ナタリー PowerPush - 電子音楽部
5人の電子音楽家が描く もうひとつの未来 ポップと実験が交差する「でんおん!!」博覧会
それぞれの“未来”と原風景
──コンピとしてまとめて聴いてみると、それぞれの世代なりの電子音楽観が出ていて面白いなあと思ったんですけど。子供の頃に身近にあった電子音……例えばラジオとかテレビゲームとか、が反映されているかなあと。
写楽 そうですね。本当に原体験的なものがファミコンだったんで、それを未だに引きずってる感じですかね。
──ちなみに、音楽的に一番ショックを受けたゲームは?
写楽 音楽的には「スターソルジャー」ってゲームですね。すごく速くて激しいんですけど。あと一番初めに友達にダビングしてもらったテープがファミコンのサントラで、それしかテープがなかったから毎日ずっと聴いてて。未だにそこから抜け出せてないんだと思います。
福間 僕は世代的にもうちょい前で、アーケード派なんですよ、完全に。ファミコンを否定はしないんですけど、どっちかといえば現場派だった。当時でいえば細野晴臣さんが監修された「ビデオ・ゲーム・ミュージック」、あれの影響がすごかった。「ゼビウス」とかあのへんの、1985年くらいまでのナムコのゲーム音楽には影響受けましたね。
三浦 戸田もゲーム世代じゃない?
戸田 僕は現場でも家でもドップリでした。オリジナルの歌詞をつけて歌ったり(笑)。
写楽 あ! した! した!
戸田 宿屋の音や、レベルアップの音にまで歌をのせていました。
写楽 オイラはテレビの前にラジカセを持っていって、弟に歌詞を教えて一緒に歌う、みたいな。それが最初に組んだユニットですね(笑)。
三浦 そのユニットがメンバーチェンジして、現在のFLOPPYに至る(笑)。
──中野さんはゲームはどうでした?
中野 作曲はしてましたけどね。実際、ファミコンなんかでも自分でプログラムを打って、それをROMに焼いて発音させて確認したり。今で言う「チップチューン」ですか。そういうことをROMの時代からやっていたっていうかかわりですね、ゲームは。
──中野さんや三浦さんの世代だと、電子音楽の根っこはどのへんになるんですか?
三浦 テクノポップ御三家(P-MODEL、プラスチックス、ヒカシュー)あたりですかね。
中野 音楽としてはそうですね。
三浦 その前だと……たぶん原体験としてだと、冨田勲さんがやってたアニメの主題歌だとか、そういうところなんだと思います。あと、大阪万博の感じとか。
中野 そうだね。そういうムード的なものも含めてね。
三浦 宇宙旅行とか、未来への期待とリンクして、シンセサイザーというものがあるような。その頃の予想図としてあった2010年の車は透明なチューブの中を飛んでいて、タイヤがなかった。そういう未来観と高度経済成長の高揚感が全部一体になってる、夢のあるものですね、僕らの世代の電子音楽観は。そういう意味ではゲーム世代とはちょっと違うかもしれない。僕らの後の世代だと、もっと生活に近い感じになるんじゃないかなと思います。
──じゃあ、三浦さんがこのコンピに提供した「1970」という曲のタイトルは……。
三浦 まさに万博です。万博の年の未来観を出したかった。アルバム最後の「悲しい合図」も同じ時代がコンセプトですね。万博と並行して安保闘争があって、そういう現実的なものと、未来への期待が一体となった感じ。
──中野さんは短波ラジオのノイズを楽曲に取り入れていますが、これは中野さんなりの未来観?
中野 ラジオそのものには未来というイメージはないですね。ただ、自分はBCL(短波による国際放送)少年で、その頃から短波ラジオを使ってたんですけど、その中に入ってたBFOっていうオシレーターの音をずっと聴いてたんです。
三浦 変態だな(笑)。
中野 オシレーターをかけて放送局を探すと音程が上下するんですよ。あたかもスクラッチしてるような感覚ですけど、その上下を楽しんでた。……そういう喜びから生まれた音楽(笑)。
──ラジオを楽器として使うという、シュトックハウゼンやジョン・ケージがやっていたようなことを子供の頃から既にしていたと。
中野 そういう聴き方をしていたフシがあります(笑)。
──福間さんの原体験は?
