ナタリー PowerPush - 竹渕慶
Goose houseの歌姫が明かす誰かのために歌う理由
インターネットの口コミを中心にファン層を拡大してきた次世代音楽ユニットGoose house。そのメンバーの1人、竹渕慶がミニアルバム「KEI's 8」でソロデビューを果たす。本作は竹渕の伸びやかで温かみのある歌声を軸にした、エバーグリーンな作品集に仕上がっている。Goose houseというユニットの一員として、そしていちシンガーソングライターとして同世代のリスナーから愛されている理由も、このアルバムを聴けば理解できるだろう。
ナタリー初登場となる今回は彼女の音楽的ルーツはもちろんのこと、ソングライターとしての原点やGoose houseの魅力、「KEI's 8」収録曲の制作秘話などをじっくり聞いた。
取材・文 / 西廣智一 インタビュー撮影 / 佐藤類
歌手を意識したきっかけは宇多田ヒカル
──最初に原体験として覚えてる音楽ってなんですか?
えーっと……時間軸が前後するかもしれないんですけど、たぶん「となりのトトロ」のエンディングテーマか、セリーヌ・ディオンの「タイタニック」の主題歌(「My Heart Will Go On」)のどっちかですね(笑)。その2曲はものすごい印象に残ってます。あと……今井美樹さんの「PRIDE」でしょうか。 お母さんがよく聴いていたので。
──家庭でよく音楽が流れていたんでしょうか? ご両親が積極的に音楽を聴くタイプだったとか。
はい、両親は音楽がすごく好きで、家では洋楽をよくかけてたみたいなんですけど。あと、車の中ではずっと童謡のカセットテープがかかってました。
──そういう環境で育って、初めて自分の意思で聴いて夢中になったアーティストは?
宇多田ヒカルさんです。確か私が小学校2年生くらいのときにデビューして。お父さんが会社の人に薦められて、「First Love」っていうアルバムを買ってきて、それを聴いたときに……それまでもずっと音楽が好きでよく歌ってたんですけど、宇多田さんを初めて聴いたときは何かこう……子供なりに衝撃をすごく受けたんです。で、それからはアルバムを何十回もリピートして聴いて、全曲歌詞の一字一句まで暗記して歌えるようになって。そこで初めてアーティストという存在を意識するようになって、歌手ってカッコいいなと思ったんです。
──それまでは「歌」ってものは認識はしてたけど、それを歌っている人までは意識してなかった?
そうなんですよ。「ただ耳に入ってくる声」として認識していて。でも宇多田さんを聴いて初めて「曲を作って歌う人」がいるんだっていうことを認識したんです。でも当時は宇多田さんはすごく大人だからああいう歌詞が書けるんだろうなと思ってたんですけど、よくよく考えてみるとあのときの宇多田さんって今の私よりも年下なんですよね(笑)。確か15歳くらいで……そう考えると信じられないですよね。
──宇多田さんのどういったところが「子供ながらに衝撃だった」んでしょうね?
私もよく考えるんですけど、本当にわからなくて。何かビビッときたのかな? でも迷う余地なく、絶対に私が歌手を意識するようになったきっかけは宇多田ヒカルさんなんです。
初めて作った曲がコンテストで優勝
──そこから「歌手になりたい」と思うようになったのはいつ頃だったか覚えてますか?
親に聞くとちっちゃい頃からずーっと歌ってはいたらしいんですけど、でも宇多田さんに出会って自分なりに衝撃を受けて、そこからじゃないですかね。宇多田さんの曲を聴くようになってからはずっと「歌手になりたい」って漠然と考えてたので。
──なるほど。では音楽活動というか、人前で歌うようになったのは?
もっとあとですね。「歌手になりたい」とは言ってたものの、じゃあそのためにはまず何をすればいいかもわからなくて。でも、ただ歌うことが好きで、周りから褒められるのが好きだったので、ずっと歌ってはいました。それが身内だけじゃなくて、大勢の人の前で歌を聴いてもらったのが……私、小学校3年生から6年生まで親の仕事の都合でアメリカにいたんです。ちょうどその頃に9.11のテロがあって、その翌年に私の通っていた区域の小学校で9.11にちなんで「勇気」をテーマにした芸術コンテストがあったんです。それは絵画とか音楽とかいろんな部門があって、私も「勇気」をテーマに歌詞を書いて、初めてメロディを付けてみて。でも人に聴かれるのが恥ずかしくて、部屋にこもってラジカセに向かって、すっごい小声で歌ったのを録音したんです(笑)。
──じゃあそれが「シンガーソングライター・竹渕慶」のルーツ?
そうなりますよね(笑)。で、この曲でなぜか優勝しちゃったんですよ、私。今考えるとアメリカに行って1年ぐらいだったんで英語もままならないし、本当にシンプルな歌詞なんですけど。しかも小声で囁いてるみたいな歌だし(笑)。なのに優勝して、朝礼で先生や生徒の前でその歌を流されてしまったんです。「先に言ってよ! こんなことならちゃんと録音したのに」って(笑)。それが初めて歌を誰かに聴いてもらうっていう体験だったんですけど、「ああ、音楽って自分でも作れるんだな」「聴いてくれる人、認めてくれる人もいるんだな」ってことがそこで初めてわかったんです。
──それをきっかけに、どんどん作詞作曲をするようになった?
いえ、そのあとはあまり曲作りはしなくて、ただ歌うことが楽しくて歌ってただけで。それから日本に戻って、中学3年生のときに自分でバンドを組んだんです。高校では軽音楽部に入り、東京事変と椎名林檎さんのコピーバンドを3つぐらい掛け持ちして、全部ボーカルをやらせてもらって。林檎さんがすごく好きだったので、モノマネみたいな感じでずっと歌ってました。で、私のすごく尊敬していた先輩がバスケ部にいて、その方も音楽をやってたんですけど、その人が卒業するときに「卒業生を送る会」の出し物として先輩のために曲を作ろうっていうことになって。それで一緒にバンドをやってたキーボードの子と作ったのが、今回のアルバムにも入ってる「舞花~my flower~」って曲なんです。友達が歌詞を書いて、それに私がメロディを付けて、卒業生を送る会で披露したんですけど、これをきっかけにいろいろ今の活動につながったんじゃないかな。だから「舞花~my flower~」はとっても大事な曲なんです。この曲がなかったら今、こうなってないと思います。
» 人の心に響く曲
- 竹渕慶 ミニアルバム「KEI's 8」/ 2014年3月5日発売 / Sony Music Records / SRCL-8480
- 竹渕慶「KEI's 8」[CD] 2500円 / SRCL-8480
-
収録曲
- ありがとう
- ブルーラブソング
- ドロシー
- cotton snow
- MERMAID
- ごめんねなんて言わない
- 車輪の唄
- 舞花 ~my flower~
竹渕慶(たけぶちけい)
Sony WalkmanのPlayYou.House企画から独立したシンガーソングライターが集う次世代ユニットGoose houseのメンバー。2011年からGoose houseの活動がスタートすると主だったメディア露出がない中、インターネットの口コミを中心にファンを獲得し、YouTubeの総再生回数は2億5000万回、チャンネル登録者は70万人を超える。CD制作、ライブにも精力的に活動。2014年2月にはGoose houseとして、アニメ「銀の匙 Silver Spoon」第2期エンディングテーマ「オトノナルホウヘ→」をCDリリース。そして竹渕自身も「Goose house×Sony Music Records Inc.」というソロプロジェクトで、3月にミニアルバム「KEI's 8」でデビューを果たした。