ナタリー PowerPush - ANARCHY×Bose(スチャダラパー)

「NEW YANKEE」像を巡る異色ヒップホップ対談

ハードなバックグラウンドが形成したパーソナリティを歌詞に込め、ストレートな物言いでストリートから絶大な支持を得るANARCHY。一方、風刺を効かせて日常を描き、シニカルに社会を斬ることを売りにするスチャダラパーのBose。エイベックスのヒップホップ専門レーベル「CLOUD 9 CLiQUE」からANARCHYが満を持してメジャーデビューアルバム「NEW YANKEE」をリリースするのを機に、タイプの異なるラッパー2人の対談が実現した。

ANARCHYは本作をどんな思いで作ったのか。BoseはANARCHYという男にどんな魅力を感じているのか。そして “新しいヤンキー”の姿とは? 世代を超えた2人の対談によってそれらを明かしていく。

取材・文 / 猪又孝 撮影 / 上山陽介

絡まれたくねえなって思ってた(笑)

──お2人が初めてステージを共にしたのは今年4月に開催された「YARIGASAKI MOST WANTED」だそうですね。

左からANARCHY、Bose。

Bose ANARCHYくんのライブを観るのはそのときが初めてで。最初はコール&レスポンスとかがあまりないステージをするタイプのラッパーなんじゃないかと思ってたんですよ。お客さんを煽ったりとかしないでタイトに淡々とラップをするような。そしたら全然ウエルカムな感じでやってて意外だったし、そこが自分たちとも共通していて、好きだなと思って。

ANARCHY スチャダラさんは青春というか、初めて観たときからずっと変わらない印象があって。そもそも僕はBoseさんにずっと会いたかったんですよ。

Bose 僕らのステージを観たことあるの?

ANARCHY はい、関西で。

──ANARCHYさんがスチャダラパーを初めて聴いたのは?

ANARCHY 中2とかやったと思います。マジで僕、そこから日本語ラップを聴き始めたんですよ。最初はスチャダラパーしか知らなかったんです。中学のときの相方みたいな子と「俺がBoseやる」「俺がANIやる」とか言ってコピーしてて。

──「今夜はブギー・バック」とか?

ANARCHY そうですね。あと「サマージャム'95」とか。

Bose あれ、いくつ違うんだっけ? ANARCHYくんは今何歳?

ANARCHY 32です。酉年。

Bose ちょうど一周り違うんだ。そっかー。そういうのを聞くとある意味息子だね(笑)。自分に子供ができたからってのもあるんだけど、ANARCHYくんを見ても、自分の子のように思えてくるんだよね(笑)。

ANARCHY

ANARCHY 完全にフルで歌えてましたしね。背中を見て育ちましたよ、俺らは。

Bose いやあ、もう泣いちゃう(笑)。そんな子が育ってここまでになったんだ、みたいな。ライブで観たとき、ちょっとは自分の影響もあったんだなっていうのが感じられたし、もうあと何も思い残すものはない(笑)。

──そのイベントでは連絡先も交換して?

Bose メアドを交換して友達になりました。会うまでは都築響一さんの本(「ヒップホップの詩人たち」)とか見てて、絡まれたくねえなって思ってたから(笑)、友達になってカツアゲされないようにしようって(笑)。

ANARCHY カツアゲしないですよ、俺!(笑)

Bose わかってるんだけど(笑)。けどキャラはね、ラップの世界観とちゃんとリンクしてるままでいてほしいから。だからANARCHYくんとは友達だけど、人に話すときは「すっげえワルくてもう手つけらんない」って説明するっていう。

ANARCHY もう、それ評判悪くなるじゃないですか! やめてくださいよ(笑)。

ヤンキーはその時代の最先端

Bose 新作「NEW YANKEE」聴いたよ。まずタイトルがメッチャいいよね。これどうやって思いついたの?

ANARCHY 前のアルバム(「DGKA (Dirty Ghetto King Anarchy)」)で歌詞の1つとして出てきて、ずっと気に入ってたんですよ。「今の自分かも」とも思ったし、どの時代にもヤンキー精神が必要なんじゃないかと思ってて。その精神が俺はけっこう好きで。

──ANARCHYさんは、ヤンキーとはどういったものだと考えていますか?

Bose

ANARCHY 俺はヤンキーってカッコいいもんだと思ってるんです。いろんな形でツッパってるわけじゃないですか。カッコつけて、オシャレして。昔やったら柄モンのシャツ着たり、パンチパーマをあてたりしてたんが、今はドレッドあてたり、タイダイのTシャツ着たり、(エア)ジョーダン履いたり。ヤンキーって意外とその時代の最先端をいってるんじゃないかと思うんですよ。

Bose そうなんだよね。だいたいマセてる子がまずそういうのにいくじゃん。EXILEのライブに行くと「EXILE」っていうステッカーを車に貼ってる人いるでしょ。あと、ayu(浜崎あゆみ)のファンの車とかさ。僕はああいう感じで「ANARCHY」って貼ってあればいいなと本気で思うわけ(笑)。

