音楽ナタリー Power Push - 岸谷香×和田唱(TRICERATOPS)

似た者同士の気ままな音楽談義

岸谷香が約10年ぶりとなるオリジナルアルバム「PIECE of BRIGHT」をリリースした。シングルとしてリリースされた「DREAM」「Romantic Warriors」などを収録した本作には、TRICERATOPS、冨田恵一、U-zhaanなどが参加。49歳になった岸谷のリアルな心境を投影した歌を含め、彼女の新たなアーティスト像を体現した作品に仕上がっている。

今回ナタリーでは「ミラーボール」「My Life」の2曲を手がけたTRICERATOPSの和田唱(Vo, G)との対談と、岸谷への単独インタビューを実施した。2つのテキストから「PIECE of BRIGHT」の魅力を感じ取ってほしい。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 塚原孝顕

岸谷香×和田唱(TRICERATOPS)対談

思いっきりメロディパクッてる!

──岸谷さんと和田さんが知り合ったきっかけから教えてもらえますか?

岸谷香 最初はTRICERATOPSが「FEVER」を演奏しているのをテレビで観たのがきっかけですね。すごく曲がよかったし、「何でこんなコード進行の曲をスリーピースでやれてるのかな」って思って。

──テンション系のコードを効果的に使ったディスコチューンですからね。

岸谷 そうなの。ちょうどプリプリが解散して、次のバンドを作った頃だったんですけど「鍵盤はなしで、できればトリオバンドをやりたい」と思ってたんですよ。あまりにも自分のギターが下手だから、ギタリストを入れて4人編成にしたんですけど、鍵盤がいないことの不自由さも感じていて。だけどTRICERATOPSは全然不自由そうではなかったから「どうなってんだ?」と。で、自分のラジオ番組のゲストに来てもらったんです。そこで「どうして3人でやってるの?」みたいな話をしたのが最初ですね。

左から岸谷香、和田唱。

和田唱 そうそう。「俺、香さんのラジオに呼ばれちゃったよ」って盛り上がってたからよく覚えてます。

岸谷 ホント? その頃の唱くんは若くてツッパってたから、「なんかめんどくさいな」みたいな感じだったような……。

和田 そんなことないよ!

岸谷 (笑)。だけど、私の楽曲を褒めてくれたんだよね。PUFFYに提供した楽曲(「春の朝」)なんだけど、「転調の仕方がよかった」って。そのときに「やっぱり唱くんは転調とかを気にする人なんだな」って思った。

和田 だいぶあとになって「春の朝」を香さんのライブで聴いたとき「あ!」って思ったんだよね。「俺、自分の曲で思いっきりメロディパクッてる!」って。

岸谷 え、ホント?(笑)

和田 うん。「Couple Days」という曲なんだけど、サビのメロディがそっくりで。ホントに「春の朝」を気に入ってたんだなって思ったよ。

岸谷 私もたくさんあるよ、そういうこと。で、ラジオに来てもらったあとにトライセラのライブを観させてもらったんだけど、それっきりになっちゃったんです。私が音楽活動をお休みして、家に入っちゃったから。

和田 そうか。俺、嫌われちゃったかと思ってたよ。

岸谷 違う違う(笑)。ずっと専業お母さんをやってたから。だから、唱くんと再会したのはプリプリを再結成してからなんですよね。ライブをやるにあたってスタッフを一新したんですけど、偶然その中にトライセラにも関わっている男の子がいて。その子が「ライブに来てくださいよ。和田さんも喜びますよ」って言ってくれて、ホントにひさしぶりにライブを観させてもらって。それが一昨年の12月ですね。

和田 そうそう。

岸谷香

岸谷 そこで10何年ぶりでご挨拶したんだけど、そのときにドラムの吉田(佳史)くんが「何か一緒にやりましょうよ」ってポロッと言ってくれたんだよね。で、ブックレットを読みながら新譜(「SONGS FOR THE STARLIGHT」)をしっかり聴いたんだけど、「やっぱり私と書く曲が似てるな」って思って。何が似てるんだろうね? コードかな。

和田 コード進行もあるし、僕も中学生くらいのときにプリプリの曲を耳にしていて「すごいメロディだな」って思っていたことも関係してるかもね。そう思った曲のクレジットを見るとさ、作曲しているのは香さんなんだよ。今もそうだけど、かわいくて曲も書けるっていう人はあまりいないでしょ。なかなか神様は二物を与えないのにね。

岸谷 そう? ……まあ、いいや。ありがと(笑)。

和田 歌詞だけ書くって人は多いけど、曲まで書ける人は少ないよ。そういう意味でも香さんは貴重な存在だし、作るメロディも俺にとってすごく気持ちいいのばかりで。

岸谷 好みも似てるんだろうね。7th、9thとかテンション系のコード好きでしょ?

和田 うん、好き(笑)。

共作は“交換日記”

──岸谷さんのニューアルバム「PIECE of BRIGHT」にはTRICERATOPSとの共作による「ミラーボール」と「My Life」が収録されています。このコラボレーションはどういう経緯で実現したんですか?

