ナタリー PowerPush - かりゆし58

絶好調のバンドに立ちはだかる大きな壁

昨年11月に発表された最新アルバム「5」では初心に返り、新たなバンドサウンドを獲得することでみずみずしい歌を披露したかりゆし58。2013年第1弾となるニューシングル「青春よ聴こえてるか」では爽快なバンドサウンドがさらに勢いを増し、絶好調のほどがうかがえる作品となった。30代を迎えた前川真悟(Vo, B)による歌詞も、過去を振り返り未来を見つめる、切なくも前向きなものになっている。しかし、この歌詞と向き合うとき、彼らの前には大きな壁があったそうだ。壁に向き合った現実とこれから先への思いを4人に聞く。

取材・文 / 遠藤妙子 インタビュー撮影 / 臼杵成晃

「過去最高傑作だぜ」という気持ちに自然となれた

前川真悟(Vo, B)

──作品の話の前に。お子さんの誕生、おめでとうございます!

前川真悟(Vo, B) ありがとうございます! びっくりするぐらいかわいいですよ(笑)。

──日本テレビ「スッキリ!!」オンエアの日(4月8日)に誕生されたそうで。

前川 そうなんです。オンエアの日の朝に陣痛が始まって。

──「スッキリ!!」ではロンドン五輪の柔道銀メダリストの平岡拓晃選手のドキュメントが放送され、平岡選手の結婚式でかりゆし58が演奏した場面やそのエピソードが紹介されていました。これはどういう経緯で?

前川 平岡選手の嫁さんからお手紙をいただいたんです。手紙によると、平岡選手は北京五輪のときすごく期待されて送り出されたんですけど、1回戦で敗退して。バッシングを浴びたり、そんなタイミングでお母さんに病気が見つかったり……。「家族が病気になるのは自分が不甲斐ないからなんではないか」って、そこまで自分を追い込んでいたらしいんです。そういうときに僕らの曲を聴いて乗り越えてくれたそうで。そしてロンドンでは銀メダルを獲った。嫁さんにはロンドンから「帰ったら結婚式を挙げよう」って電話があったそうです。平岡くんは僕らの曲によって重圧に打ち勝つことができた。家族や周りの人のことばかり考える優しい人だから、嫁さんはご褒美として、結婚式で彼にどうしてもかりゆし58の歌を聴かせたいって。そういうお手紙をもらったんです。

──いい話ですねー。平岡さんはどの曲を主に聴いていたんでしょう?

前川 「アンマー」と「ウクイウタ」だそうです。ロンドンの試合の前も「アンマー」を聴いてくれて、「メダルを獲れたのは、あの曲のおかげです」って。歌い手冥利に尽きますよね。

──そしてその放送日に、前川さんにはお子さんが生まれたと。平岡さんも前川さんも、人生の大きな転機だったわけで。

左から新屋行裕(G)、宮平直樹(G)、中村洋貴(Dr)。

前川 そうなんですよ。びっくりしますよね。平岡くんの葛藤の話を伺ったとき、たぶん俺たちも……俺個人なのかもわからないけど、葛藤を感じていた時期で。俺はもうすぐ子供が生まれるっていうのもあり、「何を残せるんだろう?」「自分のやってることを誇りに思える父親でいられるだろうか?」っていうことを考えていたんです。

──もちろん喜びもあるでしょうけど、葛藤の気持ちが大きくて。

前川 はい。音楽って、1年近く時間をかけて作った作品でも、聴いたところでおなかいっぱいになるわけじゃないし、じゃあ音楽っていったいなんだろう?って……。なんというのか、自分の生業に対して「これでいいのか?」って疑いみたいなものがぼやっと出てきてしまったんです。平岡くんにも「僕は何のために人生の中の時間を削って楽器を弾いてるのかわからんくなるときがあるよ」って話をしました。そんなときに、結婚式という大事な場で歌ってほしいって言ってくれたことで、僕はすごく救われたんです。

「何もハッキリすることはないんだ」ってことがハッキリした

──人生の転機だからこそ、いろんなことを考えたんですね。

前川 そうなのかもしれません。なんというか「自分がやってることにはなんの意味もないんじゃないか」って疑ったら、怖くなるじゃないですか。夢中でやれているとき、20代の頃のように夢や野望が明確にあるうちはガーッて行けたんです。俺たちのバンドのここまでのモチベーションって、日本で一番になりたいとかそういうんじゃなくて、30代になるまでに自分の好きな女の人と家族と一緒に暮らしていくために、なんというか、バンドもそのためにっていうのもなんですが、愛する家族と暮らすことが目標だったんです。だから自分に子供ができて、一旦ここで、虚無感じゃないけど、「あれ? 家族に会う時間を削って歌を歌うって、意味があるのかな?」って。もちろん聴いてくれている人たちのことを思ってないわけでは全然ないんですけど……。ときどき「俺がやんなくてもいいんじゃないかな?」って思いが湧いてきて。でもそういうときに「いや、あなたの歌が私は必要なんです」って言ってくれる人がいることで、それだけでやってる意味があるって。平岡くんのことで救われた気がしたんです。

