ナタリー PowerPush - 小谷美紗子
傷付いた世界へのエール「us」
歌を伝える“相手”にファンの存在が加わった
──曲は難産でした?
本当にお客さんのおかげなんですけど、お客さんの顔を想像したら自己嫌悪に陥ってる場合じゃないなって。それで締め切りに間に合うように書けました(笑)。あとTwitterでファンの人に向けてつぶやくときに「あ、これこのまま歌にしよう」とか、そういうこともあるんですよね。
──「手の中」という曲の「自由は いつも 背中に / 孤独は いつも 手の中に」というフレーズはTwitterで書いていた言葉ですよね。
そうなんです。
──これはツイートというより、そのままもう歌詞ですよね。
ほんとはなるべく固くならずに、もっと普通に話してる感じでつぶやきたいなと思うんですけど、でも読んでる人が元気になるような言葉は何かないかな?って考えてるとやっぱりすごく真剣になってくるんですよね。だから結局歌詞を書いてるのと同じ状況になる。今までの歌詞は自分の元彼とか嫌いな政治家とか、そういう人に向けて書いてたんですけど、Twitterに書く言葉はそういうものとは違って、自分の言葉を必要としてくれる人たちに向けて書いてるものですからね。これにメロディを付けて歌いたいなって、自然とそういう気持ちになってくる。
──Twitterが小谷さんに与えた影響は大きかったみたいですね。
最初はTwitterなんて「ケッ!」みたいに思ってたんですけどね(笑)。スタッフに勧められて始めてみたら、その向こう側にちゃんとファンの人たちがいて、そしたらその人たちのことをやっぱりすごく考えるようになって。
──小谷さんって曲を書くときに、そんなに聴き手のことを考える人でした?
いやいや、全然です(笑)。今までは“自分”と“相手”しかいなかった。だからその“相手”の中にファンの人たちが加わったってことですよね。
──今まではその具体的な相手に対してネガティブな感情をぶつけることもあったと思うんですけど、ファンが加わることでその相手は不特定多数の人たちになるわけですよね。そのときに歌詞の内容はやっぱり変わってくる?
そうですね。不特定多数のいろんな人がいるからこそ、お互いに尊重し合おうよっていう気持ちが生まれるというか。例えばお互いの宗教を認めるとか、お互いの洋服の好みを認める。それができた瞬間に人と人の違いはどうでもよくなるし、私たちあんまり変わらないねって思えるようになる。そういうシンプルな気持ちで書くことができましたね。
誰かの役に立ちたくてずっと歌ってきた
──このアルバムの歌がたくさんの人に届くといいですね。
そうですね。今まではどっかで、最悪誰も聴いてくれなくてもいいって思ってたから(笑)。
──ははは(笑)。
聴いてほしいんですよ? もちろんプロとしてやってるわけだし。だけどもし誰も聴いてくれなくても、歌を投げかける相手さえいれば、私はその歌を歌うことができるし、それでいいっていう気持ちがあったんです。でもこのアルバムは、私のことを好きじゃない人でも聴いてもらえば何かの役に立つかもしれないなって思えるから。だから聴いてもらいたい、聴いてもらわないと、っていう気持ちがすごく強いんです。
──自分の歌で誰かを元気付けようとするときに、そこに対する気恥ずかしさみたいなものはありませんでしたか?
なかったですね。
──でもそれって今までの小谷さんがしてこなかったことですよね。
そうですね。元気付けてあげる、包んであげるよ、みたいな(笑)。
──そうです(笑)。
でもそういうことはわかりやすい言葉では言ってこなかったけど、今までもどっかで思ってたと思うんですよね。例えば自分が恋愛のことですごく悩んで傷付いてそれでも立ち上がる姿。どんな暗い曲も最後には希望があるっていう作り方。やっぱりずっと、誰かの役に立ちたいという気持ちで歌ってきてたと思うし、今回はそれをわかりやすく歌にしたっていうだけなんです。
──じゃあ180度ガラッと変わったわけではない?
うん、ギョッとするような言葉は今回のアルバムにもあるし。でも優しくなったって言ってもらえるということは、今までがいかにそういう強い言葉だらけだったのかっていう(笑)。
──確かにこれまでは強い言葉で叱り飛ばすように歌うことも多かったですよね。このアルバムも最後の「recognize」という曲はそういう感じですけど。
あ、この曲だけは3年ぐらい前に作ってライブでずっとやってる曲なので。
──アルバムを頭から9曲聴いて、優しい歌に包まれていたら10曲目の「recognize」でガツンとやられるという。
ふふふ(笑)。
──油断してました(笑)。
そうなんですよね。最後にこの曲を持って来て、ハッとしてもう1回聴きたくなってもらえたらと思って。そういう曲も変わらず歌えるし、だから優しくなったって言ってもらえるのは、ちょっとびっくりしますけどね(笑)。
- ニューアルバム「us」 / HILLSTONE Records
- フォトブック特別限定盤[CD+フォトブック] 3300円 / HSR-1003 / Music For Lifeにて先行販売
- 通常盤[CD] 2800円 / HSR-0003
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収録曲
- enter
- 正体
- 誰か
- 手の中
- runrunrun
- 果てに
- universe
- 東へ
- すだちの花
- recognize
- LIVE SCHEDULE
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小谷美紗子 Trio Tour「us」
- 2014年4月8日(火)
大阪府 Shangri-La
OPEN 18:30 / START 19:30 - 2014年4月10日(木)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
OPEN 18:30 / START 19:30 - 2014年4月24日(木)
東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
OPEN 18:30 / START 19:30
- 2014年4月8日(火)
小谷美紗子(おだにみさこ)
1976年京都生まれ。ピアノ弾き語りによる情感あふれる歌声が注目を集め、1996年リリースのデビューシングル「嘆きの雪」がスマッシュヒットを記録。以後コンスタントに作品を発表し、多彩な音楽性を見せつけながらその存在感を確立していく。2003年には彼女をリスペクトするミュージシャンが集まり「odani misako・ta-ta」名義でアルバムを発表するなど、アーティスト仲間からの支持も厚い。近年は玉田豊夢(Dr)、山口寛雄(B)とともにトリオ編成のバンドでライブやレコーディングを実施。2013年12月に通算12枚目となるオリジナルアルバム「us」を発表。