ライブではエモみが増します

──ここからは具体的に「シンガロン・シンガソン」について聞かせてください。サビには学校のチャイムを思い出させるメロディが差し込まれてますけど、これはエビ中の学校コンセプトを意識したのでしょうか。

大森　この曲はAメロから順に作っていって……チャイムメロは意識して入れたわけじゃなく、実は作り上げたあとで気が付いたんですよ。僕はこれよくあることで、デビュー曲の「StaRt」（2015年7月発売のミニアルバム「Variety」に収録）はサビメロがドレミファソラシドなんですけど、それもあとで気が付いたんです。あとでメンバーに言われて気付くっていう、自分の曲に鈍感なところがあって。「中学設定に合わせて作りました」と言ったほうがきれいなんですけどね（笑）。

──ははは（笑）。

大森　Aメロはちょっとチョケてる感じと言うか、おふざけしているんだけど、ちょっと憂いがあるみたいな。その憂いがエビ中の特徴で、バンドなんかより全然エモーショナルだなと思ったんですね。僕は学校生活を謳歌できなかった人間なので、青春の憂いみたいなものを楽しく書けたらいいなと思って。作っているときはメンバーの歌い分けを勝手に想像していたんですけど、できあがったものはほとんど思った通りでした。

──エビ中は全員が通して歌ったあとでパート分けをするんですよね。

大森　そうなんです。そこはお任せだったんですけど、「ここは真山さんかな」「ここはぁぃぁぃちゃんかな」と考えていたところは大体考えていた通りのパート分けでしたね。作っている最中はとにかく、頭の中でエビ中さんをエンタテインメントさせて、それを音で表そうと考えながら作っていきました。Aメロは早口で難しいと思うんですけど、新しい挑戦として課題になればいいなと。

廣田　だいぶなってますね（笑）。

大森　アハハハ（笑）。音域の高低差が2オクターブあったり、難しいところはあると思うんですけど、アイドルだからと言って歌いやすい曲を書いちゃいけない、エビ中はそういうことをしちゃいけないアーティストさんだなと思ったので。

──耳当たりはポップでキャッチーな感じがするんですけど、随所に難解な要素が盛り込まれてますよね。

廣田　やっぱり最初はびっくりしましたよ。大森さんが歌ってくださっているぶんにはいいんですけど、「これを私たちが歌うのか」と思うと……大丈夫かなって。レコーディングが不安だったので事前に何度も聴き込みました。

大森　秋のツアーではもう歌ったんですよね。どうでしたか？

廣田　CDではさわやかと言うか、それなりに聴きやすい感じになっていると思うんですけど、ライブではもっと歌詞のメッセージを全面に伝えるような感じにできたらいいねってみんなで話して、もっと熱い感じで歌ってます。ライブで盛り上がる曲に進化していくんじゃないかなって感じています。

──確かにこの高音域はライブで歌うとエモみが増しそうですね。

廣田　そう、エモみ！ エモみが増します。

これは難しい問題ですよ

──大森さんの中で、ピンポイントに「ここはうまくいったな」と思う箇所はありますか？

大森　「バイバイなんて 言いたくないね またねと手を振り ニコっとね」は自分でもちょっと泣いちゃいますね。そうそう、僕、曲を作ったあとでぁぃぁぃちゃんが転校するって聞いたんですよ。

──あ、そうだったんですね。

大森　「えっ、嘘でしょ？」みたいな。知らずに転校ソング書き下ろしちゃったじゃん！ みたいな（笑）。

廣田　……ヤバいヤバいヤバい。

──エビ中として新しい扉を開きつつ、それでいてエビ中っぽいと言うか。先ほどおっしゃっていた、ただ明るいだけじゃない、憂いを帯びた明るさにグッとくるみたいなところが、エビ中の特徴を的確に捉えているのかなと思います。

