ナタリー PowerPush - 宮崎薫
9つの物語で紡ぐ私の世界 メジャーデビュー作「9 STORIES」
新人女性シンガー・宮崎薫のメジャーデビューアルバム「9 STORIES」には、「君と空」「さよなら」「Graduation from me」といったインディーズ盤収録のナンバーをはじめ、荒井由実「卒業写真」、矢野まき「タイムカプセルの丘」のカバーを含む“9つの物語”が収められている。今回のインタビューでは、アルバムの楽曲それぞれに込めた思いやアーティストとしての理想の形など、現在社会人1年目の彼女に等身大の気持ちを語ってもらった。
※宮崎薫の「崎」は立つさきが正式表記になります。携帯端末にて非対応の旧字体のため、本特集では「宮崎」と表記しています。
取材・文 / 鹿野淳 撮影 / 井出眞諭
今の自分を等身大のまま曲に
──ついにメジャー進出し、アルバムを作り終えたわけですが、達成感や自分の中での変化はありましたか?
変化は、なんですかね……メジャーデビューという実感が自分ではあんまり持ててなくて。ある日CDが並んでいるところを見に行ってみようと思ったんです(笑)。で、発売日にこっそりと行って並んであるのを見て、自分の好きなアーティストの隣とかに並んでいたりしたので「あ、本当に同じところに来たんだなあ」って思って。そこで少し実感持てました。
──「9 STORIES」というタイトルにした由来を話してもらえますか?
私はリサ・ローブが好きで。特に1stアルバム(「Tails」)がすごい好きなんですけど、1stアルバムのときだけリサ・ローブ&ナイン・ストーリーズというバンド名でやっているんです。そこから“ナイン・ストーリーズ”という言葉が気に入ったんです。音楽的にも1stアルバムだけ特殊で、2nd、3rdとはちょっと違う雰囲気っていうか、すごく1stアルバム感があるんです。だから私もそういうアルバムにしたいなあって思っていて。で、ナイン・ストーリーズから(J・D・)サリンジャーを知って、実際に「ナイン・ストーリーズ」(9つの話からなる、サリンジャーの代表作でもある自選短編集)を読んだんですよ。そしたら、なんかよくわからないんですけどバナナフィッシュのやつ(「バナナフィッシュにうってつけの日」)とかも、どこか悲しかったり切なかったりするところがあって。
──結構むちゃくちゃな話ですよね、あれ。
そうですね(笑)。説明しようもないほど、なんかすごく切なくって。その9つの話を読んだあとの気持ちってほわーっとしてる感じで、私もそういう作品が作りたいなと思って。「9 STORIES」はそこからもらいました。
──今話してくれた、リサ・ローブの1stがそれ以降の作品とすごく違うと感じたというのがとても興味深いんですが、どう違うから良いなと思ったんですか?
1stは、まずサウンドからものすごい手作り感があるんですよ。そこがすごく良いなと思ったんです。歌詞も、曲というよりは言葉がワーッと詰められていたりとかして、ほかの雰囲気とは違うなと思って、特にずっと聴いてたんです。
──今回の1stアルバムも、手触り感や本当に歌いたいことを重視した?
みずみずしさであったり初々しさであったり、子供から大人になりたての今の時期っていうか、まさに自分のそういうグルグルしてたり煮え切らない感じとかを切り取って歌にするということは、常に特に意識して制作はしました。私は春に大学を卒業して社会人1年目なんですけど、日頃の何気ない生活の中でも社会人1年目なんだなって思うことがやっぱりあるんです。そういうドタバタの毎日で、ドタバタしてグルグルしちゃって大事なことを見失っちゃったりする気持ちになることがあって。そういうまさに今の自分を等身大のまま曲にするということを、大事にしたかったというのはすごくありました。
コンプレックスに気付いてないことが弱点だった
──今回9曲中カバーも2曲あるんですけど、「家へ帰ろう」という曲以外は全部終わりの歌、さよならの歌ばかりなんですよね。デビューにして終わりの曲ばかりという、それはなぜなんですか?
