オーダーは「坂本真綾で“正義と悪が裏返る”パンクロックを」

──曲作りはどのように進めていったんですか？

原　どんな曲がいいんだろうと思って聞いてみたら、ディレクターさんから20個ぐらい箇条書きで、アニメの監督さんの意向などが書かれたメモが送られてきて。「正義と悪が裏返っちゃうような曲」「パンクロックを基調に」みたいな。俺の中では全部加味して作ったつもりなんですけど。

──「坂本真綾でパンクロック」というのはその時点で難題すぎる発注ですよね。

坂本　そもそも私が監督さんからオファーを受けた段階で「それ、私が歌うということで本当に間違いないですか？」って確認したぐらいなんです（笑）。間違ってオファーしたんじゃないかって。そのぐらい監督から出てくるアイデアが意外なものだったので、本当に私でいいのかななんて思いながらも……「正義と悪が裏返る」という感覚は私もわかるなあって興味を引かれたんです。でもどんな音楽にしたらいいのかと悩んでいるところでバンアパさんとの出会いがあって。

──坂本さん本人からもバンアパへのオーダーはあったんですか？

坂本　私のイメージでは、エッジが効いていることとアッパーであること、あと知性が必要だなって思ったんです。ただ激しいということではなく、知的でエッジの効いた感じというか。「世界征服」なんてどんな話だろうとシナリオを読んでみたらすごく面白いし、大人っぽいシニカルさを感じたんです。それは私が感じたバンアパさんのイメージだったので、もう好きなように作ってくださいって（笑）。それで送っていただいたデモを聴いてみたら、明らかにバンアパさんの音なんだけど、いつも通りではなさそうな気もして。想像以上にフィット感があってびっくりしました。

原　メロディの高低差が激しい、相当レンジの広い曲になっちゃったんですけど、さすがですよね。

坂本　最初はどうなってんだ？と思いましたけどね（笑）。どこまでがAメロかもよくわからないみたいな（笑）。でもなんか中毒性があるし、サビは一瞬で覚えられるぐらいキャッチーだなって。

原　アレンジャーで江口（亮）くんが入るので、ウチのバンドの曲みたいに1本旋律のものが動きまくってるとアレンジが乗せづらいだろうと思って、デモでは少し余白を持たせて完成形を見越した上で渡したんですよ。

木暮　そしたら江口くん、乗せに乗せてきたよね（笑）。

原　えぐっちゃんの仕事が効いてると思いますね。

坂本　えぐっちゃん（笑）。

原　俺らだけで作ったら、ああいう突き抜けるような疾走感とはまた違ったものになったと思うし、まずストリングスを入れたことがなかったから。でもこの雰囲気で作っていってストリングスを乗せれば完璧だな、と想像しながら作ったっつうところもありますね。

勝負の瞬間に自分の気持ちを高揚させる曲を

──歌詞は坂本さん自身によるものですが、これはサウンドが上がってから？

坂本　そうですね。アニメの世界観を意識しつつもあくまで“坂本真綾の新曲”なので、私自身の思いと重なる部分を探しながら。どこでシンクロできるかなと脚本をじっくり読み込んで考えたんですけど、そこは脚本の内容がとてもよかったので意外とすんなりできました。ただ、私は自分で歌詞を書くときは英語詞と日本語詞を混在させないようにしてるんですけど、この曲を初めて聴いたときにすぐ「Be mine!」という言葉が浮かんだんですね。最初に出てきたフレーズは絶対にそのまま残すって決めているので「うわ、いきなり英語が出てきちゃったな」と思って（笑）。いつものルールを破って別の言葉を当てはめようかとも考えたんですけど、「Be mine!」が出てきたことによって、あとに続く日本語のフレーズがスルスルスルッと浮かんできたんです。

原　俺の中でも最初のフレーズは、まず英語で次に日本語というイメージでした。

坂本　そうだったんですね。そういうふうに、いつもだったらやらないことが自然とできたなということが今回はいくつもあったんです。自分の中の浅ましさについて書くようなこともなかったし（笑）、ちょっとデトックスみたいな感じでスッキリしました。曲が持っている力がすごいのでなんでも言えるというか。トリッキーな展開の中に言葉を当てはめていくのがすごく楽しかったです。

──曲の勢いと相まって、すごい高揚感がありますよね。

坂本　ここだけは負けられないっていう勝負が人生には何度かあって、そのときだけは何があっても絶対自分のものにする、という「達成したい欲」ってきっと誰でもあると思うんです。この曲は、そういう瞬間が来たときに自分で聴いて、自分の気持ちが高揚する曲にしたいなって。2回目のサビのあと、よく聴くと歓声のSEが入ってるんですけど、これはバンアパさんからもらったデモの段階で入っていたんですよ。大観衆が応援してるみたいな音が入っていたんですけど、それがものすごく気に入っちゃって（笑）。そのおかげで詞が書けたと言ってもいいぐらいなんです。

原　あれは仮歌を録ってるときに「がんばれー！」って感じてくれるといいなと思って入れたんですよ。笑うかなと思って（笑）。坂本さんのライブ映像を観て元気をもらうことが多いので、この曲ならここで歓声が入るだろうなってイメージです。

木暮　ファン目線だ（笑）。

坂本　それが気に入っちゃって、結局本番にも使ったんです（笑）。ほかにも音が厚く入っているのでわかりづらいかもしれませんけど。最後の1ラウンド、最後の直線コースに向かうときに力を振り絞るための音に聞こえたんですよ。

原　軽い気持ちで入れた音が、まさかそんな重要なものになるとは（笑）。