廣田　そう！

大森　あー、そう言ってもらえるとうれしいです。

──もともと持っていた作家性が、エビ中と波長があっているのかなと。

大森　うん。だからなのか、すごく書きやすかったですね。悩むことなく素直に、自分でも楽しみながら書けたので。

──エビ中の運営チームは「いい作家を見つけた」と思っているかもしれません。

廣田　えー！ それで何曲も書くのとかヤだよ！

大森　僕の仕事なくなっちゃうじゃん！（笑）

廣田　あー、難しい！ これは難しい問題ですよ（笑）。エビ中の新しい大森さんの曲は聴きたいけど、私は歌えないのか……と思うと。いやでも、続いたらいいですね（笑）。

“優しさ”とは何か？

──ちなみにレコーディングには大森さんも立ち会われたんですか？

大森　残念ながら全員は立ち会えなかったんですけど、真山さんと柏木さんとぁぃぁぃちゃんのレコーディングは立ち会えました。

──廣田さんは何かアドバイスを受けたんですか？

廣田　ある部分を歌うときに「優しくなりすぎないように、寄り添うように歌って」って言ってくださったんですよ。それを聞いて「ハッ、これだ！」と思ったんです。私がミセスを聴いていて感じること、素敵だなと思うところはそこなんだって気が付いて。宝物をポイッと投げてもらえた感じで。自分も歌ったり何かを表現したりするとき、そこを大事にするといいんだなっていう……鍵をもらった感じがしました。それは自分にとってすごく大きかったです。このタイミングで、今の自分にとって大事なヒントをいただけたなって。

大森　ぁぃぁぃちゃんは高い声もパーンと出るし、低いところもちゃんと出るんですけど、ただ張ったりただ落としたりするような強弱じゃなく、人間性が見える温度感を出していただきたいなと個人的に思っていて。じゃないとこのエモさは出ないと思ったんですよ。だからディレクションという感じではなく、好きに歌ってもらいながら少しだけ意識してほしいなと思ったところだけそういうふうにお伝えして。「優しく歌う」って、ちょっと漠然としてますよね。なので「寄り添うように」と伝えました。

廣田　私がミセスの曲を聴いていて感じるのは、簡単じゃない“優しさ”なんですよ。大森さんはいち人間として、優しさをどういうものだと捉えていますか？

大森　おー、哲学！

廣田　「優しい」って言葉は、すごく簡単に言えちゃうじゃないですか。でも私はそれを疑問に思っているところがあって。優しいからいいというのもまた違って……自分では言葉にできないニュアンスだけは感じているんです。ミセスの音楽はその言葉にできない部分が表現されていると思っていて。それを作っている大森さんは“優しさ”をどう考えているのかなって。

大森　優しさとは。マジトーンで答えちゃっていいんですよね？ 確かに“優しさ”って言葉があるとすごく曖昧になるんですよね。僕は単純に、純粋に人が好きなので、寄り添いたいし、寄り添ってほしいと思うんですよ。同じ星に生まれたからには兄弟だと思ってるんで、だったら忌み嫌うよりも腹を割って話したい。その“腹を割る”が僕にとっての“優しさ”につながってくるのかなあ。自分を見せなきゃ自分を評価してもらえないし、ダメとも言ってくれないし。自分を伏せる人が多くなればなるほど“優しさ”という言葉が悪目立ちしちゃうだけだと思っていて。「優しい人がタイプです」って人はたくさんいると思うんですけど、よくわかんないっちゃわかんないですよね。最新版の辞書では「優しい」の項目はみんなが思ってる優しさと全然違うかもしれない。

廣田　うんうん。グレーになっちゃってると言うか。

大森　自分を成長させてくれる要素を“優しさ”と呼ぶのかなと思います。親に怒られたり友達とケンカしたりするのは、本質がぶつかり合ってるから起こることだと思うし、本質を見せ合うのが“優しさ”なのかなって。人が好きだというだけの気持ちで曲を書いているから、嫌な気分になることも、寂しい気持ちになることもあるし。そこに正直でいることが大事なのかなって……すごいしゃべっちゃった（笑）。

廣田　いやいや、スッキリしました。