「京都音楽博覧会2017 IN 梅小路公園」特集 くるりインタビュー|11年目の音博は“生歌謡ショー” 未開の領域へと足を踏み入れた理由

手術の仕合い

──現状、準備はどのくらいまで進んでいる感じなんでしょうか?

岸田 ぶっちゃけ本番に僕、いないかもしれない。

「京都音楽博覧会2013 IN 梅小路公園」のくるりのステージ。(撮影:久保憲司)

一同 あはははは(笑)。

岸田 やってることは地味なんですけど、とてつもない仕事量で僕にしかできないことっていうのがたくさんあるんで、マジでちょっと今ヤバいです。

──主にアレンジの作業をずっと?

岸田 それだけをずっとやってますね。仕事に手は抜けないほうなんで、思い付いたことをしっかりやろうと思って。いくつかの曲は済んでるんですけど、「これ出したら売れんちゃうかな」とか思うぐらいいいです。音博全体で演奏されるのが、俺らのも入れたら全部で30曲弱かな。基本的に、どんだけがんばっても2日で1曲のペースなんですよ。

──それでもすごいペースですよね。

岸田 ちょっと来月俺が存在するかどうか……(笑)。でも大丈夫。しっかり仕上げておきます。

──自分以外のアーティストの曲を管弦楽にアレンジするという作業をしてみて、新しい発見みたいなものもあるんでしょうか?

くるりのプライベートスタジオ・ペンタトニック。

岸田 それはホンマにありますね。なんか、一番客観的にそのアーティストとコラボレーションをしてる感覚っていうのが実感としてすごくあって。「そのアーティストがどういう人か」っていうことをより深く知れると言うか……手術みたいなもんやと思うんですよ。僕はお医者さんやないからわからへんけど、その人がどういう身体なのか体内まで見られるって言うんですかね。だからイメージがそれまでと変わったアーティストもいましたし、あるいは「この人の曲ってこういうモンやと思ってたけど、実はこういう音楽なんやな」っていう発見があったりします。で、本番までは彼らはその編曲で歌わないんで、「これ嫌いや」って思われたら仕方がないんですけど(笑)、実際歌われたときに普段の彼らの代表曲とは違う感覚を……まるで俺の体内にいるかのような感覚を持ってくれたときの化学反応みたいなものはすごい楽しみですね。

──皆さん本番当日まで共演はされないんですか?

佐藤 人によってはリハーサルはいらないって言う人もおられるのでね。

──すごく楽しみです。

岸田 手術の仕合いみたいな感じやね。

音博もくるりもこれから面白くなる

──ちなみに昨年岸田さんが交響曲を作曲された経験が、ゲストの楽曲をオーケストラアレンジして披露する、という今回の音博の趣向に反映されていたりするのでしょうか。

くるりのプライベートスタジオ・ペンタトニック。

岸田 はい。あれだけ楽器の数が多くて、しかもやってることはすごく難しいっていうもんを手がけたことで、自分で言うのもアレですけど、技術とか考え方は格段にレベルが上がった実感がありますね。そう、昨日知り合いと夜中飲んで、そのあとで編曲の仕事をちょっとやったら寝れなくなったんですよ。頭の中で無数のフレーズたちが回ってしまって。 そうなったからYouTubeでも観ようと思って僕らの昔のライブの動画をちらちらと観てたら、それはそれですごい面白くて。すごくシンプルな音楽をやってると言うか……演奏ヨレヨレで、いい音でロックをやってるって感じで「ああ、これってたぶんもう今できひんな」って。その代わり、今やってることっていうのは巨大レゴブロックで説明書を見ずに、モン・サン・ミッシェルを作るようなことなんで。だから音博もそうですけど、くるりもこれから面白くなるんじゃないかなと思いますね。きっと、みんなが聴いたことのない音楽をやっていくような気がします。まあ、常にそういうことをやってきたバンドでもありますんでね。

──去年の音博が終わった次の日に岸田さんが更新された日記に「音博はくるりにとって1つの作品だ」というようなことを書かれていたのがとても印象的でした。

岸田 音楽業界用語的には“作品”ってCDとか曲とかのことを言う感じになってますけども、音博はあの空間自体を作ってるんですよね。で、毎年違うもんができあがるんで、やっぱり作品なんです。そこにいるお客さんも含めて、1つの作品だと思ってます。だから普段のライブとはステージから観る景色が全然違いますし、これだけは毎年なんとなく覚えてるんですけど……くるりが夕暮れ時にステージに立って沈む夕日を見ながら歌うんです。けっこう眩しいんですよ。で、ウワーッとライブやってたら、日が沈んで暗くなったときに照明に照らされたお客さんがバーッと見える。それは「この光景を見るためだけにやってもいいな」と思うぐらいにいい景色でね。お客さんええ顔してるし、その日の温度感とかも含めこれはDVDにもCDにもパッケージできないすごいもんやなっていう。まあ、1回しましたけどね。でもやっぱり、現場体験ですね。

