ナタリー PowerPush - キノコホテル

過去のイメージをくつがえす マリアンヌの逆襲

女優さんが“歌わされて”いる感じ

──ではここからは、収録楽曲を1曲ずつ掘り下げてお話を聞かせてください。まずは「エレキでスイム」。東京ブラボーのオリジナルは1980年代前半で、60'sのメタ解釈みたいなサーフロックでしたよね。それを60'sの素養を持つキノコが2013年にやるという、何重ものねじれが起きていますが(笑)。

イザベル=ケメ鴨川(電気ギター)

そうですね。ネオGSをさらにキノコがカバーしたみたいな。うちのケメさん(イザベル=ケメ鴨川 / 電気ギター)はもともとサーフインストなんか得意な人なので、この子にやらせてみたら苦労なくかつ面白くできるかなって。この曲が一番、自分たちがやったらどうなるかイメージしやすかったわね。

──2曲目の「ノイジー・ベイビー」はカルメン・マキさんの1970年のシングルですね。キノコとしては王道のチョイスというか、強化したリズム隊で得意路線をさらに突き進めたような印象です。

そう。よりエモーショナルで凶暴になってる。ものすごくいい曲なので、この世界観をキノコなりに、もっと立体的にしたかったの。

──ある意味以前からカバーしていて不思議ではないこの曲で、今だからこその成果はありましたか?

私の歌唱法なども含めて、元がどの時代の音楽なんだかわからないような、以前だったらできなかったアグレッシブな解釈ができたと思う。「マリアンヌの休日」の頃は、それなりに調理したとはいえ、まだ「ああ、歌謡曲ね」って言われるような範疇だったと思うの。でも今は選曲の目線そのものが違う。「ノイジー・ベイビー」は年代だけ言うと昭和歌謡の範疇かもしれないけど、2013年に作られた曲だと言っても信じられそうなメロディとメッセージを持っている曲だから、ちゃんと今の音楽として通用するものにしたかったの。その違いは大きいわね。資料を見ると、マキさんの中では売れなかったほうだそうなんですよ、この曲。でも普遍的なメッセージを持ったいい曲なので、ぜひ知っていただきたいなという気持ちで選びました。

──次の「今夜はとってもいけない娘」も同様にキノコホテルの得意路線と言える楽曲で、支配人の中でも血肉化されている曲の1つじゃないかと思うのですが。

そうね。これは原曲がもっとしっとりした、キャロル・キング風の音なんですよ。自分たちでやるならどういう音にするか、というのはパッと浮かびました。ボーカルはわざとカマトトぶってて。これは、本業は女優さんなんだけど、なんか歌の仕事が来ちゃって、やる気なく歌ってるイメージ。

──あー、わかります(笑)。

いかにも女優さんが“歌わされて”いる感じ。そういうコンセプトがすぐに浮かんで。この歌の主人公は、やさぐれたい願望があるけどやさぐれきれない女の子なのね。それを女優が「あら、なんで私がこんなの歌わなきゃいけないの」とか言いながらハイハイとブースに入って歌うみたいな。

これを出しちゃえば、今後はもう遠慮なくいろんな音楽ができる

──4曲目の「かえせ!太陽を」に関しては、60年代の曲ではあるものの、今までとはちょっと毛色の違うチョイスだなと思いました。メジャーコードなのも珍しいですよね。

そうね。メジャーコードなんだけど決して明るい内容の歌ではなくて。この曲はもともと私が音楽を始める前に、例えば東高円寺のUFO CLUBとか新宿JAMとか、ああいうところで昔「和モノナイト」みたいなイベントが夜ごと繰り広げられていて、そういうところに行くとDJの方がよくこの曲をかけてたんですよ。「ハレンチ学園」と「かえせ!太陽を」は必ずと言っていいほど。楽しい曲だけどメッセージが強いでしょ。そのあと「ゴジラ対ヘドラ」を観て、ああ、なるほどなあって。

──その後キノコを始めてから、レパートリーには入れなかったんですね。

ずーっと好きな曲ではあったんだけど、いかんせんメッセージ色の強い曲だから、キノコでやるのはなんか違うと思って避けてたんです。でも2年前の震災があったときに……ほら、ゴジラといえば初代から放射能を題材にしてたでしょう? ガイガーカウンターなんてものが出てきたり。この曲を今やったら面白い、というと不謹慎ですけれども、「今でしょ!」(笑)と思ったわけ。2011年から実演会でやり始めたら、お客さんの一部からそれなりに反響もいただきました。「ついにこの曲をやってくれた」と。

