ナタリー PowerPush - supercell

ryoが語るsupercellの進化と新ボーカル“こゑだ”の魅力

今年3月に発売した2ndアルバム「Today Is A Beautiful Day」がオリコンウィークリーチャート3位にランクインし、なお10万枚に迫る大ヒットを飛ばしているsupercell。だがコンポーザーのryoは「第3期supercell」の開始を宣言し、新たなゲストボーカリストとして15歳の少女・こゑだを選んだ。彼女が歌う11月23日発売のニューシングル「My Dearest」はジャケットも曲調も歌詞もすべてが新しい、まさに新たなsupercellとなっている。

通常のバンドやユニットと異なり、さまざまな才能同士がぶつかり合って進化を続けていくsupercellの世界。次なる「第3期」はどのように形作られていくのだろうか。そして来るべき3rdアルバムはどうなるのか? ryoにじっくりと語ってもらった。

取材・文 / さやわか

2000人から選ばれたボーカリストは15歳

──ニューシングル「My Dearest」では新しいボーカリストとして、こゑださんが参加されています。なぜこのタイミングでボーカルを変えようと思われたのでしょうか?

アルバム1枚はボーカルを変えないのが好きなんです。それで1stアルバムのボーカリストは初音ミクで、2ndがnagiさんだったわけですね。元々supercellは「何かと何かがぶつかりあう現象」みたいな意味のユニットなので、今年の3月に2ndアルバムを出して次をどうするか考えたときに、supercellのあり方としてはボーカルを変えるのがいいかなと思ったんです。

──しかしsupercellのように知名度のあるユニットなのに、オーディションで決めるというのが面白いですね。しかも自薦・他薦を問わないという。

「いいボーカリストなら誰でもいいよ」っていうことなんですよ。supercellの曲のボーカルはこうじゃなきゃいけないというこだわりがないので、極端に言うと曲を作ったときにたまたまいた人が歌ってくれればいい。それで自薦でも他薦でもいいというオーディションをしました。

──2000人以上の応募があったそうですが、全員の声を全て聴いて決めたんですよね?

聴きました。まあ選ぶのをほかの人に任せられるわけでもないので、自分で聴くしかないんですね。そうやって2000人のボーカルをチェックしながら同時進行で曲を作ってたんで、そのツケでどんどんスケジュールがきつくなっているんですよ(笑)。今はもう次の曲を作らなきゃいけない時期なんで、今日も長いこと起きてる感じです。でもそのおかげで、いいボーカリストを見つけられたからよかったんですけど。

──2000人もいると、いろんな才能があったでしょうね。

そうですね。あと、応募してきてるのに連絡つかない人もいるし、連絡したら「私、やっぱりプロにはなれないです。ごめんなさい」とか言われたりしたケースもあったらしくて、「なんで俺、フラれたみたいになってんの」みたいな(笑)。

──「面白いボーカルだけれど、今supercellで作る音には向かない」みたいな人もいましたか?

それもありますけど、逆にボーカルを選ぶ段階では次がどんな音楽になるかはっきり決まってなかった部分が、こゑだちゃんの声を聴いて「ああ、これだったらこういう感じにできるな」と思った部分がありますね。最終的に候補に残ったほかの人たちもすごく良くて「あの人だったらこういう曲を作っただろうな」みたいな気持ちもありましたけど、今回は方向性をガラッと変えたかったので、こゑだちゃんになった感じです。

独特なこゑだのボーカルスタイル

──こゑださんの歌には、どういう魅力があったんでしょう。

オールマイティになんでも歌える感じがありましたね。あとボーカルって基本的に決められたメロディを歌うものなんですけど、彼女はあんまりそういう感じがしないんです。メロディとか譜割りとかも、かなり自由にやってくれる。だからあんまり細かく決めてても意味がないですね。そこがすごく面白いんですよ。メロディや譜割りを無視しているというよりは、多分本人に聴こえてる音がそうなんでしょうね。渡した曲を「こゑだフィルター」に通すとそうなる、みたいな感じ(笑)。そういうところは、ちょっと天才っぽい感じがしますね。

──そういう15歳の女の子が、福岡に住んでいたんですねえ。

「いるんだなあ」っていう感じでしたね(笑)。まあ、応募してくれた人はみんな若かったですけど。17、18歳ぐらいの子がわりと多かった気がします。

──こゑださんがボーカリストに決まってから、実際のレコーディングでryoさんから何かディレクションをしましたか?

いや、こゑだちゃんの場合は曲を渡して「まあ歌ってみて」っていう程度ですね(笑)。やっぱりほかの人だとそうはいかなかったと思います。「ここの歌詞はこういう意味だから、こういうふうに歌って」とか言ったかもしれないんですけど、こゑだちゃんの場合はもう、レコーディングが彼女のライブみたいなものなので。あと、彼女自身が歌い方を見つけていくんですね。最初に「じゃあ歌います」って1曲通して録音するんですけど、次に「じゃもう1回」って歌うと、全然歌い方が変わっていくんです。それを繰り返して、自分が歌いたい歌い方を見つけていく感じですね。10回ぐらい歌って、それぞれ良かった部分を組み合わせて歌う、みたいな。

──なるほど。それぞれのテイクで良かった部分を、デジタルの波形編集でつないで終わりにするわけじゃないんですね。

そうですね。良かった部分を組み合わせた感じで歌い直す。なんか、すごいですよね。自分自身で編集しているというか(笑)。

ニューシングル「My Dearest」 / 2011年11月23日発売 / Sony Music Records

  • 初回限定盤[CD+DVD] / 1575円(税込)/ SRCL7793~4 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤[CD] / 1223円(税込) / SRCL-7795 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. My Dearest
  2. 罪人
  3. 大貧民
  4. My Dearest(TV Edit)
  5. My Dearest -Instrumental-
  6. 罪人 -Instrumental-
  7. 大貧民 -Instrumental-
  8. My Dearest(TV Edit)-Instrumental-
supercell(すーぱーせる)

コンポーザーのryoと複数のイラストレーター、デザイナーによって構成されたユニット。VOCALOID「初音ミク」が歌唱するオリジナル曲をニコニコ動画にアップしたことから人気に火がつき、ニコニコ動画での楽曲の総再生回数は2000万回以上を記録する。その人気はインターネットを通じて爆発的に広がり、2009年3月に待望のメジャーデビューを果たす。1stアルバム「supercell」のセールスは10万枚を超え、翌年の「第24回日本ゴールドディスク大賞」にて「ザ・ベスト5ニュー・アーティスト」を受賞した。続く1stシングル「君の知らない物語」からはゲストボーカルにnagiを迎える。「君の知らない物語」はアニメ「化物語」の主題歌に起用され、こちらも大ヒットした。2011年3月には2年ぶりとなる2ndアルバム「Today Is A Beautiful Day」をリリースし、オリコンウィークリーチャートで3位を獲得。その後、新ボーカリストを募集するオーディションを敢行し、2000人を超える応募者の中から福岡県出身の15歳、こゑだを選出。彼女がボーカルを務めたニューシングル「My Dearest」を、11月23日に発売する。