──なるほど。昨年11月に発売されたアルバム「5」を経て「青春よ聴こえてるか」を聴いてみると、30代になって新たな気持ちで進むってことがハッキリしたのかなと思っていたのですが。

前川 いや、むしろ「何もハッキリすることはないんだ」ってことがハッキリしたというか(笑)。その都度その都度、初心に戻ってみたりワンステップ上がろうとしてみたり、そうやって進んでも葛藤や悩みはついてくるものなんだなって。「5」は確かに30歳を超えてこれからも音楽を続けていくために、何か明確なものを打ち立てようってつもりで作ったんですけど、結局また次の悩みが出てきて。でも結局ね、うだうだ考えたりしないほうが、素直にいろんなものと向き合えるなって。それはわかったというか、わかろうとしている段階というか。

新屋行裕(G)

──意外でした。アルバムで得た勢いが今作には感じられるし。勢いのある状態で作ったものかと思いました。

前川 違いましたね。なんならドツボにはまった。

新屋行裕(G) 歌詞を作るのはホントにしんどそうでしたし。

前川 バンドは絶好調なんですよ。ただ歌詞を作って歌を歌う奴……つまり俺がダメで。俺、音楽向いてないなとも思ったし。でも向いてる向いてないより、好きでやってるんだって気持ちに切り替えて。好きでやってるんなら好きなことを歌っていけばいいんだけど、どうしてもうだうだ考えてしまって。

──そうだったんですか。アルバム「5」のときのインタビューでは、原点を振り返り衝動の大切さを改めて感じ、衝動こそ普遍的なんじゃないかとおっしゃってましたよね。つまり心にあるものをそのまんま出すっていうのを「5」で実感しながらも、今作ではそれが出てこなかったという……。

前川 今回も衝動に耳を傾けてみたんですけど、なんか無感動っていうか。今、自分がどうしても言いたいことってなんだろう?って。

ニューシングル「青春よ聴こえてるか」 / 2013年5月8日発売 / 1050円 / Pacific Records / LDCD-50090
「青春よ聴こえてるか」
収録曲
  1. 青春よ聴こえてるか
  2. ゆくれベイベー
  3. 青春よ聴こえてるか(カラオケ)
  4. ゆくれベイベー(カラオケ)
かりゆし58「青春よ聴こえてるか」リリース記念インストアイベント スケジュール
  • 2013年5月8日(水)東京都 タワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIO
  • 2013年5月9日(木)福岡県 キャナルシティ博多B1Fサンプラザステージ
  • 2013年5月11日(土)愛知県 タワーレコード名古屋近鉄パッセ店屋上特設スペース
  • 2013年5月12日(日)兵庫県 阪急西宮ガーデンズ4Fスカイガーデン 木の葉のステージ
かりゆし58 ライブスケジュール
HTB夢チカライブ
  • 2013年5月18日(土)北海道 Zepp Sapporo
ガガガSP主催イベント「長田大行進曲行脚2013」
  • 2013年6月14日(金)大阪府 なんばHatch
  • 2013年6月16日(日)愛知県 名古屋CLUB DIAMOND HALL
  • 2013年6月28日(日)福岡県 福岡DRUM LOGOS
MIYAKO ISLAND ROCK FESTIVAL 2013
  • 2013年6月22日(土)沖縄県 南西楽園宮古島リゾート敷地内特設会場
四星球方向性会議
  • 2013年6月27日(木)東京都 代官山UNIT
第31回 ピースフルラブ・ロックフェスティバル 2013
  • 2013年7月13日(土)沖縄県 沖縄市野外ステージ
OGA NAMAHAGE ROCK FESTIVAL vol.4
  • 2013年7月27日(土)秋田県 男鹿市船川港内特設ステージ
かりゆし58(かりゆしごじゅうはち)

2005年沖縄で結成。前川真悟(Vo, B)、新屋行裕(G)、中村洋貴(Dr)、宮平直樹(G)からなる4人組バンド。バンド名は沖縄の方言で「めでたい / 縁起がいい」の意味を持つ「かりゆし」と、沖縄のメインストリート国道58号に由来する。2006年2月にミニアルバム「恋人よ」をリリースし、続くシングル「アンマー」がロングヒットを記録。2009年2月にリリースしたシングル「さよなら」は松山ケンイチ主演ドラマ「銭ゲバ」主題歌に抜擢され大きな話題を集めた。2011年7月発売のベストアルバム「かりゆし58ベスト」のヒットを経て、2012年11月には2年3カ月ぶりのオリジナルアルバム「5」を発表。ライブも精力的に行っており、沖縄で生まれ育った彼らならではの“島唄”を全国に向けて歌い続けている。2013年5月8日にはニューシングル「青春よ聴こえてるか」をリリース。