音楽ナタリー Power Push - 青龍「AO-∞」対談

Ryu☆×sampling masters MEGA、sampling masters AYA

青龍の原点となった2人との邂逅

Ryu☆の別名義・青龍のニューアルバム「AO-∞」がリリースされた。

今作には「AO-0」「AO-∞」といった新曲のほか、これまでRyu☆が電龍、機龍、白龍、星龍、月龍といった名義で発表してきた楽曲の“AO-∞MIX”が多数収録される。さらに青龍と同じく音楽ゲームで“ボス曲”を担当することが多いEagle、 t+pazolite、BlackY、E.G.G.、sampling masters MEGA、sampling masters AYAといった面々とのコラボ曲を聴くことができる。今作のリリースを記念して、音楽ナタリーではRyu☆がゲーム音楽を作るに当たって多大な影響を受けたというsampling masters MEGA、sampling masters AYAとの座談会を実施。制作の裏側が垣間見える充実したクロストークが展開された。

取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 西槇太一

ゲーム音楽にハードコアテクノ魂を持ち込んだ2人

──今回は青龍のニューアルバム「AO-∞」の制作に参加したsampling masters MEGAさんと、sampling masters AYAさんに来ていただきました。

sampling masters MEGA よろしくお願いします。今はスーパースィープという会社でいろんな音楽を作っています。

sampling masters AYA 同じくスーパースィープ所属のAYAです。よろしくお願いします。

Ryu☆

Ryu☆ お二人は「リッジレーサー」シリーズの音楽の生みの親として有名な方なんですけど、かく言う僕は高校生の頃、徹夜でタイムを縮める青春を送っていた「リッジレーサー」プレイヤーでして……。

AYA そのときに私たちが作った曲をずっと聴いてたわけですね。

Ryu☆ そうなんです。当時の僕に「お前、将来このBGMを手がけた神々と一緒に曲を作るぞ!」って伝えたいですね。今回ご一緒できて本当にうれしかったです。

──「リッジレーサー」の音楽は、当時のゲーム音楽では革新的なサウンドだったと伺いました。

Ryu☆ はい。僕は「リッジレーサー」がなかったら、今の「BEMANI」は生まれてなかったかもしれないと思っています。当時のゲーム音楽はフュージョンっぽいものが主流だったのに「リッジレーサー」は、ゲームにバッキバキのハードコアテクノを入れた作品で発表当時から異彩を放っていました。厳密には「リッジレーサー」の前にリリースされた 「F/A」(1992年に稼働したシューティングゲーム)っていうシューティングゲームにもハードコアテクノが使われているんですが、この音楽を作ったのもMEGAさんですから。2人はゲーム音楽にハードコアテクノ魂を持ち込んだ方だと思っています。

MEGA 懐かしいですね。「リッジレーサー」のときは、現場にダンスミュージック好きが多くて。「どうやってゲーム1本をダンスミュージックで押し切るか」ってみんなで考えていたんですよ。うとい人には「これを聴くといいよ」ってCDを渡して洗脳したり(笑)。

AYA 反対意見も多かったんですけど、実際に稼働が始まると当時ダンスミュージックが世間的に流行し始めていたこともあって、ユーザーの反応はよかったんですよね。

Ryu☆ 僕らユーザーからしたら本当にセンセーショナルでした。

100KBの音楽

──当時のアーケードゲームの音楽は基盤に音を記録させていたわけですよね? ゲームのプログラムも基盤に記録させるわけですから、音楽に割ける容量はかなり小さかったと聞いています。

MEGA 容量を切り詰めて、どうやって音楽を詰め込むかは常に考えていましたね。でも実は基盤だからこそ、テクノのようなダンスミュージックが入れやすかったというのもあるんです。基盤特有のザリザリした音の感じが曲調にも合ってたんですよね。

AYA キック音を連打するにはちょうどよかった。

Ryu☆ 当時は音楽に割ける容量が少ないから、音をループさせて使い回すのが当たり前だったんですよね。例えばテクノやヒップホップだとサンプリングした音を何度も使うわけじゃないですか。

左からsampling masters MEGA、sampling masters AYA。

MEGA スペックが十分ではないところで音楽を作るっていうことを、不自由なように捉えられる方がいるかもしれませんが、当時の僕らからすれば容量が少ないことがある意味、面白みにつながっていた気がするんです。例えば「F/A」のときなんて、本当に100KBくらいの容量しかないから、音をループさせることを前提に曲作りをしていましたから(笑)。

Ryu☆ MEGAさんが手がけた「F/A」も音楽が衝撃的でした。まさかシューティングゲームでハードコアテクノが流れるとは思っていませんでしたから。思い返すと僕がMEGAさんの音楽に初めてやられたのは「ドラゴンスピリット」(1987年に稼働したシューティングゲーム)で……。

MEGA 僕が最初に音楽を担当したタイトルですね。

Ryu☆ AYAさんの音楽で印象深いのは「余命検索サービス X-DAY」(1993年に稼働した“寿命診断ゲーム”)ですね。

AYA ナムコのゲーム音楽がいろいろな方向に向かっていった時期のゲームですね(笑)。

Ryu☆ 質問に答えていくことで自分の寿命を診断してもらうゲームなんですけど、いいサウンドが鳴るんですよ。曲を聴くために100円玉を入れてましたらから。

AYA 「X-DAY」は、ゲームの企画をした方から「『James Brown Is Dead』みたいな曲にしたい」って要望があって。「ああ、はいわかりました。得意です」みたいな感じで作った曲です。懐かしいですね。

MEGA 最初にお会いしたのって、Ryu☆さんがまだ学生だったときですよね?

