ナタリー PowerPush - KOTOKO

作詞作曲を通じて明かす「リスタート」感

KOTOKOのニューシングル「リスタート」が12月19日にリリースされる。今作には2曲の新曲が収録され、スマートフォン対応ゲーム「恋愛リプレイ」のオープニングテーマとなる表題曲「リスタート」と、そのエンディングテーマ「Largo」の作詞作曲はいずれもKOTOKO自身によるもの。これまで数多く作詞を手がけてきた彼女だが、リードトラックの作曲を担当するのは2006年発売の「being」以来となる。

昨年、10年にわたって所属していた音楽制作集団・I'veから独立し、supercellら気鋭のクリエイターとのコラボレーションを展開してきたアニメ / ゲームソング界の歌姫が新たなチャレンジを試みたのはなぜか。「リスタート」の楽曲制作秘話、魅力とともに、その理由に迫った。

取材・文 / 成松哲

人生はどこからでもやり直せる

──実は今回のシングルのリードトラックのタイトル「リスタート」ってちょっと意味深なんじゃないかな、っていう気がしてるんですよ。

意味深……ですか?

──高校時代にタイムスリップして、当時の恋愛をやり直すスマートフォンゲーム「恋愛リプレイ」のテーマソングだから「リスタート」であると同時に、ここ数年のKOTOKOさんを取り巻く状況も指しているんじゃないのかな、と。

残念ながらたまたまですね(笑)。I'veを飛び出していろいろな活動をしている中で今回のお話をいただけた、というだけで。特にここ1年ちょっとのことにかけてタイトルを付けたわけじゃないんですよ。

──すみません。深読みがすぎました(笑)。

ただ、持論として人生はどこからでもやり直せるとは思っていて。「もう1回やってみよう」「もう1回挑戦してみよう」と思ったとき、人はもう一度人生や物語のスタートを切れるんじゃないのかな、って。なので「『恋愛リプレイ』というゲームの楽曲だからこういうタイトルになった」というだけでもない。1年ちょっと前の私のように、人生の選択肢、分かれ道に来たとき、自分なりになんらかを選んで進んでいこう、っていう曲ではあるんです。

「KOTOKOの曲ってどんなジャンルなの?」

──先程「いろいろな活動をしている」と言っていたとおり、これまでI'veのトラックメーカー陣とお仕事をしていたのに対して、この1年間は前々作のシングル「Light My Fire」でsupercellさんと、「→unfinished→」でfripSideの八木沼悟志さんと共作するという新しい試みにチャレンジしていました。そして今回では「リスタート」とカップリングの「Largo」の両方で作詞はもちろん、作曲も自ら手がけている。共作とはまた違うチャレンジをしています。

「I've以外の方とのお仕事というチャレンジもできたし、次は自分の作詞作曲で」と考えていたら音楽プロデューサーさんから「ボーカルだけじゃなくて、作詞作曲もどう?」と言っていただけたので「それは願ってもないチャンスなので、ぜひやらせてください!」と立候補しました。アレンジについては、「恋愛リプレイ」総括プロデューサーさんから「I'veさんはどうでしょう?」とご提案をいただいたこともあって「リスタート」を井内舞子さんに、カップリングの「Largo」をC.G mixさんにお願いしました。

──その「作曲家KOTOKO」を求められて書いた「リスタート」ですが、硬質なギターロックの「Light My Fire」とも、トランシーなダンスミュージックの「→unfinished→」とも違う。デジタル青春ポップとでもいうのか、アレンジこそキラキラと明るいもののメロディは少し切なくもある、ノスタルジックなテイストになっています。

特に今回で方向転換したという意識はないんですよね。というのも「いろいろなカラーがあることこそが私のカラーだ」と思っていて。それは多分ファンの方も同じ。「KOTOKOの曲ってどんなジャンルなの?」って訊かれたら、十人十色の答えが返ってくるはずなんですよ。前作や前々作のような曲だと答える人もいるだろうし、今作やI'veにいた頃にリリースした楽曲を「KOTOKOっぽい」と感じる人もいっぱいいると思いますし。

「KOTOKOの色」を偏らせたくなかった

──その数ある「KOTOKOの色」の中から、今回ノスタルジックな色調を選んだ理由は?

いろいろなカラーがあるのがKOTOKOのカラーである以上、色を偏らせたくなかったんです。KOTOKOというキャンディの箱から、今日はイチゴ味で、明日はブドウ味、明後日はレモン味っていう感じで、いろんなテイスト、カラーの曲をバランスよく送り出したいっていう気持ちが常にありますから。そして「高校時代の恋愛をやり直す『恋愛リプレイ』の世界観と、ノスタルジックなカラーは合うだろうな」「これを聴いてちょっと懐かしい気持ちになってくれたらいいな」とイメージした結果、こういう楽曲にしようって決めたんです。

──ところが、詞は単にゲームの世界観ありきという内容にはなっていませんよね。「恋愛リプレイ」の主人公は不思議なメールによって高校時代に引き戻されたことを意外とすんなり受け入れているようにも見えるんだけど、「リスタート」の主人公「僕」は、自らに言い聞かせるように「躊躇わず選ぶ」と宣言している。結構な覚悟をもって何かをリスタートしています。

あはははは(笑)。リスタートするにはやっぱり度胸が要りますよね。積み重ねてきたことが全部ゼロになるわけではないものの、その積み上げたものを多少崩さなきゃいけないし、捨てなきゃいけないこともあるかもしれない。来た道を戻らなきゃいけないことだってあると思うんですよ。それにはやっぱり覚悟や勇気が必要なので、私は歌で後押しができればいいな、と思っていて。ゲームの中の主人公って過去にタイムスリップはするんですけど、記憶や経験は現在のまま。高校時代の自分よりも人生の経験値は高いんですね。これって現実もそうで、リスタートすると環境や人との関係性はもう一度構築しなきゃいけないかもしれないけど、自分のこれまでの経験はちゃんと活かすことができる。だから以前よりもより良い結果を残せるはずだし、最終的には成長できるはずだ、ということを描きたかったんです。

KOTOKO

北海道出身の女性シンガーソングライター。歌好きの母親の影響で幼い頃から歌手を志し、高校卒業後からボイススクールに通い始める。その後、北海道を拠点に活動する音楽クリエイター集団・I'veに参加。ゲーム主題歌やアニメ主題歌を担当した後、2004年4月にアルバム「羽-hane-」でメジャーデビューを果たす。歌手だけでなく、I've所属アーティストへの楽曲提供など音楽を軸に精力的な活動を展開。パワフルな歌声でファンを獲得し、2006年12月には横浜アリーナで単独公演を開催し成功を収める。2008年には映画「リアル鬼ごっこ」の主題歌を書き下ろし話題となった。2011年、I'veという枠から飛び出し、自身のオフィス「オルフェコ」を設立。2012年には日本をはじめ香港、韓国、中国、台湾を回るアジアツアーを敢行。同年12月にニューシングル「リスタート」をリリースする。