音楽ナタリー Power Push - KIRINJI×RHYMESTER座談会

ネオ・KIRINJIを語らう

“人類の旅路”感と“歓楽街”感の綱引き

Mummy-D 「The Great Journey」はもともとインストとして成り立ってて、これでもかってくらいいろんなサウンドが詰め込まれてるじゃん。だから歌詞もそういうなんでも詰め込む感じがいいと思ったんだよね。てんこ盛りのトゥーマッチ感。曲の展開もすごいし狂気すら感じる(笑)。

宇多丸 ラップは少しずつ足していったんですよ。最初は“人類の旅路”系をメインに据えつつ、“歓楽街”感は臭わせる程度にしてたんです。そしたら高樹さんから「もっとセックスの臭いをさせてください」って言われた(笑)。

堀込 最初の歌詞は、人類が地球の大地に立つ感じは出てたんだけど、歓楽街に立つ感じはまだ出てなかったんですよ。

宇多丸 それで何回かやりとりして具体的に円山町って歌詞も出てきて。そしたら今度はレコード会社の人が「これは行き過ぎなんじゃ……」って。その辺はこっちも織り込み済みだったから、その固有名詞を抜いたバージョンの歌詞も作っておいてすぐに差し替えたんですよ。あとサビですよ。

堀込 そう、サビはメロディを入れようと思ったから「空けといてください」ってお願いしてたんです。でもそれだと欠落感がすごかったんで、なんか入れてもらうことにしました。

Mummy-D

Mummy-D それをレコーディングの当日に言うんだよ、この人。俺らもどうしていいかわかんなくて高樹さんと相談して決まったサビのプロトタイプが……。

宇多丸 「ホゥモゥ!エレクトゥス!」って(笑)。

堀込 直立原人こと、ホモエレクトスですね。これが仮タイトルだったんですよ。

Mummy-D プロレスっぽい感じで言ってくださいって。

宇多丸 この曲は足し算方式で作ってたから、そのサビも全然ナシじゃなかった。とは言えプロトタイプのサビはそういう意味じゃなかったにせよ「ホゥモゥ!」のインパクトが強すぎる(笑)。Dがもう1個考えて入れてくれたのが今の「Journey to the past Journey to the future」で、そっちを聴いたら「高樹さん、ホモエレクトスよりこっちでしょ」ってなりました(笑)。

堀込 Dさんが「Future」という言葉を入れてくれたから、全体的にもっと未来感を出したくて最後の「火星の土地」「iPS細胞」「人工知能」とかを追加したんです。

宇多丸 あそこのパートは最初すごい下ネタでしたね。もうメタファーですらない。

千ヶ崎 そんなエロの綱引きが行われてたんですか!? 全然知らなかった。しかもエロの綱は高樹さんが引っ張ってたんですね(笑)。

コトリンゴ 堀込さんの中に何か吐き出したいものがあって、それをRHYMESTERの2人に託したんじゃないですか?

堀込 そうそう。最初から2人の胸を借りるつもりだったんです(笑)。

奇跡的なコラボレーション

 でもさ、高樹くんの頭の中にある壮大なストーリーがたかだか5分くらいの中に凝縮されてて、しかも複雑ではないっていうのは本当にすごいよね。スーッと入ってくる。ラップの力を思い知らされましたよ。同じバンド内の僕がこういうのも変かもしれないけど、高樹くんとRHYMESTERのやり取りは本当にすごい。「コラボってこんなにうまくいくもんなのか!?」って。僕も今までいろんな人といろんなやり取りを何十年もしてきたけど、成功したことが一度もないので。

Mummy-D 一度もないんですか!?(笑)

堀込 それはさぞつらい音楽人生だったでしょう。

──リスナーからするとコラボってけっこう当たり前な感じがしちゃうんですけど、そんなに難しいんですか?

 そりゃ難しいですよ。

田村 ラップのトラックってシンプルなものが多いですよね。僕らはたくさんの音を使ってけっこうアレンジされた音楽をやっているから、それがラップとどう絡み合うかっていう危惧は最初少しだけありましたし。

楠均(Dr, Perc, Vo)

 僕らの演奏にただラップが乗っかっているという感じには絶対したくなかったんですけど、RHYMESTERは全然違いましたね。もう演奏に切り込んでくるというか、一緒に演奏している感じ。