岸谷 さっき言ったスタッフの子を含めて、唱くんと3人で飲みに行ったんですよ。そのときいろいろな話をして、唱くんとは聴いてきた音楽も似てるなってことがわかって。唱くんのほうが深くてマニアックなんですけどね。私は広く浅くというタイプなので。

和田 俺は「香さんは自分が思った以上にミュージシャンだな」って思いましたね。もちろん前からすごいなって思ってたんだけど、すべての楽器を扱えることもわかって。

岸谷 全部“なんちゃって”だけどね。そのとき「一緒にやりたい!」っていう欲求が止められなくなったんです。その時点ではアルバムを作る話もあったから、すぐにお願いして。

和田唱

和田 すべてが自然だったし、こちらとしても「ぜひぜひ!」という感じでした。でも共作はあまりしたことがないし、特に女性アーティストとの共作は初めてなんですよ。本来だったら構えてしまうところだけど、香さんはそんなこともまったくなかった。まずは僕から最初のデモ音源を送らせてもらったんですよね。iPhoneでギターと歌メロを録って「Aメロだけできた」って香さんに送って。

岸谷 で、私はその先を鍵盤を弾きながら作って。

──まさに共作ですね、それは。

岸谷 そう、テーマは交換日記だったから(笑)。唱くんが作曲で私が歌詞とか、その逆とか、それだけじゃつまらないと思って。2人共、作詞作曲ができるんだから、自分ではやったことがない作り方をしたかったんですよね。他人の血が入ってくるとすごく燃えるし、アイデアもどんどん出てくるんですよ。

和田 最初は1曲だけのつもりだったのに、結局2曲になったからね。「ミラーボール」のサビのメロディを何パターンか作ってるうちに、香さんが「このメロディ、別の曲のAメロにしちゃダメ?」って言ってきて。そこからあれよあれよという間に2曲になったっていう。

岸谷 送ってくれたメロディを聴いているうちに、“そこから始まる曲”を感じちゃったんだよね。それをAメロにしてもう1曲作りたいなって思ってしまって。で、同時進行で2曲を作ることになって。「ミラーボール」と「My Life」は“一卵性双生児”みたいなものなんですよね。とにかく唱くんと曲を作ってる中で、やっぱり感性が似てるなって思った。

和田 うん。

岸谷 唱くんのメロディや発想に対して「いいな」と思えないと、こういうふうには進まなかったからね。あと、せっかく一緒に曲を作れるんだから、「唱くんの言うことを聞こう」という態勢だったんですよ、私は。普段は自分主導でやってるし、誰かから意見されると「そんなのイヤだ」みたいなことも言うんだけど(笑)。こういう共作は珍しい機会だから、とにかく唱くんのアイデアを聞き入れようと思って。

和田 ホントに聞いてくれましたね(笑)。

岸谷 歌詞に関しては99.8%くらい唱くんに頼りきってました。

和田 そう? 確かにきっかけは僕が作りましたけど、いざ歌詞を送ったら香さんも火が点いちゃって、かなりいろんな意見をくれましたよ。

岸谷 まあね(笑)。「ミラーボール」の歌詞は唱くんが書いてくれたものに対して、女の子っぽいテイストを提供させてもらって。そういうやり方が面白かったですね。

収録曲
  1. 49thバイブル
  2. Kiss & Kiss
  3. ミラーボール
  4. My Life
  5. DREAM
  6. オーディナリーピープル
  7. Rhapsody In White
  8. precious
  9. Romantic Warriors
  10. レクイエム
  11. Dump it!
  12. ナイトミュージアム
岸谷香(キシタニカオリ)
岸谷香

1967年生まれのシンガーソングライター。1986年にガールズバンド・プリンセス プリンセスのボーカリスト&ギタリストとしてデビューし「Diamonds」「世界でいちばん熱い夏」などビッグヒットを連発する。1996年のバンド解散後、俳優・岸谷五朗と結婚。しばしの休養ののち、シングル「ハッピーマン」でソロデビューを果たす。以来出産を機にそれまでの奥居香から岸谷香に名義を改めつつ、コンスタントにリリースを重ね、また他アーティストへの楽曲提供、プロデュースワークなどを行う。2006年前後より育児中心の生活にシフトしていたが、2011年に東日本大震災復興支援のためにプリンセス プリンセスを期間限定で復活。東京・東京ドーム公演を開催し、2012年末の「NHK紅白歌合戦」にバンド名義で出演した。2014年5月にソロ名義のベストアルバム「The Best and More」をリリース。2016年5月に10年ぶりとなるオリジナルアルバム「PIECE of BRIGHT」を発表した。

TRICERATOPS(トライセラトップス)
TRICERATOPS

1996年に和田唱(Vo, G)、林幸治(B)、吉田佳史(Dr)により結成されたロックバンド。ポジティブな歌詞と良質なメロディ、厚みのあるバンドサウンドを特徴とする。1997年7月にシングル「Raspberry」でメジャーデビューを果たして以降、精力的なリリースやライブ活動を展開している。デビュー15周年を迎えた2012年には DVD付きのベスト盤「DINOSOUL -BEST OF TRICERATOPS-」をリリース。2014年に11枚目となるアルバム「SONGS FOR THE STARLIGHT」を発表した。なおフロントマンの和田は、KANやSMAPに楽曲を提供したり、SCANDALのシングルをプロデュースしたりと多角的に活躍している。