初音ミク10周年特集|ハチ(米津玄師)×ryo(supercell)|2人の目に映るボカロシーンの過去と未来

初音ミクの10年 ~彼女が見せた新しい景色~

「砂の惑星」が意味するものは何か

──ハチさんは今回「マジカルミライ」のテーマソングとして「砂の惑星」という曲を発表したわけですが、この曲はどういうふうに作り始めたんでしょうか?

ハチ 最初に依頼していただいたときは「どうしようかな……」と考えていたんですよ。で、最近のニコニコ動画をずっと観ていたんです。ランキングとか、自分が観なくなってから流行った動画とかをさかのぼって観たりして。なんと言うか、僕が投稿していた時期とは明らかに景色が違う。ニコニコ動画というもの自体がどんどん砂漠になっているというイメージが広がっていって。「ああ、これ、砂漠だな」と思ったときに、自分がかつて過ごしてきた一種の故郷である、ニコニコ動画が砂漠になっていく光景を曲にしたら面白いんじゃないかと思ったんです。今のニコニコ動画を表現するべきと言うか、する人がいてもいいんじゃないか、と。これならやる意味があるかなと思って、依頼を受けました。

ryo 俺、まだ聴いてないんです(この対談が行われたのはミュージックビデオ公開前の7月中旬)。今聴いていいですか?

──じゃあ早速かけましょう。

(曲を流す)

ハチ うわ、この感じめっちゃ嫌ですね(笑)。

ryo (最後まで聴いて)これはいいな。好きです。歌いたくなるし、ハチさん節も入ってるし、今風のラインもある。サビでバーンと広がるところもカッコいい。あそこはどうやってるんですか?

ハチ サビは自分でも歌ってますね。

ryo そうなんだ。さすがですね。この期待を裏切らない感じ。「これが大物Pですよ」みたいな(笑)。当然みんな期待して聴くわけじゃないですか。その期待を裏切らない、かつ、予想しないところを突いてくる。それがいい曲の条件なんですよ。もっと速いテンポを想像してたんですけど、そうじゃなかった。

──この曲は95BPMで、かなり遅いですよね。

ハチ そう。たぶんそれくらいです。ボカロ曲って、180とか200BPMがスタンダードじゃないですか。自分もそういう曲を作ってきたし、だからこそひさしぶりに帰ってきたときに、「またそれかよ」みたいになるのだけは絶対に嫌だったんですね。かと言って、全然関係ないことをやるのも違うし。その中でどこに落ち着けるかっていうのは、けっこう悩みましたね。

ryo でも、メロディの節回しが速いんで遅い印象がないんですよね。歌が始まるとエド・シーランみたいにずっとしゃべってる。

──特に後半部は3連符を使ったトラップ以降のヒップホップですね。

ryo そうそう。歌がガンガン引っ張っていくんです。で、子音が全部立ってるっていうのもすごいんですよ。ボカロって、子音を聞き取れるように重ねるのが大変なんです。それもあるし、自分の声でコーラスを入れているからさらに聞き取りやすくなってる。ギターもかっこいいし、リズムも今の米津さんっぽさがあるし。いい曲ですね。

ハチ ありがとうございます。トラップやヒップホップの文脈って、ニコニコ動画にはほとんどないから、そういうのを取り入れたら楽しいかなって。

必要なのは「ハチなんて知らねえ」みたいな生意気な若い奴

──歌詞には「メルトショックにて生まれた生命」という言葉もあります。

ryo 「メルトショック」っていう単語を使ってくれたのは、自分としてはすごくありがたいです。でも「皮肉がすげえな」とは思いました(笑)。歌詞にも昔のハチさんの曲のフレーズを埋め込んでたりして、知ってる人は「あれ? これ、あの曲のあの部分から取ってきてる?」と思うんですよ。それを踏まえたうえで、「すでに廃れた砂漠」と言ってしまうという。こんな歌を作って、次どうしてくれるのって感じですよね。

──でも、ハチさんには単なる皮肉でなく、未来につなぐという意志もあったんだと思うんですが。どうでしょう?

ハチ そうですね。未来につないでくださいって。俺はもう知らないです。

──「後は誰かが勝手にどうぞ」って言ってますもんね、歌詞では。

ハチ 「それをやるのは俺じゃないでしょう」っていう。「砂の惑星」が1つの起爆剤になってほしいとは思いますけれど、根本的に「俺が全部ひっくり返してやるぜ」なんてふうにはまったく思ってなくて。むしろ、どんどん新しい人たちが出てきてほしい。これがきっかけで砂漠にまた1つ木が生えてくれたらいいなって感じですね。その木の周りで新たに誰かが土を耕して、稲とか植え出して、それが実っていけばいいんじゃないかという。

ryo でも、これだけのクオリティの曲を出されると、みんな何も言えなくなって黙るしかないと思うんですよ。批判する余地のない曲と言うか、「あ、すいません」みたいな(笑)。だからハチさんはドSだなって感じました。

