ナタリー PowerPush - BUCK-TICK

櫻井敦司&今井寿が明かすバンドの在り方

今年デビュー25周年を迎えたBUCK-TICKが、通算18枚目となるオリジナルアルバム「夢見る宇宙」をリリースした。常に刺激的なサウンド&ビジュアルを武器に日本の音楽シーンで戦い続けてきた彼ら。その姿勢は25年経った今も変わっておらず、2年ぶりのアルバムとなる今作でも独自の世界観が展開されている。

今回ナタリーではバンドのフロントマンである櫻井敦司(Vo)と、音楽的ブレーンの今井寿(G)にインタビューを実施。25周年にして初めて試した制作方法やアルバムタイトルに込めた意味、さらに長年にわたり活動を続けてこられた秘訣など興味深い話をたっぷり訊いた。

取材・文 / 西廣智一

1曲1曲をアルバムタイトルが包み込むイメージ

──ニューアルバム「夢見る宇宙」はとても印象的なタイトルですね。これはシングル「エリーゼのために」のカップリング曲のタイトルと同じですが、曲名がそのままアルバムタイトルになったんでしょうか?

今井寿(G) そうです。

──なぜこのタイトルにしたんですか?

今井 アルバムのタイトルをちゃんと考えようかなと思ったんですけど、ちょうどいいっていうか、一番しっくりきたのがこのタイトルで。それでみんなに提案したらすんなり決まりました。

──タイトルにもある「夢見る」と「宇宙」っていう言葉は本作のいろんな楽曲の中に散りばめられてます。そういったキーワードって櫻井さんの中で無意識の内に出てきたものなんですか?

櫻井敦司(Vo) 最初は無意識に出てきて、そこから意識していく感じでしたね。

──出てきた言葉を意識して、さらにつなげていく感じ?

櫻井 いや、全体としてはつながってなくていいと思ってました。1曲の中でひとつの世界が完結していて、このアルバムタイトルが全体を包み込んでいるようなイメージで。結果的にすごく良いタイトルだと思っています。

「未来がある、明日がある」って言い切ることは僕にはできない

──それにしても「夢見る宇宙」ってすごくポジティブで強い言葉だと思います。

櫻井 このタイトルを付けたのは1年近く前で、やはり去年はどうしても震災のことがみんなの心にドンと重くのしかかっていたと思うんです。もちろん僕にもありましたし。そんな中でみんながみんなポジティブにっていうふうに声高々に叫んでいて、それに元気づけられる人もいる。ですけど個人的には無理矢理ポジティブにしようとして考えたものではありません。むしろ僕はいつも心のどこかに諦観っていうものがあると思っているし。だから「未来がある、明日がある」って言い切ることは僕にはできないし、今のような表現が僕の限界ですね。

──でも結果として完成した作品を聴くと、すごくポジティブになれるアルバムだと強く感じました。

櫻井 僕の書く歌詞は割と突き放した感じで。ひとりぼっち同士だからいいじゃないかとか、宇宙みたいに巨大なものに比べたらどうってことないじゃないかとか、ちょっと意地悪ですけど遠回りして希望にたどり着けるような感じかもしれません。逆に今井さんの書く歌詞はかなりストレートでポジティブなものだと思います。

──今井さんは作詞のときにそういった部分を意識しますか?

今井 いや、特に意識せず普通に書きました。メロディがあって譜割りがあってリズムがあって、それに合う言葉とイメージを充てていくというか。だからそれを聴いてみんながポジティブになってくれるならいいですよね。

──じゃあ歌詞の中にメッセージを込めようとはあまり思わない?

今井 結果的に込められたら込められたでいいというか。最初に何か漠然とした塊があったらそれを形にするために作詞するっていう。だから作ってるときはメッセージというものは意識しません。

──最終的にリスナーがどう受け取るかですかね。

今井 そうなっちゃいますね。

クリムト「金魚」は「使っていいんだ?」っていうのが第一声

──ジャケットについても伺いたいと思います。今回のアートワークはグスタフ・クリムトの名画「金魚」を使ったものですが、これは誰のアイデアだったんですか?

今井 グラフィックデザイナーの秋田和徳さんがアイデアを3つくらい用意してきて、その中のひとつがこのクリムトで。ミーティングでこれを観たときに、意外性というかとんでもない角度からきたなって思いました。櫻井さんもクリムトが好きなので、最終的に「これにしよう」と。

──櫻井さんは最初にこのアイデアを聞いたとき、どう思いましたか?

櫻井 「使っていいんだ?」っていうのが第一声。すごくメジャーな画家の、いつも目にするような絵が自分たちのジャケットに使えるんだと思うと、意外っていうのを通り越してすごくうれしかったですね。秋田さんのそのアイデアにも感服したというか。

──アルバムタイトルにもぴったりだと思いますし。それに今までのジャケットと比べても異色というか斬新ですよね。今回はデザイナーさんからのアイデアでしたが、逆に皆さんからこうしたいって注文することもあるんですか?

今井 アイデアがあれば出すっていう感じですね。今回のデザイナーさんは割と自分発信でいろいろ持ってきてくれた人なので、だったらお任せで大丈夫っていう(笑)。

ニューアルバム「夢見る宇宙」 / 2012年9月19日発売 / Lingua Sounda

CD収録曲
  1. エリーゼのために -ROCK for Elise-
  2. CLIMAX TOGETHER
  3. LADY SKELETON
  4. 人魚-mermaid-
  5. 夢路
  6. ONLY YOU -WE ARE NOT ALONE-
  7. 禁じられた遊び -ADULT CHILDREN-
  8. 夜想
  9. INTER RAPTOR
  10. MISS TAKE –I'm not miss take-
  11. 夢見る宇宙 -cosmix-
初回限定盤DVD収録内容
  • 「CLIMAX TOGETHER」ビデオクリップ
  • Live at 日比谷野外大音楽堂 2012.6.10
    SE
    1. エリーゼのために
    2. REVOLVER
    3. 疾風のブレードランナー
    4. 夢見る宇宙
    5. MY FUCKIN' VALENTINE
BUCK-TICK(ばくちく)

櫻井敦司(Vo)、今井寿(G)、星野英彦(G)、樋口豊(B)、ヤガミ・トール(Dr)の5人からなるロックバンド。現在に至るまでメンバーチェンジをすることなく活動を続けている。1987年にメジャーデビューし、翌1988年にシングル「JUST ONE MORE KISS」のヒットにより本格的なブレイクを果たす。ダークな世界観を追求する一方で、グランジやブレイクビーツ、ドラムンベース、エレクトロニカ、ポストロックなど常に音楽要素を積極的に取り入れている。2005年には初のトリビュートアルバム「PARADE ~RESPECTIVE TRACKS OF BUCK-TICK~」をリリース。2007年には同アルバムに参加したアーティストたちとともに、初の主催フェス「BUCK-TICK FEST 2007『ON PARADE』」を横浜で開催して大成功を収めた。デビュー25周年を迎える2012年には、新レーベル「Lingua Sounda(リンガ・サウンダ)」を設立。シングル「エリーゼのために」「MISS TAKE ~僕はミス・テイク~」、トリビュートアルバム「PARADE II ~RESPECTIVE TRACKS OF BUCK-TICK~」に続いてニューアルバム「夢見る宇宙」をリリースした。さらに9月22、23日には千葉ポートパークにて主催フェス「BUCK-TICK FEST 2012 ON PARADE」を開催する。