Ryu☆ 「BEMANI」の楽曲応募に受かってすぐのタイミングだったので、僕が大学生のときですね。

AYA 渋谷のクラブで音ゲーのイベントがあって、そのときにお会いしたのが最初ですよね。

Ryu☆ 今は即売会とかでご挨拶をしたり、こうしてお仕事をお願いしたりしていますので、すごく長いお付き合いになりますね。ありがとうございます。

「こんなにやっていいのかな」ってくらい増やす

──MEGAさん、AYAさん共に「BEMANI」シリーズに楽曲提供をした経験がありますよね。音楽が主役の音ゲーでの作曲って、普段とは感覚が違うんですか?

MEGA 違いますね。特に僕は隠しステージとか、難易度の高い曲をオーダーされることが多かったから、音数をすごく増やさなきゃいけないってイメージが強いですね(笑)。最初は「こんなにやっていいのかな」ってくらい音数を増やしていた記憶があります。

Ryu☆が持参した「リッジレーサー」シリーズのゲーム。

Ryu☆ それ、確実に「リッジ」のせいですよ。

一同 (笑)。

Ryu☆ KONAMIのディレクターさんが「リッジレーサー」のサウンドをイメージして発注しているはずですから。MEGAさんが「BEMANI」に曲を書いてくれたときはKONAMIのスタッフもみんな大喜びでしたから。

AYA 私は細江さん(MEGA)がKONAMIに打ち合わせに行くってときに無理矢理付いて行って「1曲どうですか?」ってアピールしたのがきっかけで、曲を作らせてもらったのが最初なんです。細江さんと違って、私はそこまで難しい曲を書かなかったんですけど、「9th」(beatmania IIDX 9th style)のときにコンペがあって。そこに送った曲が「one or eight」でした。確かにこの曲はいつもより音数をめっちゃ増やしましたね。

Ryu☆ 「one or eight」、名曲ですね。「BEMANI」って楽しい楽曲ならなんでも歓迎されるところもあるので、AYAさんのレイヴサウンドはゲームにピッタリだと思います。

青龍 ニューアルバム「AO-∞」 2017年3月1日発売 / 2700円 / EXIT TUNES / QWCE-90007
「AO-∞」
収録曲
  1. AO-1(AO-∞MIX) / 電龍
  2. VOX RUSH / 青龍×sampling masters MEGA & sampling masters AYA
  3. Eclipse Zero(AO-∞MIX) / tūmahaB
  4. 3!dolon Forc3 / 青龍×Eagle
  5. 檄(AO-∞MIX) / Ryu☆ feat. 青龍
  6. 256*256 / 青龍×t+pazolite
  7. Ultra Funktion(Ryu☆ VS 青龍 Remix) / lapix
  8. Castle on the Moon(AO-∞MIX) / 青龍
  9. Genesis at Oasis(AO-∞MIX) / 白龍
  10. STARLiGHT(AO-∞MIX) / 星龍
  11. AO-0 / 青龍
  12. 8a55 / 青龍
  13. Deus ex Machina / 青龍×BlackY
  14. Dimension Sword / 白龍
  15. ra'am(AO-∞MIX) / 雷龍
  16. 3y3s(かめりあ's "0p3n Ur 3y3s" remix) / 青龍 remixed by かめりあ as "BLUE TURTLE"
  17. Girl on Data / 青龍×E.G.G.
  18. MOONLiGHT(AO-∞MIX) / 月龍
  19. Rave*it! Rave*it!(AO-∞MIX) / 機龍
  20. AO-∞ / 青龍

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Ryu☆(リュウ)
Ryu☆

男性トラックメーカー。2000年、KONAMIの音楽ゲーム「beatmania IIDX 3rd style」の公募に送った楽曲が同ゲームに採用され、以来「beatmania」シリーズの主力クリエイターとして活躍。2009年にRyu☆名義の1stアルバム「starmine」を発表して以来、ゲームのサントラを多数手がけている。またその一方でトラックメーカーStarving Trancerとプロデューサーユニット、Another Infinityを結成。「beatmania」シリーズに楽曲を提供するほか、女性ボーカリストDaisy×Daisyの歌うテレビアニメ「FAIRY TAIL」のオープニングテーマ「永久のキズナ」を制作し、Another Infinity feat. Mayumi Morinaga名義でアニメ「ゆゆ式」エンディングテーマ「Affection」を発表した。2016年2月、ベストアルバムとして「Ryu☆BEST -STARLiGHT-」「Ryu☆BEST -MOONLiGHT-」の2作品を同時リリース。また同年4月には自身が主宰する新レーベル・EDPを新設した。2017年3月には青龍名義のニューアルバム「AO-∞」を発表した。