ナタリー PowerPush - サカナクション

未来派ニューカマーが生み出す文学的ダンスロックの新しい地平

今売れている音楽を意識して作った

——実はアルバムを通して聴いて最初に感じたのは、「あれ、意外と曲が短い?」ってことだったんですが。

うんうん(笑)。

——クラブミュージック的な音楽の場合、曲は長くなっていく傾向にあると思うんですが、この短さは意図してやったことなんですか?

意図してますね。サカナクションはライブでは曲をつないで演奏することがよくあるので、曲のBPMをある程度揃える必要があって。今まではBPM126が中心だったんですけど、今回はアルバムのキーとなる「セントレイ」という楽曲がBPM138っていうこれまでにない早さだったんで、それにあわせて他の曲のBPMを上げたっていう面はあります。やっぱりライブ感を出したいと思ってたし。

——なるほど。

あと、今売れている音楽に対するアプローチっていう意味合いもありますよ。サビまでの長さとかイントロの尺とか、そういう部分もすごく意識して作ったし。

——クラブミュージックというよりはポップソングの作り方に近いかもしれませんね。

うん、ポップミュージックに重心を寄せていこうという意識はあると思います。

J-POPとアンダーグラウンドの架け橋になりたい

——サカナクションの音楽や歌詞は文学的だと言われることも多いと思うんですが。ダンスミュージックの要素を取り入れつつ、でも決してマッチョにはならないのが面白いところですよね。

親には「あんたの詞はナルシストの詞だね」って言われるんですけどね。

——(笑)。

「そうだよ!」って言ってやりますけど(笑)。

——確かにセンチメンタルで繊細な歌詞が多いですよね。

うん、四つ打ちのビートで前向きな言葉を歌ったりするのは簡単だけど、ぼくらがやってるのはハウスじゃなくて、ロックだし。言葉とメロディを伝えたいってところが大前提にあって。それがサカナクションのアイデンティティになってる気がします。キラキラした音で「愛してる」なんて言うのはちょっと、ね。恥ずかしすぎる。

——そういうキャラクターでもないですしね。

うん、ぼくらはあくまで文学的な感覚を大切にしたい。なんていうか、自分では“フォークテクノバンド”みたいな気持ちでいますけどね。

——ただ、本当に人を踊らせたいと思ったら、文学的な歌詞が逆に足を引っ張る場合もありますよね。もっと「パーティピープル!踊ろうぜ!」って、アッパーに、脳天気に言ったほうが楽しいじゃないですか。

んー、でもロックですからね。それがロックだしバンドだと思うんですよ。ただ踊らせたいだけならバンドやる必要ないですからね。スピーカーにめっちゃこだわって、5.1chに向けた音作って、ガンガン音回して、現代アートとクラブミュージックの融合だー!って言ったほうがそりゃあ楽しいですよ。でもそれをやっても伝わらないし、その瞬間は楽しいかもしれないけど、それはぼくらのやりたいことじゃないです。ぼくはエンタテインメントミュージックのシーンの中で戦って、シーンを変えていきたい。やっぱりそれが目標なので。

——このJ-POPシーンの中でそのスタンスを続けていくのはたいへんそうですね。

でもそれが主流になることを願っているんです。正しいことっていつも最初は少数派だと思うし、でもぼくらみたいなミュージシャンがそれを信じて続けることが重要な気がするんですよね。それがぼくにとっての夢だし、音楽を続けていくモチベーションになっている気がして。でも実際シーンに飛び込んだら、その壁はすごくでかいのも確かで。くじけそうになるけど、でも頑張りますよ。

——サカナクションの音楽でJ-POPシーンを変えていく、広げていくということですね。

挑戦ですよね。でも同じようにエンタテインメントミュージックとアンダーグラウンドのよさを上手く吸収して音楽をやってるアーティストの人もたくさんいるんですよ。そういうアーティストがどんどん増えてきたらいいなと思うし、ぼくらはその人たちとJ-POPとの架け橋になりたい。うん、まあ、そこに美学を感じてるからやれてるんですよね。それをいいって言ってくれる人がいるって信じてるし。それが主流になるって信じてるんですよね。

サカナクション

山口一郎(Vo,G)が高校時代の同級生、岩寺基晴(G)と2人でサカナクションを結成。札幌を中心に2005年よりライブ活動を開始。江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)の3人が2006年春までに正式なメンバーとして加入し、現在の5人編成となる。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集めた彼らは、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出演。地元カレッジチャートのランキングに自主録音の「三日月サンセット」がチャートインしたほか、「白波トップウォーター」もラジオでオンエアされ、リスナーからの問い合わせが道内CDショップに相次ぐ。そして2007年5月にBabeStarレーベルより待望の初アルバム「GO TO THE FUTURE」をリリース。2008年1月には2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表する。その後、初の全国ツアー(8カ所8公演)を行い、同年夏には新人最多となる8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。

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