ナタリー PowerPush - FreeTEMPO
ラストアルバムで表現された半沢武志のネクストステージ
自分だけに決定権が任されてない未知の音
──半沢さんは昨年でDJ活動をやめたそうですが、今の話からするとDJに興味がなくなったわけではなく、DJを超える手段のひとつとしてバンドに興味を持ったということでしょうか。
そうですね。まあDJは嫌じゃないし、ひとつの自分のスタイルでもあるんですけど。要するに、僕は不器用なんで同時にいろいろなことができないんです。ひとつのものを作り終えてからじゃないと次に進めない。DJをやめてバンドのほうに行くのも、FreeTEMPOをやめて次のことを始めるのもそういう感じなんですよね。
──バンドサウンドのどんなところに魅力を感じたんですか?
FreeTEMPOでは自分ひとりで曲を作ってすべてまとめ上げてきたから、今度は僕ひとりだけに決定権が任されてない音を作ってみたくなって。僕はもともとバンドをやっていたんですけど、バンドっていろんな人の出す音だったり、メンバーとの駆け引きだったりがあって成立するものですよね。その、自分じゃ決められない未知の音を出すのが楽しみで。だから僕は、これから始めるバンドの音をどうするかっていうのをわざと考えないようにしてるんですよ。
──ちなみに昔やってたのはどんなバンドだったんですか?
ジャズファンクっぽいバンドです。そのころJAMIROQUAIとかが流行ってて。パートは主にドラムだったんですけどピアノとかギターとかもやってました。でも、どうもバンドって難しいなあってだんだん思うようになって、ひとりでも曲作りができるFreeTEMPOの道に進んでいったわけです。
──ということは、バンドを組むのが嫌になってひとりで音楽活動を始めたけど、今またそれが恋しくなって戻っていくということですか。
そうそう、そうなんです。10年間ずっとひとりで決めてきたから、次はひとりで決められないことにもう1回ちゃんと挑戦したいなって。
自分の人生観を自分なりに表現した音楽
──バンドに興味が出てきた結果がこのアルバムということは、今作で呼んだゲストはきっと、半沢さんの中に「この人と一緒にバンドをやってみたい」という気持ちがあった人なんでしょうね。
機会があればぜひやりたいですけど、なかなか難しいでしょうね(笑)。でも、毎回その曲に合ったボーカリストも僕が選んでいるので、当然呼ぶのはいつも好きなアーティストばっかりになりますよ。
──とはいえ、キリンジの堀込泰行さんだったり、LITTLE CREATURESの青柳拓次さんだったり、今回はこれまで以上にFreeTEMPO的なジャンルからは離れたコラボ相手が多い気がしました。
確かにアルバムを作るにつれて、ゲストボーカルのクラブミュージック色がだんだん薄くなってますよね。多分、僕がイメージする音楽と共通性を持った人が、たまたま違うジャンルでやっていただけかな、とは思うんですが。
──なるほど。ところでボーカルを誰にお願いするのかは、どの段階で考えるんですか?
バックトラックを全部作り終わってからです。基本的にトラックを作ってるうちは具体的に誰が歌うのかあまり考えないんですけど、作っていくうちに「こういう感じの声がいいな」と思うことはあります。
──半沢さんが「another side」という名義で自分で歌ってる2曲、特にラストの「My Song」はこれまでのFreeTEMPOの曲とずいぶん雰囲気が違いますよね。最初にCDを聴いたときに「まるでシンガーソングライターの音源みたい」だと思って。半沢さんが自分で歌っているって知って納得したんですけど。これらの2曲もトラックが完成してから自分で歌うべきと判断したんですか?
ああ、そうですね。誰が歌っても良かったんですけど、「My Song」ってタイトルなんだから、やっぱり自分が歌うのが良いかなあって思って。
──自分が歌うといえば、このアルバムのコンセプトは「自分を歌にした」とのことですが、それは具体的にどういう意味なんですか?
自分の考える人生観を自分なりに音楽にしてみた、っていうことです。まあ、前のアルバムのときは曲名が「TREES」とか「STARS」とか「BIRDS」とかだったから「世界を歌にした」っていうキャッチコピーを付けてたんで、今回もなんとなくなんですけど(笑)。ちなみに、このCDが発売される3月10日っていうのが僕の誕生日なんですよ。
──おお、最後の作品を誕生日にリリースするというのはいいですね!
いやぁ、もうなんとか間にあわせましたよ。2月に入ってから歌録りしたものもありましたから。
──えっ、ついこの間の話じゃないですか! 3月10日発売なのに1カ月前にまだレコーディングしてるって(笑)。
そうなんですよ。1曲終わると同時にミックス始めて、次の歌録りも同時進行でやって、ギリギリの状態でした……。
──これだけ豪華なゲストだったら各々のスケジュールを確保するのも大変だったのでは?
マネージャーの腕でなんとかこぎつけましたよ(笑)。この前やっとマスタリングし終えたところなんで、しばらく自分で自分のCDを冷静に聴けなかったんですけど、一週間経ってようやく冷静になって聴けたんです。で、やっぱりいいなぁ、って思いました(笑)。
──それは良かったですね。その段階で不満を感じてももう直せないですからね(笑)。
あと、このCDが発売されるのは水曜日なんですけど、僕が生まれた3月10日も水曜日だったんですよ。別にリリース日に合わせて生まれたわけじゃないのに(笑)。
CD収録曲
- Tomorrow feat. Takuji Aoyagi (Little Creatures / Kama Aina)
- Breezin' feat. Yasuyuki Horigome (Kirinji / Uma No Hone)
- Heart feat. blanc.
- a Walk feat. Xavier Boyer (Tahiti 80)
- 逆光
- Mistake feat. Elizabeth Ziman (Elizabeth & The Catapult)
- Holiday feat. Tomoko Mitsuda (achordion)
- メモライズ feat. Satokolab
- 時代 feat. Miyuki Hatakeyama (Port of Notes)
- Time Machine feat. another side
- Family feat. Ichiko Aoba
- My Song feat. another side
FreeTEMPO(ふりーてんぽ)
仙台を拠点に活動する、アーティスト/DJ/リミキサーの半沢武志によるソロプロジェクト。2000年より活動を開始。イタリアのIRMA RECORDSからリリースされたコンピレーション盤への参加を経て、2002年1月に1stミニアルバム「Love affair」に発表する。翌2003年7月には1stフルアルバム「The World is Echoed」をリリースしている。2007年2月に発表した配信楽曲「HARMONY」がiTunes Storeや各FM曲で1位を記録する快挙を達成。2008年6月にはSAWAのデビューミニアルバム「COLORS」のプロデュースを手がけ、プロデューサーとしての手腕も発揮する。2009年9月には自分の曲を歌ってほしいアーティストを指名する異色のカバー集「COVERS」を発表し話題となった。ボサノバやAOR、ハウスの要素を取り入れたクラブミュージックが特徴で、クラブ系音楽ファンを中心に好評を博している。