音楽ナタリー Power Push - マデオン×中田ヤスタカ(CAPSULE)

日仏エレクトロポップアーティストの邂逅

ヤスタカリミックスを聴いたマデオンの感想

──中田さんはマデオンさんの「Pay No Mind feat. Passion Pit」のリミックスを手がけましたが、オリジナルとはかなり異なった仕上がりでした。制作する上で、どういう点に留意されましたか?

中田 あ、その前に、1つマデオンに聞きたかったことがあるんだけど、あの曲のオリジナルってコードが普通じゃないところで動くよね。最初からそういうつもりだったのかな? それともあとでメロディができていく中で、あえて変えていったものなのかな?

マデオン ちょっと紙に書いて説明しますね。もともとは僕が作ったのは、こういうコード進行だったんだけど、中田さんがリミックスで作ってくれたコード進行のほうは、少しズレていて……実はそれを聴いたとき、僕も最初からそうしてればよかったって思ったんです(笑)。なぜ普通じゃないコード進行にしたかというと、アルバム中のほかの2曲で、もうすでにそのコード進行は使ってしまっていたからで、同じことの繰り返しは避けたいなと。でも中田さんのリミックスを聴いて、こっちのほうが歌のメロディに合ってると思ったんです。

マデオン

中田 ははは(笑)。

マデオン リミックスの面白さって、やはりそういうところだと思うんです。オリジナルを一旦忘れて「自分だったらこの曲をどんなふうに書くんだろう」というところから始めるわけで、今回のトラックを聴いて「ああ、そういうことか」と中田さんのリミックスの意図を理解しましたね。

中田 僕も楽しかったし、オリジナルのメロディがリミックスしやすい音の配置になっていました。いろいろコード進行を変えることができる要素が多くて、すごくやりやすかったです。

──中田さんによるリミックスは、マデオンさんにとって予想通りの結果だったんでしょうか? それともうれしい誤算だった?

マデオン 「こういうのができるといいな」と思っていた通りの、中田さんらしさを感じる仕上がりでした。特に1小節の中でコード進行がハチャメチャになっていくところとか、何度も何度も聴き返して分析しちゃいましたよ。それくらいすごいなって思います。繰り返し聴きたくなるような作品が好きなので、とても気に入っています。

中田 僕は自分の曲を作るときには「たぶんこのメロディだったらこういうコード進行が一般的かな」と思うコードでまずボーカリストに歌ってもらうんです。そしてメロディだけを残して「さて、どうしようかな」ってあとからじっくり考えることが多い。だからいつもリミックスをしているような感じなんですね。

マデオン へえ、賢いやり方ですね。あとから細かい部分をいじっていくわけだ。

中田ヤスタカ(CAPSULE)

中田 僕は制作の中で、けっこう声を録るタイミングが早いんですよ。1回素材として録っちゃって、あとからそれをサウンドとして組み立てる。サビのコードとかもあとから考えて「あっちもいいけど、こっちもいいし」とかいろいろ迷った挙げ句、最後になって結局違うコードを足すとか。きゃりー(ぱみゅぱみゅ)の曲などでよくやります。

マデオン 「JUMPER」(CAPSULE「MORE! MORE! MORE!」収録曲)なんて、曲の途中からボーカルもAuto-Tuneでどんどん変わっていきますね。

中田 あの頃はボーカルを僕が弾いてる感じで、もともと(こしじまとしこが)歌ってたメロディがどういうのだったからわからないくらいの状態でしたね。単純に声をサンプラーみたいな感じで扱って、あとからどうこうしようという。

大切にしている“アルバム”という概念

──マデオンさんは主に男性ボーカリストを起用していますが、何か特別な理由でもありますか?

マデオン 確かにアルバムでは大半が男性ボーカルで、女性ボーカルはほとんど使いませんでした。特に理由はないけれど、もしあるとすれば僕はDaft Punkが大好きで、彼らが一度も女性ボーカルを使ったことがないのと関係しているのかも。それとトラックがアッパーでハッピーな感じだと、キーの低い男性ボーカルを合わせるのが面白いかなって思うんです。

中田 マデオンのアルバムを聴いていると、曲単位というよりも「アルバムを作るぞ」という感じで作っているような曲の配置になっていますよね。

マデオン あっ、そうそうそう。アルバム全体の青写真というのがまずあって、曲と曲の間にもつながりを持たせたいので、曲順などにもすごく気を配っているんです。

中田 僕も「この曲をこの辺に置きたいな」って思うと、前後の曲のアウトロやイントロをつながるように作り替えちゃったりするけれど、やはりそういうこともするの?

