デジナタ連載 Technics×「レコードの日」特集|THE BAWDIES ROY&TAXMAN|ビギナーにこそ教えたい、愛すべきアナログレコードの世界

11月3日に開催されるアナログレコードの祭典「レコードの日」。アナログレコードのプレスメーカー・東洋化成が主催、Technicsが協賛する本イベントでは、2015年のスタート以来毎年多くのアーティストたちがアナログ作品をリリースしてきた。6度目の開催を迎えた今年も、ビギナーからマニアまで幅広い層のレコードファンが楽しめる100タイトル以上の作品がラインナップされ、全国のレコードストアの実店舗およびオンラインショップと連動した賑わいを見せている。

音楽ナタリーでは今年も「レコードの日」が開催されることを記念して、イベントの一環で新作7inchアナログ「SKIPPIN' STONES / LET'S GO BACK」をリリースするTHE BAWDIESのROY(Vo, B)とTAXMAN(G, Vo)にインタビュー。今回は「音楽は好きだしレコードに興味はあるがしっかりと触れたことがない」というアナログビギナーにその魅力を知ってもらうべく、長年レコードを愛してやまない2人にTechnicsの最新ターンテーブル「SL-1200MK7」を体験してもらいながら、アナログレコードの世界を6つのパートごとにレクチャーしてもらった。

取材・文 / 三宅正一 構成 / 瀬下裕理 撮影 / 笹原清明

Technics「SL-1200MK7」

Technics「SL-1200MK7」

世界中のDJがプレイする現場で使われ続ける「SL-1200MK」シリーズの最新機種。ダイレクトドライブモーターやプラッター、シャーシなどすべてを一新しながら、トーンアームや各種操作スイッチなどの配置は「SL-1200MK」シリーズのレイアウトをそのまま踏襲し、これまでと変わらない操作性を実現している。

レコードの日

レコードの日

アナログレコードの魅力を伝えることを目的として2015年より毎年11月3日に開催されているアナログレコードの祭典。東洋化成が主催、Technicsが協賛している。イベント当日は全国各地のレコード店でさまざまなイベントが行われるほか、この日のために用意された豊富なラインナップのアナログ作品が販売される。

PART 1僕らがレコードを好きな理由

──今日はビギナーの方々に向けて、並々ならぬレコード愛をお持ちのお二人にアナログレコードの魅力を存分に紹介してもらいたいと思っています。まず最初に、そもそもお二人がレコードにハマったきっかけを教えて下さい。

ROY 僕ら4人は同じ高校に通ってたんですけど、音楽のカルチャーが盛んな校風だったこともあってもともと生活の一部にずっと音楽はあって。でも、当時みんなバスケ部に入っていたので、高校時代は音楽よりもバスケに夢中だったんです。それが3年生になって部活を引退したある日、渋谷のタワーレコードに行ったときにたまたま店内に流れていた音楽を耳にして。それが僕らが一貫してTHE BAWDIESのルーツと言っている1960年代のガレージバンド・The Sonicsだったんですね。その音が本当に衝撃的で。いつの時代のどんなバンドなのかもわからないままCDを買って、次の日に学校でメンバーに聴かせたんですよ。そしたらみんな一瞬でハマって。そこからガレージや、The Sonicsが聴いてきたリズム&ブルースやソウルミュージックに興味が湧き始めたんです。でも、当時はそういったジャンルのCDはコンピレーションやベスト盤でもなかなか買えなくて、レコードのほうが安く手に入ったんです。それで自然とレコードを買って聴くようになっていったんですよね。

左からROY、TAXMAN(THE BAWDIES)。

TAXMAN 当時僕はThe StrokesやThe White Stripesだったり、いわゆるロックンロールリバイバルと言われていたバンドをよく聴いていて。そんな中ROYから最初にThe Sonicsを聴かせてもらったときに「あ、これはすごいね!」となった。音が明らかに汚れてるんだけど、それがまたカッコよかった。あのときは学校でインディーのメロコアバンドの曲が入ったカセットテープの貸し借りがよく行われていたせいで雑な音に慣れていたのもあって、余計に60年代のガレージバンドの初期衝動的な音にガツンとやられちゃったんだと思います。

ROY(THE BAWDIES)
オーティス・レディング「Satisfaction」(ROY私物)

ROY ロックンロールリバイバル、ガレージリバイバルと呼ばれるバンドの音ももちろん汚れているんだけど、あっちはあえて汚しているというか。でも、The Sonicsは音を汚しているんじゃなくて勝手に汚れてた(笑)。その違いに気付いて、後者のほうがカッコいいじゃんと。だからほかのバンドもこの汚れた音に憧れて、それを再現しようとしてるんだとわかったんです。そこで僕らは「この音の魅力を全世界に伝えたい」と思ったんですけど、The Sonicsのレコードを世界中に配って歩くのは現実的に不可能なので(笑)、自分たちがThe Sonicsのような熱量を持ったバンドになればいいと思った。それがTHE BAWDIESを結成したきっかけだったんです。

