ナタリー PowerPush - iLL
多作な作家ナカコーが語る モノを作っていく意味
ミニマルテクノのデザインされた音色に触発された
──なるほど……。では、音楽の話に戻って。「Minimal Maximun」は全体を通して、ニューウェイブ、テクノといわれるジャンルに通じてると思いましたが、音楽的な方向性についてはどんなふうに考えてたんですか?
……ミニマルテクノのデザインされた音色には触発されてましたね。最近はそれしか聴いてないし、そういうモードだったので。面白いネタがいっぱいあるんですよ。
──音色を含めたサウンドデザインの部分で?
そうですね。普通の人からすれば「全部一緒じゃん」って言うかもしれないけど(笑)。例えば「このキックの開き方は、やったことがないな」ってことだったり、音のデザインの形がすごくキレイだったり。
──どんどん細部に入り込んでいく。
今はそうですね。そういう音にそれほど興味がなかったときは「コレとコレ、何が違うんだ?」って感じだったんだけど。今は逆にバンド系の音の違いがわかんないんですよ。「ボーカルが違うって言っても、男っていう括りではいっしょでしょ?」とか(笑)。どっちかにハマってると、どっちかが大雑把になるっていう。僕の場合、その繰り返しです。
──音の位相も面白いですよね。意外な場所に意外な音が配置されていたり。
うん、そういうところに特化した一面もありますね。複雑なフレーズで聴かせていくこともできるんだけど、今回は単純な一発の音をどう配置して、どう組み合わせていくかに気を使った。今は機材も進歩したから、音をいろんな配置にできるようになってるし。それに、音の構成について自分自身も成長したってこともあるんじゃないかな、と。
──ヘッドフォンで聴くと、曲の奥行きも実感できますよね。
うーん、まあ、デッカイ音で聴くと面白いと思いますけど。
──フロアで鳴らされたときのことも考えてます?
いや、それはあまり考えないかな。フロアで鳴らすことは稀だし。そういう現場で流れてもいいようには作ってますけど。
この楽曲において一番美しい形を作りたかった
──では、ボーカルについてはどうですか? 全編を通して歌ってますが、そこに対する意識の変化はありました?
自分の理想のスタイルを目指すと、どんどん歌を削っていく方向に行くんですよ。削れるだけ削って、そのうえでちゃんと“歌モノ”って言えるようなものにしたかったというか。ホントはもっと削りたかったんだけど、これ以上やると楽曲のスタイル自体を変えなくちゃいけないので。この楽曲において、一番美しい形を作りたかったんですよね。削ればいいってものでもなく。
──それも「音をデザインする」ということに通じてますよね。でも、「もっと歌ってほしい」っていうオーディエンスの要望もあると思んですけど。
ま、ないですけどね(笑)。そんな要望、聞いたことないです(笑)。
──え、そうですか? ナカコーさんのボーカル、色気があっていいと思いますが。
じゃあ、考えておきます(笑)。
──Twitterとかにそういう声は上がってこないですか?
あんまりしないですからね、そういう話は。自分の音楽のことはあまり話したくないです。
──カジュアルな話題が多いですよね、確かに。「鬼太郎に出てくる吸血鬼エリートがキューンレコードの社長に似てる」とか。
そうですね(笑)。
──最近はTwitterも積極的に活用されてますが、面白いですか?
面白いと思いますけどね。今までのネットのいいところが合体したというか。それでいてあまりへビーにもならず。なんて言うか、情報の整理が、パーソナルな部分に特化されてると思うんですよ。メタル系の話しかしない、とか、下北沢界隈のバンドのことだけ、とか。しかも、その人がしゃべってる内容を深く理解できるわけではなくて、その人の周りの空気みたいなものが見ていて伝わってくる。もっと深い内容を知りたければブログでも読めばいいし。僕はそういう掘り下げをしないタイプなので(笑)、空気がわかればいいんです。
CD収録曲
- Eden
- On The Run
- Distortion
- Good Day
- Seagull
- Downer
- Love
- Living On Dance
- Zero
- With U
- Bad Dreams
iLL(いる)
2005年に解散したロックバンド・SUPERCARのフロントマン、中村弘二による音楽プロジェクト。2006年5月に全曲インストゥルメンタルによるアルバム「Sound by iLL」をリリースし、「FUJI ROCK FESTIVAL'06」ではレーザーを駆使した演出と自然との共演で高い評価を得る。2007年1月には文化庁メディア芸術祭10周年記念展にて演奏。その後も精力的なリリースとライブ活動を展開し、2009年7月には砂原良徳プロデュースのシングル「Deadly Lovely」を、8月には4枚目のアルバム「Force」を発表。2010年夏の「FUJI ROCK FESTIVAL'10」への出演も決定した。CM音楽の制作やリミックスなどでもその才能を発揮している。