音楽ナタリー PowerPush - 2015年春のメジャーデビューアーティスト特集
ACC、藤原さくら、ふぇのたす、DAOKO…… 注目株とトレンドを解く音楽ライター座談会
春といえば出会いと別れの季節だが、音楽シーンにとってはメジャーデビューするアーティストが多い時期でもある。そこで今回は2015年にメジャーデビューしたアーティストを特集し、その注目株や傾向などを紹介。日頃からさまざまなアーティストのインタビューやライブ取材を行っている音楽ライターの宇野維正氏、柴那典氏、森朋之氏を迎えて座談会を行い、シーンの現状を測る1つの指針“メジャーデビュー”について語ってもらった。4月の始まりに、ぜひ新たな才能の芽吹きを見つけてほしい。
取材・文 / 鳴田麻未
──今回は2015年のメジャーデビューアーティストについて語る特集ということで、宇野さん、柴さん、森さんのお三方に集まっていただきました。まずはこちらで今年に入ってからメジャーデビューした、もしくは決定している主なアーティストをピックアップしてみました。
- 2015年1月以降の主なメジャーデビューアーティスト
- LAMP IN TERREN / Sugar's Campaign / nanoCUNE / Pottya / La PomPon / カスタマイZ / 荒川ケンタウロス / スズム / Perpetual Dreamer / コアラモード. / アルスマグナ / Especia / melost / Gacharic Spin / あゆみくりかまき / 瀧川ありさ / THE HOOPERS / ザ・なつやすみバンド / a crowd of rebellion / this is not a business / ふぇのたす / 藤原さくら / 夢みるアドレセンス / OS☆U / 五五七二三二○ / DAOKO / LUI FRONTiC 赤羽 JAPAN / カントリー・ガールズ / 04 Limited Sazabys / Carat / Awesome City Club / Nao Yoshioka / 三戸なつめ / ザ・チャレンジ / THE BOYS&GIRLS / きのこ帝国 / every♥ing! / TrySail / 寺嶋由芙 / がんばれ!Victory / アカシック / LACCO TOWER / Shiggy Jr. / Mrs. GREEN APPLE
宇野維正 こんなにいるんだ!
──並べてみると、女性アイドル、バンド、ソロのシンガーソングライター、ネット発のアーティストという大きく4つの軸に分けられるのではないかと思いました。
柴那典 ホントだ。そうですね。その軸を1つずつ見ていきますか。
TOPIC 1:すでにインディーズで支持を得ているバンド
宇野 まずバンドからいくと、Awesome City Club、きのこ帝国、THE BOYS&GIRLS、ザ・なつやすみバンドなど、すでにインディーズでかなりの支持を得ている面々が多いですよね。そして、女の子のいるバンドが多いなというのが僕の実感で。
森朋之 そうですね。
柴 僕は昨年あたりから、世代の入れ替わりが如実に表れてきたという印象があります。自分の感触ではKANA-BOONが1つの象徴になったんじゃないかって思うんですけど、今、KANA-BOONよりも若い世代の人たちが続々と出てきていますよね。あと、ゲスの極み乙女。、キュウソネコカミと、フェスで人気を得てからメジャーデビューして、認知をより広げていくバンドがどんどん出てきた。それが故に「次は誰が来る?」っていうムードがある気がします。
森 ありますよね。KANA-BOONやKEYTALKが出てきたあたりから。
柴 こういう企画が成立するのもそういう風潮を表してる気がしますし。その上で“女の子”っていうのは1つのキーワードだと思うんですけど。
宇野 KANA-BOONもKEYTALKもそうですけど、やっぱり今は、強烈なカリスマ性でオーディエンスを圧倒するバンドではなくて、ファンとのつながりを大切にして、ファンもメンバーの一員かのようにバンドの成長を一緒に体験していくみたいなものをオーディエンスが求めてる時代なのかなと思っていて。先に挙げた2組はたまたま男のみだけど、バンドの中に男性も女性もいるっていうのはそれをすごく反映してる感じがするんですよね。両性から共感や支持が得られるから。
柴 うんうん。
宇野 先日取材したオーサムはすごく面白くて、彼ら男3、女2なんだけど、“主宰”のマツザカタクミくんと主に曲を書いてるatagiくんっていう男の子2人が中心になってバンドの基礎を作って。その時点で、あと男1人と女2人を入れて5人組にしようって、まずメンバー構成から決めたらしいんですよ。
森 へえ。
宇野 そのくらい戦略的なんだけど、そういうバンドのあり方がすごく今のシーンを象徴してるかなと思いました。
森 その男女比は、バンドとして勝ち上がっていくためにそれがベストだっていう彼らの判断なんですか?