堀込 そうだね。もともとのトラックもアタック感が強かったけど、ラップが乗ってさらにグルーヴが強くなった。

宇多丸 僕らもコラボはいろいろやってきたけど、今回は相当うまくいったと思ってます。「これは化学反応起きた!」っていう。

田村 時間をかけたというのもあるけど、精密な作業だってというのは聴いてても感じるよね。

堀込 こんなうまく行くと思わなかったですけどね。おかげで自信が付きました。

Mummy-D 俺らも「The Great Journey」を完成させられたことは本当に自信になりましたよ。実は俺らも最近アルバムを制作してて、絶賛煮詰まってて(笑)。何が難しいって、サブジェクトを決めることなんですよ。極端な話、自由に何を歌ってもいいわけじゃん。俺らは「The Great Journey」であんなわけのわからないことを歌にできちゃったんだからもっとできるって思えるようになった。

KIRINJI ニューアルバム「ネオ」2016年8月3日発売 / UNIVERSAL JAZZ
「ネオ」
初回限定盤 [SHM-CD+DVD] / 3996円 / UCCJ-9212
Amazon.co.jp
通常盤 [SHM-CD] / 3240円 / UCCJ-2138
Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. The Great Journey feat. RHYMESTER
  2. Mr. BOOGIEMAN
  3. fake it
  4. 恋の気配
  5. 失踪
  6. 日々是観光
  7. ネンネコ
  8. あの娘のバースデイ
  9. 絶対に晴れて欲しい日
  10. 真夏のサーガ
初回限定盤DVD収録内容
  • 「The Great Journey feat. RHYMESTER」ミュージックビデオ
  • 2015年11月25日に行われた大阪・梅田CLUB QUATTRO公演より「ONNA DARAKE!」「真夏のサーガ」「進水式」のライブ映像
「ネオ」発売記念 KIRINJIトーク&サイン会
2016年8月12日(金)
東京都 タワーレコード新宿店 7Fイベントスペース
<出演者>
KIRINJI(参加予定メンバー:堀込高樹[Vo, G] / 弓木英梨乃[G, Violin, Vo] / 楠均[Dr, Perc, Vo])
※参加メンバーは変更の場合あり
KIRINJI TOUR 2016
  • 2016年9月22日(木・祝)石川県 Kanazawa AZ
  • 2016年9月23日(金)京都府 磔磔
  • 2016年9月25日(日)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
  • 2016年9月28日(水)東京都 Zepp Tokyo
  • 2016年10月1日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2016年10月8日(土)鹿児島県 CAPARVO HALL
  • 2016年10月10日(月・祝)福岡県 イムズホール
  • 2016年10月15日(土)愛媛県 WstudioRED
  • 2016年10月16日(日)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
  • 2016年10月26日(水)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2016年10月27日(木)大阪府 なんばHatch
  • 2016年10月30日(日)東京都 ステラボール
  • 2016年10月31日(月)東京都 ステラボール
KIRINJI(キリンジ)
KIRINJI

1996年10月に堀込泰行(Vo, G)、堀込高樹(G, Vo)の兄弟2人で結成。1997年5月にインディーズデビュー盤「キリンジ」、同年11月にマキシシングル「冬のオルカ」がリリースされると、複雑ながらポップなサウンドと独自の詞世界が大きな注目を集め、1998年にシングル「双子座グラフィティ」でメジャーデビューを果たした。2013年4月に泰行がグループを脱退し、同年夏より千ヶ崎学(B, Vo)、コトリンゴ(Piano, Key, Vo)、楠均(Dr, Perc, Vo)、田村玄一(Pedal Steel, Steel Pan, Vo)、弓木英梨乃(G, Violin, Vo)の5人を加えた新体制に。2014年8月に通算11枚目にして新体制初のアルバム「11」をリリースしたのち、2015年6月には東京・Billboard Live TOKYOでワンマンライブを実施。このライブの音源をもとに、スタジオでのポストプロダクションを施してアルバム「11」を再構築した「EXTRA 11」が11月に発売された。2016年8月にはアルバム「ネオ」を発表した。

RHYMESTER(ライムスター)
RHYMESTER

宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年に結成され、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。メンバー交代を経て1994年にDJ JINが加入し、現在の編成に。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在となった。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、2007年には東京・日本武道館公演「KING OF STAGE Vol.7」を大成功させた。その後、約2年の活動休止期間を経て「マニフェスト」「POP LIFE」「ダーティーサイエンス」という3枚のアルバムを発表する。2014年12月にレコード会社をビクターエンタテインメントへ移し、主宰レーベル「starplayers Records」を設立。2015年5月には東京・お台場野外特設会場で初の主催フェスティバル「人間交差点」を開催し、7月に移籍後初のアルバム「Bitter, Sweet & Beautiful」をリリースした。なお宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINはプロデューサーとしても活動中。