ナタリー PowerPush - TARO SOUL
よりソウルフルに、より強く、より素直に 第2幕を告げる新作「So Much Soul」
カッコつけないこと
──TAROさんからすると「So Much Soul」はどんな作品になったと思いますか?
すごい素直な作品だと思います。今回一番意識したのは、カッコつけないこと。今まではヒップホップってものの何かを借りて、“ラッパーTARO SOUL”という鎧を着込んでステージに立ってたような部分がすごくあって。でもそういうのを1回脱ぎ捨ててみたいというか、いち音楽人として、いち人間としてそのトピックに向き合ったときに生まれる感情を大事にする。それを詞にしたとき、音楽としてもっと伝わりやすいものになるんじゃないかって考えました。
──「カッコつけない」というのは確かに伝わるかも。リリックを見ても、TAROさんの等身大の気持ちがすごく正直に描かれてるなぁと思いました。
だいぶ正直に書きました。でも本当は最初、やっぱカッコつけて書いてたんですよ。そしたら「おまえこんなにカッコ良くないだろ」って言われて、いち人間として素直になろうとしたらカッコ悪いこともちゃんと言葉にしなくちゃなって思ったんです。
──「Escape」みたいなラブソングもまっすぐ堂々としていて、全然照れを感じませんでしたし。
いやーあれは相当恥ずかしかったですけどね(笑)。自分は恥ずかしいけど途中で何度も周りの人に聴かせるんで、だんだん慣れてきてできるようになったんです。
普遍的な音楽の持つ力、そういう音楽やってる人の強さ
それから、表現方法のひとつとしてJ-POPの詞の面白さを見出したっていうのも今回でかいですね。J-POPの言葉の選び方とか感情の切り取り方が日本語ラップにない特性を持ってることは確かだし、その良さも自分の中に取り入れていきたいと思って。J-POPの名曲を聴いてるとすっげえ歌詞だなって圧倒されることもたくさんあって、日本語ラップはこいつらと戦っていかなきゃなって思ったりする。別に負けてるわけじゃないけども、純粋にひとつの音楽としてちゃんと歌謡曲と肩を並べられるものにしていきたい、と。
──じゃあガチガチのヒップホップアルバムを作る気はなかったんですね。
はい、全然思わなかったですね。今回の作品を特に聴いてほしいのは、普段ヒップホップを聴かない人たち。日本語ラップが好きな人はシーンに対する知識があったり、前情報があったり、その人のバックグラウンドをわかった上で聴いたりするけど、今回はそうじゃなくただの音楽としてどれだけ楽しんでもらえるか。そこの強さを重視して作ったので、より多くの人に聴いてもらいたいです。
──そのように視野が大きく広がったのは、何か心境の変化があったからなんでしょうか。
去年マイケル・ジャクソンが亡くなったときに、普遍的な音楽の持つ力とか、そういう音楽やってる人の強さっていうものを改めて考えさせられて。で、自分もそんなふうになっていきたいと思ったし、普遍的な音楽の良さと向き合うことで、ヒップホップの良さも変な偏見なしにうまく伝わるんじゃないかと思ったんです。
──それは確かにあると思います。
自分はヒップホップしか知らないって言ったら大げさですけど、そういう人間なので、ヒップホップで表現するしかないんですよ。でも変にヒップホップを誇張することでどこかトゥーマッチに伝わっちゃったらもったいないな、とは前から感じてて。ヒップホップのど真ん中にいる人間だからこそ、そういう普遍的な音楽をやるのはすごく意味のあることだと思うんですよ。それをできる人がやっていったほうがいいと思うし、TARO SOULはやるべきだと思った。
──なるほど。これまでのTARO SOULは、ヒップホップという枠の中からシーンに向けてメッセージを発してきた印象が強いので「より多くの人に聴いてほしい」というのは大胆な転換にも思えました。
逆に、外に向いてるこの動きこそヒップホップの中の人たちに見てほしい部分ではありますね。彼らのことは大事な仲間・同志だと思ってるからこそ、じゃあ俺の成長していきたい方向性ってなんだろうって考えて、より対外的なアプローチを選びました。その場所がメジャーだろうがインディーだろうが関係なく、まずいろんな人にヒップホップの魅力、ひいては音楽の魅力を伝えていきたいっていうのは変わりませんから。
CD収録曲
- Special Thanks feat. Licana
- HeartBeat / TARO SOUL & KEN THE 390 feat. May J.
- Escape
- ほっとかないでbaby feat. あるま
- 受賞者 feat. サイプレス上野とロベルト吉野とRomancrewとDJ威蔵
- 現場でSEE YA! Pt.3 feat. DJ威蔵
初回盤DVD収録内容
- TARO SOUL & KEN THE 390 feat. May J.「HeartBeat」ビデオクリップ
TARO SOUL(たろうそうる)
1981年生まれ、神奈川県出身のヒップホップアーティスト。ブラックミュージックが家庭内で流れる環境で育ち、その後ヒップホップに出会いラップ/DJ/作詞/MCに没頭。2005年に盟友・KEN THE 390とともに太郎 & KEN THE 390名義でアルバム「JAAAM!!!」、2006年にソロアルバム「SOUL SPITS」をリリースした。その卓越したスキルとソウルフルなラップが評判となり、フィーチャリングゲストとしてさまざまな作品に参加。マボロシ、DABO、加藤ミリヤ、May Jなど、客演したアーティストは多数にわたる。「客演王」として名を馳せる中、2008年5月にミニアルバム「BIG SOUL」でメジャーデビューを果たしている。