ANARCHY それ、ヤバイですね(笑)。

Bose 結局、中学生くらいのときにかわいい子とケンカ強いヤツがクラスの中で先にファッションとか音楽に目覚めてさ。そのときに手に取るものが、今はEXILEとかが中心なのかもしれないけど、そこに選択肢としてANARCHYが入って「痛みの作文」(ANARCHYの自伝)が読まれれば、伝わることがもっといっぱいある気がするわけ。書いてある内容は彼らにもわかる話だし、その子たちが抱えるモヤモヤした気持ちみたいなのが曲で歌われてるわけだから。ANARCHYくんにはそういうところにいってほしいんだよね。

ANARCHY 今回のアルバムは、今の自分を表現したいなっていう思いで作っていて。初回盤に「痛みの作文」を付けたのも、今までの生い立ちを知ってもらって、自分がこういう音楽を作ってるっていうのを知ってもらいたかったんです。ちょっと恥ずかしいんですけどね、今は。26歳のときに書いた本なので。

Bose 日本はなかなかそういうのがないもんね。特に芸能みたいなことになると自分の生い立ちとか思想とか、そういうのは一度なしにしてデビューする人が多いから。でもそうすると、すごくいい曲でも深みが減るっていうか。ANARCHYくんの歌を聴いてると、人生経験を含めて書いてるから、どんなタイプの曲でもすごく言葉に重みがあるし、「この人が言ってるんだから聴こう」みたいになる。そういうところがいいと思うんだよね。

ANARCHY ありがとうございます。

左からANARCHY、Bose。

Bose あとね、僕、今回のタイトルを聞いて思ったのがウチの奥さん(ファンタジスタさくらだ)。彼女たちこそ「NEW YANKEE」ですよ(笑)。東京育ちで、まあまあちゃんとした学校とか行ってるんだけど、夜は六本木で悪い大人と遊んでるみたいな。結局ああいう人たちがいちばんオシャレっていうか、僕らが若いときに見てない世界を見てたりするわけ。ANARCHYくんもそうだと思うけど、けっこうヒリヒリする世界にいるっていうかね。でもそういう人たちが新しいモノを作るんですよ。普通の人たちとは違うリスクを背負って遊んでるから。

ANARCHY そうっすよね。だからこのアルバムを通してNEW YANKEE像を提示できたら、NEWじゃない人らにも届くと思って。ヤンキーって自分の好きなことにまっすぐじゃないですか。ルールとかに縛られてるこの世の中で、そういう人って日本中にいっぱいいると思うし、そんな人がこのアルバムを聴いて熱くなったり、そのままの姿勢で恥ずかしがらずにいてほしいんですよね。だから、俺も恥ずかしがらずにこのタイトルを付けたんです。

ANARCHY ニューアルバム「NEW YANKEE」 / 2014年7月2日発売 / CLOUD 9 CLiQUE
初回限定盤 [CD+DVD+書籍] 4104円 / AVCD-38905/B
初回限定盤 [CD+DVD+書籍] 4104円 / AVCD-38905/B
CD+DVD / 3564円 / AVCD-38906/B
CD / 3024円 / AVCD-38907
CD収録曲
  1. The Theme(prod by YGSP)
  2. Energy Drink(prod by AVA1ANCHE)
  3. Shake Dat Ass feat. AISHA(prod by Habanero Posse)
  4. VVVIP feat. VERBAL(prod by Major Dude)
  5. Moon Child feat. KOHH(prod by Mally the Martian)
  6. Spiral(prod by BACHLOGIC)
  7. Cry(prod by Blast Off Productions)
  8. Love Song feat. AISHA(Prod by 理貴)
  9. Right Here(prod by John Fontein)
  10. Good Day feat. JESSE (prod by 理貴)
初回限定盤およびCD+DVD DVD収録内容
  1. “Right Here” Music Video
  2. “Right Here” Studio Recording
  3. “Right Here” Music Video Shooting
  4. “Energy Drink” Music Video(Live Version)
ANARCHY(アナーキー)

京都出身のラッパー。1995年からラップを始め、2000年からはJC、NAUGHTY、YOUNG BERY、DJ AKIOとRUFF NECKのメンバーとしても活動している。2006年には1stアルバム「Rob The World」をリリースし、翌2007年にはヒップホップ誌「BLAST」最終号で日本語ラップの未来を担うラッパーの1人として表紙を飾った。2013年11月には4thアルバム「DGKA (Dirty Ghetto King Anarchy)」をフリーダウンロード配信し話題を集める。そして2014年1月1日にはエイベックスのヒップホップ専門レーベル「CLOUD 9 CLiQUE」とメジャー契約を締結。7月2日にメジャーデビューアルバム「NEW YANKEE」をリリースする。

スチャダラパー

1988年にBose、ANI、SHINCOによって結成されたヒップホップチーム。1990年にアルバム「スチャダラ大作戦」でメジャーデビューし、1994年に発表した小沢健二とのコラボシングル「今夜はブギー・バック」が大ヒットを記録する。デビュー20周年を迎えた2010年にはベストアルバム「THE BEST OF スチャダラパー 1990~2010」をリリース。日本のヒップホップシーンを牽引する存在として、多くのアーティストからリスペクトされている。