佐藤 音博でそのときの自分たちの最先端の表現をまず見せたいっていう気持ちもありますし、例えばレコーディング中に音博のブッキング考えてたら、そのときの自分たちのアンテナに引っかかる人たちなわけだから、いい意味でインスパイアされたりだとかもあるわけじゃないですか。そういうことも全部引っくるめての音博なので、そういう意味ではホントにくるりのこれからの1年を占うようなもんでもあるしね。

くるり

ファンファン これは去年お客さんとして参加して初めて感じたことなんですけど、お客さんも「フェスに行くぞー!」みたいな張り切った感じと言うより、気負わない雰囲気で楽しみに来てる人が多いのかなって。あと“民度が高い”って言うんですか。それぞれが自然な感じでお客さんが楽しめている場所だと思うので、そういうところがいいなと思いました。

岸田 わからんで。「金ないのにこんな高いチケット買うて、もう楽しむだけ楽しむでー!」みたいな人もいっぱいいると思うよ。

一同 あはははは(笑)。

京都音楽博覧会2017 IN 梅小路公園

2017年9月23日(土・祝)京都府 梅小路公園芝生広場
OPEN 10:30 / START 12:00

  • 出演者 くるり / アレシャンドリ・アンドレス&ハファエル・マルチニ / UA / Gotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION) / 田島貴男(ORIGINAL LOVE) / ディラ・ボン / トミ・レブレロ / 二階堂和美 / 布施明 / 京都音博フィルハーモニー管弦楽団
くるり「くるくる横丁」
2017年9月20日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
くるり「くるくる横丁」Blu-ray Disc

[Blu-ray Disc]
6480円 / VIZL-1248

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くるり「くるくる横丁」DVD

[DVD2枚組]
5940円 / VIZL-1249

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収録内容
  1. ワンダーフォーゲル
  2. トレイン・ロック・フェスティバル
  3. 魔法のじゅうたん
  4. 愉快なピーナッツ
  5. BIRTHDAY
  6. Bus To Finsbury
  7. Morning Paper
  8. Tonight is the night
  9. 琥珀色の街、上海蟹の朝
  10. ふたつの世界
  11. 京都の大学生
  12. 帰り道
  13. Long Tall Sally
  14. Superstar
  15. ロックンロール
  16. Ring Ring Ring!
  17. HOW TO GO
  18. The Veranda
  19. 遥かなるリスボン
  20. 春風
  21. 夜行列車と烏瓜
  22. ワールズエンド・スーパーノヴァ
  23. Liberty&Gravity
特典映像

「くるりの20 回転ワープ」from SPACE SHOWER TV

─公開練習─

  1. 尼崎の魚
  2. Jam Session
  3. 7月の夜
  4. 夜行列車と烏瓜
  5. モノノケ姫
  6. ばらの花
  7. GO BACK TO CHINA(イントロ)
  8. ARMY
  9. 東京
くるり
くるり
1996年に立命館大学の音楽サークル「ロック・コミューン」内で岸田繁(Vo, G)、佐藤征史(B, Vo)、森信行(Dr)により結成。その後メンバーチェンジを経て、2011年からは岸田、佐藤、ファンファン(Tp, Key, Vo)の3人編成で活動している。1998年10月にシングル「東京」でメジャーデビューを果たして以降、2016年7月にシングル「琥珀色の街、上海蟹の朝」をリリースするまで11枚のアルバムと34枚のシングルを発表した。同年9月には、結成20周年を記念したオールタイムベスト「くるりの20回転」をリリースする。なお2007年9月に主催イベント「京都音楽博覧会」をスタートさせたり、「ジョゼと虎と魚たち」「奇跡」といった映画作品の音楽を担当したりと、その活動は多岐にわたる。2017年5月には、岸田による交響曲「交響曲第一番」の初演の模様を収めたCD「岸田繫『交響曲第一番』初演」が発表となった。9月には全国ツアー「チミの名は。」の模様を収めたBlu-ray / DVD「くるくる横丁」がリリースされる。