宇野 うん。やっぱりそういう人たちは、例えば幼稚園の頃から幼なじみのBUMP OF CHICKENみたいなバンドとは必然的にマインドが違いますよね。そんな成り立ちのバンドが増えてきてる感じはするな。
──これが初めて組んだバンドではないというパターンも多いですよね。
宇野 そうそう。過去のバンドでうまくいかなかったからこそ、研ぎ澄まして次の一手を打ったみたいな。
森 女の子じゃないですけど、ザ・チャレンジもそうですね。
柴 ふぇのたすもそう。もともと男の子2人がphenomenonっていうバンドをやってて、そこに女の子のみこちゃんが加わったから、ふぇの“たす”なわけで。あそこのヤマモトショウくんは東大の文学部で哲学専攻っていう、やっぱり頭のいい戦略家とキュートなボーカルの女の子っていう形で。
宇野 それを言ったら相対性理論とかパスピエもそうで、ふぇのたすは音楽的にもそのへんからの流れがありますよね。あれ? Shiggy Jr.はどういう感じなんだっけ。
柴 僕はインタビューしたことないから又聞きなんだけれども、曲を作るのはギターの原田(茂幸)さん、バンドの見せ方だったりコンセプトはけっこうボーカルの池田(智子)さんが舵取りをしているようですね。そして、つい先日にメジャーデビューが発表されましたが(参照:Shiggy Jr.、6月にユニバーサルシグマからメジャーデビュー)、Shiggy Jr.はいわゆる「2015年は誰が来る?」の答えとして、いろんな人が最初に挙げるグループですよね。
森 そうだと思います。
柴 去年のミニアルバム「LISTEN TO THE MUSIC」が出たときに、どのシーンからもものすごく好かれてる感じを受けました。言うなればtofubeatsが「lost decade」を出したときと同じような。メジャーデビューを機に、早耳のリスナーの間に漂っていたShiggy Jr.への好感度みたいなものがより顕在化する1年になるのは間違いないと思います。
森 それって、今が音楽的なトレンドの移り変わりの潮目にあるってことなんですかね。Shiggy Jr.の曲はシティポップリバイバルみたいなことも言われますけど、流行りが今までのような四つ打ちでみんなでユニオンになって踊れるというものから変わりつつあるのか。
柴 そういうことを言う人もたくさんいますけど、僕はどうだろうと思っていて。というのも、04 Limited Sazabysもすごく勢いがあるんです。彼らは四つ打ちではないけれども、フロアでお客さんが跳ねまくってるようなバンドで。彼らもメジャーデビューしたら今以上に人気出るだろうし、アグレッシブで踊れるバンドも変わらず盛り上がっているんじゃないかな。
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座談会参加者プロフィール
宇野維正(ウノコレマサ)
音楽・映画ジャーナリスト。雑誌編集を経て独立し、現在は洋邦の音楽や映画を中心に多岐にわたる分野で原稿を執筆。主な執筆媒体は音楽ナタリーのほか「MUSICA」「リアルサウンド」「クイック・ジャパン」「GLOW」「BRUTUS」「装苑」など。
柴那典(シバトモノリ)
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンで「ROCKIN'ON JAPAN」「BUZZ」「rockin'on」の編集に携わり、その後独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は音楽ナタリーのほか「AERA」「CINRA.NET」「MUSICA」「リアルサウンド」「NEXUS」「ミュージック・マガジン」など。著書に「初音ミクはなぜ世界を変えたのか」がある。
森朋之(モリトモユキ)
音楽ライター。2000年頃からライター活動をスタート。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な執筆媒体は音楽ナタリーのほか「WHAT's IN? WEB」「WHAT's IN?」「オリスタ」「リアルサウンド」「CDジャーナル」など。