マデオン ええ、それもやりました。さらには「いい曲だけど、アルバムのどこにも入らないな」という曲はアルバムに入れなかったです。中田さんのアルバムもそうですが、アルバム全体の流れというのを大切にしたいんです。1曲目は1曲目に来るべき曲があり、最後にはアルバムの最後に相応しい曲が入る。アルバム全体を通して作品として楽しめる、じっくり聴き込めるものを作りたいんです。エレクトロニックミュージックに関しては、そういうアルバムはそれほど多くないですよね。みんな曲単位だったり、2、3曲を選んで聴くことが多くて。

中田 そうそう、今は「1曲だけドーン!」みたいなのばかりで、アルバムとして聴けるような作品が少ないです。アルバムとしての意義がなくなりつつあるというか。マデオンはアルバムとして聴いてもらおうという作品作りをしているので、共感できます。

左からマデオン、中田ヤスタカ(CAPSULE)。

──エレクトロニックミュージックをクリエイトしているお2人にも関わらず、オーソドックスとも言えるアルバムという形態にこだわりがあるのは、少々意外だなと思いました。

マデオン 僕は現在よりもっと先の時代になったとき、未来の人たちがこの時代の音楽として自分のアルバムを聴いて振り返ってもらえればと思ってるんです。また自分の一時期を振り返るためにアルバムという形で残しておきたいんです。自分の今の状態をすべて反映する作品を残すには、アルバムくらいのボリュームが必要ですしね。

中田 うんうん、確かにそういう今の自分の中のトレンドなども含めていろんな角度から見せるためには、やはり曲数が必要ですよね。それにアルバム自体が何かのサウンドトラックみたいなものじゃないかとも思うんですよ。マデオンのアルバムもそうですが、イントロのような短い曲から入って、映像はないにしても、サウンドトラックを作っているような感覚はどこかにあるんじゃないのかな。

マデオン 確かにそうですね。僕もそんな感覚で作品を作っているんじゃないかと思います。

マデオン
マデオン

フランス生まれのエレクトロポップアーティスト。1994年に生まれ、わずか11歳で作曲をはじめる。ネット上に音源のアップなどを通じて水面下で注目を集めはじめた頃に、フランスのリミックスコンテストで優勝。2011年、17歳の頃にYouTubeにて公開した39曲のポップソングをマッシュアップした作品「Pop Culture」は現在までに3000万回を超える再生回数を記録している。さらにLady Gaga、Coldplay、Muse、エリー・ゴールディングといったアーティストの楽曲を制作およびプロデュースした経験した経歴を持つほか、ダンスミュージックの祭典「ULTRA MUSIC FESTIVAL」や、野外音楽フェスティバル「Coachella Valley Music and Arts Festival」などの大型イベントへの出演も果たし、世界的なDJとして躍進を遂げた。2015年4月にデビューアルバム「Adventure」を発表した。7月に中田ヤスタカがリミックスを施した「Pay No Mind feat. Passion Pit – Yasutaka Nakata (CAPSULE) Remix」を日本で先行配信リリース。8月には「SONICMANIA 2015」「SUMMER SONIC 2015」に出演した。

中田ヤスタカ(CAPSULE)(ナカタヤスタカ)
中田ヤスタカ(CAPSULE)

2001年に自身のユニットであるCAPSULEにてCDデビュー。以降、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースをはじめ、アニメ映画「ONE PIECE FILM Z」オープニングテーマ曲や「LIAR GAME」シリーズのサウンドトラック、テレビ・ラジオ番組のテーマ曲制作など多方面にてに活躍している。昨今はカイリー・ミノーグやマデオンへのリミックストラック提供をはじめ、映画「スター・トレック イントゥ・ダークネス」の挿入楽曲に携わるなどグローバルに活動を展開。また自身主催によるレギュラーパーティを定期的に開催しているほか、大型フェスやファッションショーなどにも出演している。