──メッセージ自体は重いのに、ヘンに底抜けな明るさがある、ストレンジな曲ですよね。

そう、ストレンジなんですよ。ただメッセージが押しつけがましい曲じゃなくて、奇妙だけどかわいい感じもするし。「ゴジラ対ヘドラ」には音源化されてないものも含めて何バージョンか使用されています。観たことない人は映画のほうもぜひ観てほしいわね。

──そして次の「すべて売り物」ですが、これはまさにキノコの新機軸というか、この方向性もアリだったかと意表を突かれました。

ファビエンヌ猪苗代(ドラム)

盲点だったでしょ。これがまさに、これからキノコが向かおうとしている方向性を示唆する作品になるかもしれないと。アーント・サリー、Phewさんのように伝説的に語られている人を、おいそれと題材にしていいものかと考えてたの。私はアーント・サリーのアルバムが初めてCD化されたときにたまたまレコード屋さんで手に取って。正直最初はそんなにピンとこなくて、何度も聴き返したりはしなかった。でもしばらく間を空けて聴いてみたら、すごく心に残るものがあって。ただ、特に自分のやっている音楽とは関係ないものだと思ってたわけ。でも今回いろんなカバー曲の候補を挙げているうちに、ふと思い出して選んでみたの。

──70年代後半のパンクというのも意外でしたけど、速射砲のような早口もキノコとしては珍しいですよね。

私のアイデアでオリジナルよりさらにアップテンポにしてみたら、まあ歌えないこと(笑)。まずいと思ったわ。最悪ゆっくり歌ってミックス段階で回転を上げればいいかと思ったんだけど。

──のちのち実演会でやることを考えたら、そうもいかないですよね(笑)。

エンジニアの中村さん(PEACE MUSICの中村宗一郎。ゆらゆら帝国、ギターウルフ、SCOOBIE DOなどの作品を手がける)には「アーント・サリーをダサくしたら許さないぞ」と脅されたりもしましたけど(笑)、でもできあがってみたら「うん、いいんじゃない?」って言ってた。

──これで一気に幅が広がったというか、もうどんなタイプの曲でもキノコの音に落とし込めるんじゃないかという可能性を感じました。

そうね。でも、私が今そういうふうに変わったんじゃなくて、たぶんもともとそういうアティテュードはあったんじゃないかと思います。ただ、当時はGSのイベントに出入りしたりしながら、そういう女の子バンドがいなかったからなんとなく昭和なノリで始めてはみたけれど、いろんな音楽を経てのキノコホテルだったから。何年も前からこういうことをやりたいという気持ちはあったのかもしれない。これを出してしまえば、今後はもう遠慮なくいろんな音楽ができると思うので、これはその布石として。

ニューアルバム「マリアンヌの逆襲」/ 2013年5月1日発売 / 2100円 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ / YCCW-10197
ニューアルバム「マリアンヌの逆襲」
収録曲
  1. エレキでスイム(オリジナル:東京ブラボー)
  2. ノイジー・ベイビー(オリジナル:カルメン・マキ)
  3. 今夜はとってもいけない娘(オリジナル:泉朱子)
  4. かえせ!太陽を(オリジナル:麻里圭子)
  5. すべて売り物(オリジナル:アーント・サリー)
  6. 悪魔巣取金愚(オリジナル:休みの国)
キノコホテル

キノコホテル

マリアンヌ東雲を中心とした女性だけの音楽集団。60'sロックンロール / ポップス、パンク / ニューウェイヴ、プログレ、ラテンロックなどさまざまな音楽性を取り込んだ独自の世界観を展開し、高い評価を集める。2010年2月にはアルバム「マリアンヌの憂鬱」でメジャーデビュー。2012年には「東雲音楽工業」を設立し、同年12月5日に移籍第1弾となる最新アルバム「マリアンヌの誘惑」を発表した。現メンバーはマリアンヌ東雲(キノコホテル支配人 / 歌と電気オルガン)、イザベル=ケメ鴨川(電気ギター)、ファビエンヌ猪苗代(ドラム)、ジュリエッタ霧島(電気ベース)の4人。2013年5月1日にはカバーミニアルバム「マリアンヌの逆襲」をリリースする。