ナタリー PowerPush - KREVA

脱サンプリングで新境地 ミニアルバム「OASYS」完成

自分のやり方で目の前の閉塞感を突破したい

──今回リリック面では自分の生き方、姿勢を提示することがそのままメッセージになっていくような感触が強いですね。

素直に出てきた言葉たちだから、強くメッセージを提示してやろうという意識はなかったんだけどね。でも、リリックの全体的なテーマがあるとしたら、哲学だよね。「心臓」で愛についてはさんざん描いたから、今回は「俺の哲学はこうだけど、君はどう?」って問いかけてる感じかな。「心臓」でとことん自分=Iの“愛”を語ったので。今回はあなた=YOUに向けて“オアシスとは何か?”を問いかけているというか。タイトルの綴りが「OASIS」ではなくて「OASYS」なのは、シンセの機種名だけではなくそういう意味も込めていて。

──閉塞感を突破しながら、能動的な意志をもって未来に向かおうとする姿を示してる。時にウィットな表現を交えながら。改めて、ラッパーにしか書けないリリックだなと思います。

うん。ウィットな表現を織り交ぜながら主張すべきことを書くというのはRHYMESTERから学んだことでもあるし。大事にしたいよね。閉塞感は誰もが感じているはずだけど、それを打開しようとしている人はあんまりいないなって思う。今もっとも悪循環を感じるのは情報だよね。情報の波に飲み込まれて、いらないエサばっかり食って、情報デブになって、自分に必要なものが身に付く前に消化できないでいる人がたくさんいて。そういうことが全体の大きな閉塞感につながっていると思う。せっかく音楽をやっているんだから、やっぱり自分のやり方で目の前の閉塞感を突破したい。あと、閉塞感は音楽にも感じることで。日本語ラップのCDもあいかわらずよく買ってるけど、それを聴いていて特に思う。こいつらはこれで「俺ら最高!」とかって思ってんだろうなって。俺のアルバムとかろくに聴かないで「最強!」とか思ってたら、ちょっと怖いぞ、危険だぞと思って。ここで書いてる歌詞は、そうやって情報デブにならないように、あるいは狭まった視野でひとりよがりにならないようにしたいという自分への戒めでもあるんだけど。

──作品の話からは逸れますが、今の日本語ラップシーンにはどんな印象をもっているんですか?

例えばKICK(THE CAN CREW)のころに感じていたようなフラストレーションはないけどね。今は認めてくれる人もいっぱいいるし。ただ、その中にいる多くのやつらとは目指しているところがだいぶ違うよね。俺は、もっと広い視野で自分の音楽を届けようとしてるから。だからこそ自由に音楽を作れてるという実感もあるし。

──6月にデジタルリリースされた“DABO, ANARCHY, KREVA”名義の「I REP」は、シーンではすぐにアンセム化しました。ああいうシーンを意識した動きをすることも忘れてないですよね。

誘ってもらえることはうれしいからね。それはしっかりやらせてもらうという感じで。あの曲は3人そろってレコーディングできたのがよかった。ANARCHYとも会ってみたかったし、DABOくんは重要人物だなって改めて思った。(トラックメイカーの)BACH LOGICともじっくり話せたし、よかったよ。

ヒットソングが欲しい

──「心臓」を経て、この「OASYS」から新たなフェイズへ突入するわけですが、今手にしたいもの、実現させたいことは何かありますか?

ヒットソングが欲しい。例えばCMソングに使われるような曲を作って、そこから大流行するような。しかもずっと応援してくれている人も大満足する曲ね。それは、あくまで自分の価値観を貫きながら、本気で狙っていきたい。そういう意味でもサンプリングよりシンセを軸に曲を作ったほうがその目標に近づくんだよね。サンプリングだと(権利の問題で)CMで使えないということがあるから。だから、しばらくこのスタイルでいきたいと思ってる。

──そして、10月13、14日には武道館ライブ「意味深3」が決定しました。KREVAさんと武道館2DAYSといえば、2007年のゲストデーとノンゲストデーに分けて展開したライブが未だ印象深いんですけど。

うん。

──特に2日目のノンゲストデーは、たった1人でステージに立って、すべての機材と音を操るという、ライブという音楽表現としてエポックメイキングな、だからこそ最高にヒップホップの真髄を体現したライブで。今回は何を見せてくれるのかという期待が高まります。

いや、今回は普通にライブをすると思うよ。でも、普通じゃないというか(笑)。いろいろアイデアはあって、今それを固めてる最中なんだけど。詳細はこれから随時発表していくと思うから、ぜひ楽しみにしてほしいね。

ミニアルバム「OASYS」 / 2010年9月15日発売 / 1850円(税込) / PONY CANYON / PCCA-03298

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CD収録曲
  1. 道なき道
  2. かも
  3. たられば feat SONOMI
  4. 最終回
  5. エレクトロ・アース・トラックス
  6. Oasys
  7. Changing Same
  8. Reprise ~道なき道~
KREVA(くれば)

1976年生まれ、東京都江戸川区出身。BY PHAR THE DOPEST、KICK THE CAN CREWでの活動を経て2004年にソロデビュー。2005年には自身のレーベル「くレーベル」を立ち上げ、シンガーSONOMIのプロデュースなども手がける。2006年2月リリースの2ndアルバム「愛・自分博」はヒップホップソロアーティストとしては初のオリコンアルバムチャート1位を記録。同アルバムのリリースツアー最終日では初の日本武道館公演も成功に収める。その確かな実力でアンダーグラウンドシーンからのリスペクトを集める一方、久保田利伸、草野マサムネ、布袋寅泰、古内東子らメジャーなアーティストとのコラボも多数。ラッパーとしてのみならずビートメイカー、リミキサーとしても内外から高い評価を受けている。