さよならの歌というか、自分的には“卒業したあと”みたいな感じの歌が良かったんですよね。……私は16年間同じ学校に通ってきたので、本当にぬるま湯で育ってきて。小学校から大学までずっとエスカレーター式の学校で、そこはずっと子供でいて良かった場所なんですけど、卒業していきなり社会人になったときにポーンと子供のまま放り込まれたというか、なんにもなくなっちゃったというか……。その“卒業したあと”の気持ちだったりをすごく大切にしたくて。で、今の自分というものを切り取ったときに、子供から大人に成長しなきゃいけない過程で大きな別れがあったり、その中でまた新しい出会いがあったりっていうのが時期的に重なったので、自然とこういう歌ばかりになりましたね。
──多分お子さんのころからいろんな音楽を聴いて育っただろうし、音楽に対していろいろなバックボーンがあると思うんですけど、今回の作品もすごく面白いというか、「私もこういう極端な気持ちを持ってる」ってたくさんの人が感じるような個性的な歌詞があります。以前タワーレコード限定でリリースしたミニアルバム「Graduation from me」ではandymoriの「革命」とか結構大胆な発想の歌をカバーしたりしていて、歌詞で極端なことを歌うのがお好きなのかなって思って。
andymoriの「革命」については、「絶対にやってやる。革命を起こしてやるんだ」っていう思いって、結構秘めてる人が多いじゃないですか、私もそうですし。けど、それをあんなに歌っちゃうんだ!「革命を起こすんだ」って最初に言っちゃうんだ!って本当に感動したんです。あの作品を聴いていた時期ってまさに曲を作るようになってた時期だったんですけど、誰にも相手にされなくって……自分はいい曲を作ったと思って友達とかに聴かせても、「いいね」とかって友達だから言ってくれるんですけど、そこから先にはほとんど届かなかったというか。その先に届かないと意味がないなとは思っていて、でも全然誰にも届かなかったから……絶対いつか届くはず、いつか届くはずって焦り続けていたので、そのとき、「革命を起こすんだ」という歌詞にすごく衝撃を受けました。
──古傷に塩を塗るようで申し訳ないんですけど、世の中に出したけど刺さらないなって思ったときに、自分の何がそうさせてるんだと思ったんですか?
それは育ってきた環境っていうのが大きかったのかなと思いました。私はずっと「なんとかなるさ」でなんとかなってきちゃった生活だったなと思っていて。歌手になるって思ったときも漠然としていて、「なれるだろう。私はなる」っていう、何を根拠にそんなに自信があるの?っていう感じだったと思うんですよ(笑)。みんなも就職のことを考えて就活とかし始めてから、自分も本気でやっていこうと思ったんですけど、実際は自分がなりたかった理想のアーティストみたいなものには全然近づけなくて。……「なんとかなるさ」で生きてきた時間が長い私は、自分をどうしていくか?どう壊していくか?ということにすごく壁がありましたね。だから、自分をどう理解していくかがまずあって、未だに自分がどんな子なのかとかわからなくなったりすることがあるんですけど……自分と向き合うということが、あのときの自分にとってはすごく大変でした。そのコンプレックスに気付いていなかったことがすごく弱点だったなって、全然ダメじゃん!と思ったというか。
メジャーデビューアルバム「9 STORIES」/ 2012年10月10日発売 / avex trax
収録曲
- 君と空
- ByeBye
- 卒業写真
- Stay
- Gimme your love
- さよなら
- 家へ帰ろう
- タイムカプセルの丘
- Graduation from me
DVD収録内容
- 「君と空」ビデオクリップ
- 「ByeBye」ビデオクリップ
宮崎薫(みやざきかおる)
1989年生まれ。東京出身。幼少の頃をロンドンで過ごし、親の影響で常に音楽が身近にある環境で育ち、自然と人前で歌うようになる。学生時代はクラシックバレエとピアノ、トランペットを学びつつ、手伝いで友人のバンドに参加。都内のライブハウスで活動するも「自分で歌いたい」という気持ちが強くなり、ボーカリストとしての自分を再認識する。19歳のとき、音楽の仕事をすることを改めて決意。楽曲制作と同時にデモテープの作成を始める。2011年には地道に送り続けたデモテープが業界関係者の耳に止まり、イベント出演をきっかけに出会ったスタッフとともに楽曲制作を開始する。2012年、大学卒業と同時に音楽活動を本格的にスタートさせた。同年6月、タワーレコード限定にてインディーズデビュー盤「Graduation from me」をリリース。その後10月にはアルバム「9 STORIES」でavex traxよりメジャーデビューした。