RHYMESTER|軽やかに、ダンサブルに ライムスに訪れた新しい季節

「ゲットダウン」の影響は猛烈に強い

──「Future Is Born feat. mabanua」はブレイクビーツ誕生前夜の話をディスコビートの上で歌うというアイデアがすごく面白かったです。mabanuaさんには具体的にどのようなオファーをしたんですか?

Mummy-D

Mummy-D オファーの段階では「次のアルバムのテーマはダンスになりそうだよ」とだけ伝えたかな。それで送られてきたうちの1つがこのトラックだった。

宇多丸 最初は「サマーソングかな?」とか話してたよね。

Mummy-D うん。でもこういうソフトなトラックのサマーソングってわりと普通だな、とも感じてて。この曲は俺ららしいちょっとズラしたテーマのほうがいいと思ってたのね。そしたら「ゲットダウン」にかぶれた宇多さんが現れた(笑)。

宇多丸 この曲は「ゲットダウン」から猛烈に影響を受けてる(笑)。俺はもともとオールドスクール期のヒップホップにまつわるエピソードが好きなんだけど、「ゲットダウン」はヒップホップ黎明期の話をあたかも今現在進行していることのように語っているところがすごいし、フレッシュなんだよ。

Mummy-D それは面白いなと思って。で、宇多さんが1ヴァース目の歌詞を書いてきてくれた。

宇多丸 「歌は台無し」とか「レコードプレイヤー2台がタイムマシーン」とかは、もろ「ゲットダウン」の影響(笑)。そこから何回か2人で歌詞をブラッシュアップして、Dがサビを作って、あとブレイクをどうしようかって話になったの。最初は当時のコール&レスポンスをサンプリングしようかと話してたんだけど、Dが「一応作ってきたら、これも試してみよう」みたいなノリで今入ってるブリッジのパートをなんとなくレコーディングしてみたんだよ。そしたら……。

Mummy-D 「これだーっ!」って(笑)。しかも歌ってみたらすごい気持ちよかった。

宇多丸 「このアルバム、勝ったー!」みたいな感覚だったよね。物作りって事前に考えてたことと、後付けが半分半分なのね。これは後付けなんだけど、「Future Is Born」で俺はヒップホップが誕生して根付くまでの話、Dはそれが日本に渡って根付くまでの話を歌ってる。しかもその間をつなぐブリッジでは「Yes yes y'all and You don't Stop」と歌って、次の歌詞はその日本語訳の「その調子 止まらないで」なのね。もう流れが完璧じゃんっていう。

ヒップホップの主食はドラム

──「爆発的 feat. サイプレス上野 & HUNGER(GAGLE)」もアルバムを代表する曲ですね。

DJ JIN “フィジカル” “ダンス”ってテーマで曲出しをしている中で、ブレイクビーツ1本でファストラップする曲って最近あんまりないよねって話になって。俺はそういう曲が大好きだから「これは俺がやる」って立候補しました。この曲は“ザ・ラップ”って感じするでしょ(笑)。

──皆さんはサイプレス上野さんとHUNGERさんを、どんなラッパーだと思ってますか?

宇多丸 上ちょはFG(FUNKY GRAMMAR UNIT / 1993年に結成されたRHYMESTER、EAST END、RIP SLYME、KICK THE CAN CREW、MELLOW YELLOWを中心としたヒップホップコミュニティ)とかじゃないんだけど、RHYMESTERイズムを直系で受け継いでいると思う。スキルはもちろん、常に面白いことをやってるしね。

Mummy-D そうだね、あいつはずっとやってきてて、苦労もしてると思う。今回は人選するにあたって、がんばって続けてる中堅どころがいいねと話してたんだよ。上野もハンちゃんも昔からずっと一緒に曲をやりたいと思ってたから、このタイミングで「スキルがあるとこをガチっと見せつけてよ」ってお願いした。当たり前のことを当たり前にやれちゃうナイスミドルたちって感じかな。

──この曲はHUNGERさんの「ドラムを聴けば全部わかる」というラインがすごく強烈でした。では、皆さんはヒップホップにおけるドラムをどのように考えていますか?

DJ JIN

DJ JIN 心臓。ヒップホップのルーツはファンクミュージックでしょ? ファンクはドラムとベースのリズムがキモだよね。最近ドラムレスでアンビエントっぽいヒップホップが新鮮に聞こえるけど、それはもともとがドラムがキモだからこそ逆説的に成立してる。

宇多丸 極端なことを言えばドラムレスでもドラムは鳴ってるんだよ。聞こえてないだけ。ラップはパーカッシブな歌唱法で、一定のドラムパターンに対してリズムをどう再解釈するかと言うことなのね。だからラップが乗ると「このノリも出るのか!?」ということが起こり得る。最近のアンビエントな曲はラップの解釈の部分だけが残ってて、ビートは踊り手に委ねられてる音楽だから、それがフレッシュで面白いということなんだよ。

Mummy-D つまりヒップホップの主食はドラムなの。どっちかって言ったら、メロディはおかず。そこがわかんないのに「俺にはヒップホップは合わない」っていう人がいまだに多くて。そりゃ合うわけないよね、聴くとこが違うんだから。だから実はまだまだいろんな人がヒップホップにハマる余地があると思ってるよ。あとHUNGERはなんて言ってたっけ?

DJ JIN 「骨だ」って。

宇多丸 「ダメなラッパーは肉だ」(DJ MASTERKEY「ONE LIFE(WON LIGHT) feat. DEV LARGE, SUIKEN, NIPPS」の歌詞)みたいな(笑)。

RHYMESTERの新しい時代が始まった

──RHYMESTERは2019年に活動30周年を迎えるんですよね。今後はどんなグループになっていきたいと思っていますか?

