達彩奈さんの「サーフでゴゴゴ」の作詞をするためにファミレスに行って、歌詞を書き終えた帰り道で突然メロディが浮かんできて。「俺の中になかった新しいものが生まれてきた」と大急ぎでその日のうちにMacに向かって曲を書き上げたんです。

清浦　ハイ先生。私思うに……このバンドで曲作りを進めている頃、沖井さんは同時進行で彩ちゃんや（花澤）香菜ちゃんの曲を書いていて。いわゆる外仕事ですね。そこで沖井さんがどんどんどんどんポップになっていくのをそばで見ていて感じていたんです。ポップで、入口が広くなっている感じというか。そういう外仕事での影響もあって「KLING! KLANG!!」ができたんじゃないかと思うんですけど。

沖井　うん。特に「ゴゴゴ」のあとだったのはデカかったかもしれない。Cymbalsの中でも人気の高い「Rally」という曲がありますが、実はあの曲、僕はそれほど好きではなくて。自分の好きな形の「Rally」が書けたなと思っているのが「ゴゴゴ」なんですよ（笑）。自分の中に新しく生まれたポップさ、キャッチーさをつかみかけてきたところに突然浮かび上がってきたのが「KLING! KLANG!!」だった。録音が終わったあとは乾杯しましたね（笑）。

清浦　お刺身を食べながら（笑）。

沖井　彼女もここで自分のボーカルというものを把握したのかもしれない。彼女が曲を作り始めたのもその頃。

Rock'n Roll is DEAD?

──アルバム2曲目の「Rock'n Roll is DEAD?」が清浦さんと沖井さんの共作名義による作曲で、沖井さんは作詞を手がけていますが、これはなぜこのタイトルになったんですか？

清浦　それは私も聞きたいです（笑）。

──まず曲作りはどのようなプロセスで？

清浦　お風呂に入っているときにサビのメロディが浮かんだんです。

沖井　本当にお風呂で歌ったんだろうなあという楽しげなメロディだったわけですよ。僕のような職業で作曲をするような人間には出てこない、曲を作り始めたばかりの人ならではのフレッシュさがそこにはあって、これには敵わないと思ったんですね。フレッシュで楽しいメロディに、フレッシュで楽しい言葉を乗っけたら、それは単に甘いだけのものになってしまうから、何かキーワードを考えなきゃなあと思ったときに……話は脱線しちゃいますけど、最近彼女と同じ世代ぐらいの若いバンドと話していると、我々が大事にしてきたロックはすでに価値がない、ただし彼ら彼女らは僕たちがロックに向けていたものと同じ情熱を別の何かにぶつけているんだなと気が付いて。「Rock'n Roll is DEAD」のあとに「?」が付いてるのはそういうことなんです。

──なるほど。

沖井　我々が大事にしてきたロックは死んだけど、別の何かに形を変えて生きてるんだなと。すごくうれしかったんですよ。もともとロックはティーンエイジャーの音楽だし、我々がロックだと思っているものはもはや懐メロでしかないんだろうなと。それは僕にとっては大事なものだから死ぬまで大事に聴いていきますけども、彼ら彼女らがそれを聴いてないからって「お前らわかってない」とはとても言えないと気付いたんです。彼ら彼女らの中には新しいロックがあって、それが育っていくところを一緒に見ていきたいなという気持ちが強くなって。この気持ちを表現するには彼女が作ってきたフレッシュなメロディに乗っけるのが一番だなと思い、こうなりましたと。

清浦　ふふふふふ（笑）。予想以上に喜んでもらえて。言ってることはよくわからないんですけど。

沖井　わかんないの!? まあわかんなければいいや（笑）。

清浦　だってロックが死んだとかって言われても。

──歌っている通りの「残酷で聡明な新しい世代」ですね（笑）。

沖井　彼ら彼女らは僕らの屍を踏み越えていくんですよ。でもそれはいいこと。

作曲家・清浦夏実

──このプロジェクトが発表される前から清浦さんはTwitterでよく「作曲している」とつぶやいていましたよね。今回のアルバムで清浦さんが作曲しているのは「Rock'n Roll is DEAD?」のみですけど、ほかにもストックが？

清浦　はい。沖井さんがGarageBand‎（音楽制作ソフト）を使っているのを見て「これなら私にもできるかもしれない」と思って。少しずつ作っています。

沖井　それに関しては僕は一切手伝わないです。それをやっちゃったら彼女の芽を摘んでしまうことになるかなと思って。DAWを覚えるのもいいことだし、「Rock'n Roll is DEAD?」にしても、僕には到底思い付かないようなコード進行が出てくるわけですよ。

──それはきっと冒頭に出た利害関係の「顔とノド」以外で沖井さんが欲しているものですよね。

沖井　そう。びっくりするような閃きというものを出せるところまで出してやろうと。そのために僕は作曲家として手伝いをしちゃダメ。「このドラムをループしたいんですけど」というときだけ「こうやってコピペすればできるよ」と教えるぐらい。

清浦　ソロのときにも作曲をしたんですけど、最初に作曲したものがCDになるプレッシャーがすごくて「作りたくない！」って思っちゃったんですよ。でも今はのびのびと作曲を楽しめてますね。

沖井　ダメなものはダメだって言うしね。

清浦　ボツ曲もいっぱいあるんですよ（笑）。でも今は沖井さんがいい曲を書いてくれるという安心感もあるから、思いきり練習ができているんです。もっともっと採用されるようになりたい（笑）。

──最終的なジャッジは司令塔である沖井さんが？

沖井　いや、2人で相談します。僕から彼女に「この曲どう思う？」って聞いてボツになった曲もありますから（笑）。

清浦　暗い、とか言って（笑）。やり合ってますよ、意外と。