福間 幼稚園の頃に放送していた朝のワイドショーで、天気予報のコーナーになるとBGMにクラフトワークの「コンピューター・ワールド」がかかってたんですよ。それにもう、背筋がゾクゾクして。その怖い感じと天気図の古臭いCG画面が合わさって独特の未来観がありましたね。だから今でも作る際に、ポップさの中にちょっと怖い雰囲気がないと、やってて気持ち良くないんですよ。エレクトロクラッシュ以降、ボコーダーとかオートチューン系が流行ってますけど、背筋がゾクッとするような場面がないと……今風に言うと萌えない(笑)。
こういう未来がいつ来るんだろう?
──みなさん、それぞれ書き下ろし2曲を提供されていますが、1曲は歌もので1曲はインスト、という構成ですよね。これはどういう理由のもとに?
三浦 歌うメンバーが多いんですよ。それに、インストだと抽象的になりがちなので。半分は歌ものがあって、半分はご自由にどうぞっていう。そんなにバラバラなものができてくる気はしなかったので、そういう振り方ができたんだと思います。
──今回の収録曲にはユニークなタイトルのものが多いですよね。例えば、中野さんの「Raindrops Keep Fallin' On My Desktop」は……。
中野 バート・バカラックのシャレですね。
──B.J.トーマスが歌った「Raindrops Keep Fallin' On My Head」(邦題「雨にぬれても」)のことですね。
中野 これ、イメージはスクリーンセーバーなんですよ。その中に雨粒がスクリーンに落ちるというのがあって。
三浦 「After Dark」だ。
中野 そうそう。フレーズを自動的に変化させたりする「M」っていうソフトで作曲したんですけど、それでピアノを鳴らしたらスクリーンセーバー的なゆっくりしたテンポ感みたいのがイメージの中で見えてきて。それで付けたんです。
三浦 「After Dark」も未来な感じだね。
中野 そうだね。あれとマックの「Chicago」フォント。「Chicago」フォントは未来だったね。
──写楽さんの「アンドロイドは電子意識で夢を見るか?」は、フィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」からインスパイアされたものですか?
写楽 「ブレードランナー」(「アンドロイドは電子羊の夢を見るか?」を原作にしたアメリカ映画)は個人的にはそんなに未来っぽい感じはしなくて。映像になっちゃってるからだと思うんですけど、小説には「こういう未来がいつ来るんだろう?」って思うところがあって。「もしアンドロイドがいたらこういう風に自我に目覚めたりするのかな?」と。
──サイバーパンク以降の荒廃した未来観にも惹かれるんですか?
写楽 未来っていうと、どっちかじゃないですか。チューブの中を車が走ってるか、すごい荒廃してるか。どっちも好きなんですけど、「マッドマックス」とか「北斗の拳」の世代なんで、荒廃してるのもけっこう好きで。あんまり音楽にフィードバックはしてないんですけど(笑)。
戸田 (衣装に)トゲをつけるってのはどうですか?(笑)
CD収録曲
- chip cook book / 小林写楽
- AUX+ / 福間創
- Amp-Amplified / 中野テルヲ
- CETI / 戸田宏武
- 1970 / 三浦俊一
- sssSSSSSSSSSSSSSSSSsss / 戸田宏武
- Raindrops Keep Fallin' On My Desktop / 中野テルヲ
- アンドロイドは電子意識で夢を見るか? / 小林写楽
- TimeLine10-11 / 福間創
- 悲しい合図 / 三浦俊一
V.A.「電子音楽部」発売記念ライブ
デンシコン
2010年12月23日(木・祝)
東京都 高円寺HIGH
OPEN 18:00 / START 19:00
出演:中野テルヲ / 福間創 / 三浦俊一 / 小林写楽 / 戸田宏武