DJ JIN “グレイトバンド”と呼ばれるようになりたいよね。確実にその時代に爪痕を残して生きたグループと言うか。

──今でもすでにそういう感じだと思うんですが。

DJ JIN うーん、例えばRHYMESTERのTシャツ着てると「グレイトバンドのTシャツ着てるね」って言われるくらいになりたい。

Mummy-D それは俺も思ったことある。Tシャツにロゴが入ってるだけでカッコいい感覚(笑)。

宇多丸 エミネムとかWu-Tang Clanはもはやアイコン化してるもんね。

──宇多丸さんはRHYMESTERの今後についてどんな展望を持っていますか?

宇多丸 うーん、そうねえ……俺、本当に先のことを考えないから、今後のこととか聞かれてもよくわかんないんだよ。だってこの先どうなるかなんて、誰にもわかんないから考えても無駄でしょ。歳を重ねるごとにその確信は深まってる。計画なんてしないほうがいいんだよ。その中にしか収まらないんだから。わかる範囲のことをがんばるしかないんだけど、実はそのサイクルを続けることが一番大変。そのすごさもアイコン化してくるとより伝わりやすくなるんだけどね。「よく考えるとすごくない?」みたいな(笑)。

Mummy-D やっぱりいつまでも面白いことやりそうな人たちって思われてたいし、いつもちょっとずつ成長してたいよね。俺らは天才じゃないから、アルバムを作るごとに課題が見つかるんだよ。「ダンサブル」ができて、俺は改めてRHYMESTERの新しい時代が始まったと思った。「マニフェスト」から「Bitter Sweet~」までの俺らは言葉に重きを置いたエモーション期だったと思う。今後は言葉に重きを置きつつ、もっと軽やかで風通しのいい感じになると思うよ。

RHYMESTER
RHYMESTER「ダンサブル」
2017年9月6日発売 / starplayers Records
RHYMESTER「ダンサブル」初回限定盤A

初回限定盤A [CD+Blu-ray]
4104円 / VIZL-1218

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RHYMESTER「ダンサブル」初回限定盤B

初回限定盤B [CD+DVD]
3780円 / VIZL-1219

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RHYMESTER「ダンサブル」通常盤

通常盤 [CD]
3240円 / VICL-64825

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CD収録曲
  1. スタイル・ウォーズ [Produced by DJ WATARAI]
  2. Future Is Born feat. mabanua [Produced by mabanua]
  3. Back & Forth [Produced by ALI-KICK]
  4. 梯子酒 [Produced by SONPUB]
  5. Don't Worry Be Happy [Produced by DJ JIN]
  6. ゆれろ [Produced by LIBRO]
  7. 爆発的 feat. サイプレス上野 & HUNGER (GAGLE) [Produced by DJ JIN]
  8. Diamonds feat. KIRINJI [Produced by 堀込高樹(KIRINJI)]
  9. カミング・スーン [Produced by SHIMI from BUZZER BEATS & Yota Kobayashi(D.O.C.)]
  10. マイクの細道 [Produced by BACHLOGIC]
初回限定盤A付属Blu-ray、初回限定盤B付属DVD収録内容
  • KING OF STAGE VOL. 12「Bitter, Sweet & Beautiful」Release Tour 2015 東京<小箱セット>追加公演
  • 「人間交差点」Live Version(#nkfes 2017 All Cast Special Digest)

ライブ情報

King Of Stage Vol.13 ダンサブル Release Tour 2017
  • 2017年10月5日(木)神奈川県 CLUB CITTA'(公開リハーサル・ゲネプロ公演)
  • 2017年10月13日(金)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2017年10月20日(金)大阪府 なんばHatch
  • 2017年10月22日(日)東京都 Zepp Tokyo
  • 2017年10月27日(金)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
  • 2017年10月29日(日)愛知県 名古屋ReNY limited
  • 2017年11月3日(金・祝)秋田県 Club SWINDLE
  • 2017年11月5日(日)宮城県 space Zero
  • 2017年11月10日(金)岡山県 YEBISU YA PRO
  • 2017年11月12日(日)香川県 高松MONSTER
  • 2017年11月19日(日)熊本県 熊本B.9 V2
  • 2017年11月21日(火)鹿児島県 SR HALL
  • 2017年11月23日(木・祝)沖縄県 桜坂セントラル
  • 2017年11月28日(火)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2017年12月3日(日)茨城県 VOICE
  • 2017年12月10日(日)千葉県 千葉LOOK
  • 2017年12月17日(日)福島県 郡山CLUB #9
  • 2017年12月22日(金)群馬県 高崎clubFLEEZ
  • 2017年12月24日(日)石川県 Kanazawa AZ
RHYMESTER(ライムスター)
宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年に結成され、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。メンバー交代を経て1994年にDJ JINが加入し、現在の編成に。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在となった。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、2007年には日本武道館公演「KING OF STAGE Vol.7」を大成功させた。その後、約2年の活動休止期間を経て「マニフェスト」「POP LIFE」「ダーティーサイエンス」という3枚のアルバムを発表する。2014年12月にレコード会社をビクターエンタテインメントへ移し、主宰レーベル「starplayers Records」を設立。2015年5月には東京・お台場野外特設会場で初の主催フェスティバル「人間交差点」を開催し、7月に移籍後初のアルバム「Bitter, Sweet & Beautiful」を発表した。2017年6月にドラマ「SR サイタマノラッパー~マイクの細道~」のオープニングテーマとして書き下ろした「マイクの細道」をシングルを、9月に2年ぶりとなるアルバム「ダンサブル」をリリース。