──なるほど。すべてはThe Sonicsとの出会いから始まったんですね。

ROY そうそう。僕はそれからThe Sonics以外の60年代のガレージバンドを聴いていったんですけど、そこまでビシッと自分に刺さるものがなくて。「じゃあThe Sonicsは何を聴いてこんなにカッコいいバンドになったんだろう?」という疑問が出てきたので調べたら、その背景にはリトル・リチャードやレイ・チャールズ、ジェームス・ブラウンといったソウルやブルースの黒人シンガーがいることがわかったんです。それでリトル・リチャードを聴いたら、The Sonicsにも勝るとも劣らない衝撃を受けて。The Sonicsのボーカル、ジェリー・ロスリーはリトル・リチャードのシャウトを真似てあんなに叫んで歌っているんだという発見があった。それはジェームス・ブラウンを聴いても感じたことで。おそらくこの黒人シンガーの熱量が自分に刺さっているんだということも理解できたんです。それで、昔新宿にあったディスクユニオンのソウル / ブルース館に行って店員さんに「The Sonicsをきっかけにリトル・リチャードを聴いて、黒人シンガーがシャウトしているような曲が好きなんです」と話したら、「じゃあこのへんが好きなんじゃないかな」とレコメンドしてもらった中の1枚が、オーティス・レディングの「Satisfaction」だったんですね。The Sonicsの流れで、The Rolling StonesやThe Beatles、The Kinksといった60年代のイギリスの白人バンドの曲は聴いていたので、「Satisfaction」がThe Rolling Stonesの曲ということは知っていたんです。でも、オーティス・レディングというアメリカの黒人シンガーが「Satisfaction」を歌っているバージョンがあるんだと思って聴いてみたら、もう、ビックリしました。オーティスが歌うだけでこんなに熱量がぶっとくて、いい意味で暑苦しくなるんだと思って。それで、「まずはこのシングル盤を買おう」となって、それが僕がシングル盤を集めるようになったきっかけでもあります。

TAXMAN(THE BAWDIES)

──TAXMANさんが初めて買ったレコードはなんだったんですか?

TAXMAN 僕はまずThe Sonicsのアルバムをレコードで1枚買おうと思って、最初に手に入れたのが「BOOM」でしたね。そのとき買ったのは再発盤だったんですけど、僕らが初めてThe Sonicsの衝撃を受けたのがこの作品だったので、これだけはオリジナル盤を持っていたいと思って、のちにオリジナル盤も購入しました。曲はもちろん、ジャケットから何から全部好きで。THE BAWDIESが駆け出しの頃は自分たちのホームページのデザインを「BOOM」のジャケットを意識したものにしていました。そのときどきの自分のモードでブルースやソウルやガレージを聴いたりしていますけど、これだけは飽きることなく、何かあったら聴く1枚という感じです。原点だからここに戻ると安心するんですよね。THE BAWDIESの楽曲を制作しているときも、何かに迷ったら「BOOM」を聴いて「やっぱりこれだな。あんまり難しく考えるのはやめよう」と思います。

──高校生のときからレコードに触れているとなると、お二人のコレクションはきっと相当な数ですよね。

ROY 数年前に数えたことがあったんですけど、そのときはシングル盤だけで5000枚くらいあったので、今は5500枚くらいあるんじゃないかな。15年くらいかけてそれくらい集めましたけど、今も毎日買ってますからね。お金はなかったけど時間はあった頃は、しょっちゅうレコード屋さんに行っては100枚くらい平積みして試聴させてもらってました(笑)。今は世界中のレコード屋さんが通販をやっているので、時間があったらそういうサイトを見てるんですけど、1日1枚は自分が欲しいレコードが必ずヒットするので、そうすると買っちゃいますよね(笑)。

TAXMAN(THE BAWDIES)

TAXMAN 僕はROYほど枚数を所有してないですけど、たぶん1500枚くらいですね。シングル盤も好きなんですけど、LP盤のほうが多いです。僕はもともとギターも絶対に売りたくないタイプなので、これから自分の家にレコードがどれだけ増えても絶対に売らないと決めてます。ほら、音楽の趣味っていろいろ変わってくるじゃないですか。例えばギターを始めた当初は、ゴリゴリのブルースのカッコよさって本質的にはわかってなかったんですよ。でも、ギタリストであるからにはブルースのレコードを持っておいたほうがいいなと思って何枚か買ったりして。それから数年経って改めて聴いてみたら「めちゃくちゃカッコいいじゃん!」と思えたんです。音楽ってそういうことがあるので、最初はそれほどハマらなかったレコードでも未来の自分に託すために売らないですね。

ROY THE BAWDIESもコンスタントにレコードで作品を発表しているし、今年は“2020レコードの日限定盤”として最新アルバム「Section #11」から「SKIPPIN' STONES / LET'S GO BACK」をカットした7inchシングル盤をリリースするんですけど、そこにはやっぱり自分たちがレコード好きで、その文化を伝えたいということと、自分たち自身で針を落としてTHE BAWDIESの曲を聴きたいという思いが一番にあるんですよね。