ハチ まあ、生意気な奴が出てきたらいいんじゃないですか。「ハチなんて知らねえ、俺が全部変えてやるぜ」みたいな。そういうのが必要なんじゃないかって。

ryo 確かに。これにアンサーソングを書くには、「誰だよハチって」っていうくらいの奴が出てこないと。

──若い世代の才能が出てきてほしい、と。

ryo やっぱり説得力がないとダメなんですよ。「あいつ、口ではすげえいいこと言うんだけど、肝心の曲は全然よくないんだよね」みたいなのが一番ダメで。このデカい壁を越えるボカロPが出てくるのは、かなり難しい気がするんですけど。でも、「お前ら来いよ」っていう気持ちは俺もあります。

ハチ うん、そういう人たちに出てきてほしいですよね。バルーンさんとか、ナユタン星人とか、n-bunaくんとか、新しい世代の人たちが出てきてるので、そういう人たちにがんばってもらいたい。そしてその子らに影響を受けたさらに若い子たちが出てきて……というふうにどんどん続いていってほしいなと思いますね。

V.A.「初音ミク『マジカルミライ 2017』OFFICIAL ALBUM」
2017年8月2日発売 / クリプトン・フューチャー・メディア
V.A. 「初音ミク『マジカルミライ 2017』OFFICIAL ALBUM」

[CD+DVD]
2500円 / HMCD-8

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CD収録曲
  1. 砂の惑星 / ハチ feat. 初音ミク
  2. Singularity / keisei feat. 初音ミク <楽曲コンテスト グランプリ楽曲>
  3. エイリアンエイリアン / ナユタン星人 feat. 初音ミク
  4. 孤独の果て / 光収容 feat. 鏡音リン
  5. ツギハギスタッカート / とあ feat. 初音ミク
  6. ダブルラリアット / アゴアニキ feat. 巡音ルカ
  7. 脱法ロック / Neru feat. 鏡音レン
  8. Birthday / ryuryu feat. 初音ミク
  9. DECORATOR / livetune feat. 初音ミク
  10. マジカルミライ SPECIAL MEGAMIX (「ネクストネスト」「Hand in Hand」「39みゅーじっく!」) / 八王子P feat. 初音ミク
DVD収録内容
  • 砂の惑星 / ハチ feat. 初音ミク
ハチ(米津玄師)(ヨネヅケンシ)
ハチ(米津玄師)
男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にVocaloid楽曲を投稿し、総合2位の「マトリョシカ」をはじめ数々のヒット曲を連作。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表した。全楽曲の作詞、作曲、編曲、ミックスを1人で手がけているほか、アルバムジャケットやブックレット掲載のイラスト、アニメーションでできたビデオクリップも自身の手によるもの。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月、シングル「サンタマリア」でメジャーデビュー。2014年4月に米津玄師名義としては2枚目のアルバム「YANKEE」を発表し、6月には初ライブのワンマン公演を東京・UNITで開催した。2015年8月には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」で野外フェス初出演を果たす。2016年にはルーヴル美術館特別展「ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~」の公式イメージソングとして、新曲「ナンバーナイン」を書き下ろし、同年9月に両A面シングルとして「LOSER / ナンバーナイン」をリリース。10月には中田ヤスタカとタッグを組み、映画「何者」の主題歌「NANIMONO (feat. 米津玄師)」を発表、12月には初の単行本「かいじゅうずかん」を発売した。2017年2月15日にテレビアニメ「3月のライオン」のエンディングテーマを表題曲とする「orion」をリリース。6月にはテレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」オープニングテーマを表題曲とする「ピースサイン」を発表する。また11月からは全国各地を回るワンマンツアー「米津玄師 2017 TOUR / Fogbound」を開催することも決定した。
supercell(スーパーセル)
supercell
コンポーザーのryoと複数のイラストレーター、デザイナーによって構成されたユニット。Vocaloid「初音ミク」が歌唱するオリジナル曲をニコニコ動画にアップしたことから人気に火がつき、ニコニコ動画での楽曲の総再生回数は2000万回以上を記録する。その人気はインターネットを通じて爆発的に広がり、2009年3月に待望のメジャーデビューを果たす。1stアルバム「supercell」のセールスは10万枚を超え、翌年の「第24回日本ゴールドディスク大賞」にて「ザ・ベスト5ニュー・アーティスト」を受賞した。続く1stシングル「君の知らない物語」からはゲストボーカルにnagiを迎える。「君の知らない物語」はアニメ「化物語」の主題歌に起用され、こちらも大ヒットした。2011年3月には2年ぶりとなる2ndアルバム「Today Is A Beautiful Day」をリリースし、オリコン週間ランキングで3位を獲得。その後、新ボーカリストを募集するオーディションを敢行し、2000人を超える応募者の中から福岡県出身のこゑだを選出。2012年12月にアニメ映画「ねらわれた学園」のオープニングテーマ「銀色飛行船」、2013年3月にテレビアニメ「マギ」のエンディングテーマ「The Bravery」、2013年6月にテレビアニメ「刀語」のノイタミナ版オープニングテーマ「拍手喝采歌合」をシングルで発表し、これらを収めたオリジナルアルバム「ZIGAEXPERIENTIA」を2013年11月に発表した。