コミックナタリー PowerPush - 絶園のテンペスト

本格ミステリ大賞受賞作家・城平京の作品がアニメ化 ミステリ分野の編集者から推薦コメントが一挙到着

ミステリ分野の編集者から推薦コメント到着! 目利きたちは「絶園のテンペスト」のどこに注目した?

本格ミステリ好きの血を騒がせる
葉風、孤島からの脱出劇

両親と妹を何者かに殺された真広。犯人への復讐を誓う彼の前に、犯人を探す代わりに力を貸せという少女が現われる――「絶園のテンペスト」はミステリ的にまっすぐな問いを持った作品です。ただその少女が、計略により孤島に閉じ込められた魔法使い・葉風だったりするのですが。

「魔法」という言葉で引き返そうとするミステリ好きの方、それは軽率です。超能力や魔法世界におけるルールを明確にして解いていく型のミステリ小説は、西澤保彦の神麻嗣子の超能力事件簿シリーズや、推理作家協会賞を獲った米澤穂信の「折れた竜骨」、海外ではエドワード・D・ホックのサイモン・アーク・シリーズなど、数多く存在するのですから。葉風の魔法は万能ではありません。発動の制限があることで、何ができ、どんなことが起こりえるのかというのは、本格ミステリのロジックに通じるものがあります。このあたりは原作者である本格ミステリ作家・城平京さんの力ではないでしょうか。

ミステリ的に最初の見せ場は3巻の、葉風がいかに孤島を脱出するかという議論。さながら名探偵と犯人の攻防戦のようなこのパートは、本格ミステリ好きの血を騒がせるでしょう。物語が進むにつれ、他の小さな謎は解明されていきます。しかし、最大の謎「真広の家族を殺したのは誰か?」という問いは底に流れ続けています。明らかに一か所に収束していく予感に満ちながら。

小説ならば、残りのページ数を見て展開を予想することもできます。それができないのが連載マンガの大きな魅力。伏線が必ずあるという安心と(ラストへの鍵として1巻からアレのあそこに描かれているものが関係あるのかなーと思っていますが、どうなんでしょう?)、しかし、いつ終わるかわからないという不安感。作者の手のうちで、気持ちよく転がされてみませんか。

ミステリマガジン編集部 善元温子

ミステリマガジン

1956年の創刊以来、海外作家のすぐれた短編と、実力派日本人作家の書き下ろし作品を掲載するミステリ専門誌。毎月25日発売。

ヒロインは失われた、
ヒーローはどこにいる

「世の中の関節は外れてしまった。ああ、なんと呪われた因果か、それを直すために生れついたとは!」(「ハムレット」シェイクスピア 野島秀勝訳 岩波文庫)。シェイクスピア「ハムレット」からの大仰な引用で幕をあける本作は、その引用どおりの壮大な展開を第1話から見せつけ、読者を一気に作品世界に引きずり込む。まさに「世の中の関節は外れ」て、人智を超えた巨大な“樹”が姿を現わし、世界は破滅を迎えんとするのだ。では「それを直すために生れついた」のは誰か? 主人公である2人の高校生、不破真広と滝川吉野が力を合わせて「それを直す」のならば、シンプルなヒーローマンガになったろう。

しかし本作は、「それを直すために生れついた」のが誰なのか、容易には知らせてくれない。「はじまりの樹」の魔法使い・葉風、その血族でありながら葉風とは異なる方法で世界を直そうとする鎖部一族、政治と軍事を動かして事態の打開を図る役人・早河、そして現われるもうひとりの魔法使い……信条も動機も能力も異なる者たちが、あるときは互いに協力し、またあるときは相手を出し抜いて、それぞれに世界を「直す」ことを目指すスリリングな展開。普通のマンガならば最初に示される、「誰が世界を救うのか」こそが本作の最大の謎になっているのだ。

そして真広と吉野はヒーローになれるのか? なにしろ彼らのヒロインは、あらかじめ失われて……物語の冒頭で殺されている。彼女の不合理な死に対して、犯人を殺して「辻褄」を合わせるのならば世界は正しく進む。だが、世の理(ことわり)を狂わせて、彼女を生き返らせようと考えるならば? 2人は「世の中の関節」を直すのか外すのか、「呪われた因果」の行き着く先を求めて、われわれ読者はページをめくる手を止められない。

ダ・ヴィンチ編集長 関口靖彦

ダ・ヴィンチ

ミステリをはじめ、さまざまなジャンルの小説やマンガを紹介する“本とコミックの情報誌”。メディアファクトリー刊。毎月6日発売。

推理小説の枠組みに異世界の要素を加えたとき
城平京の才能はスパークする

彼女はいつも自分にできることを手を抜かずやっている――記憶に頼って恐縮ながら、これは城平京「名探偵に薔薇を」の一登場人物に対する描写である。城平京作品に共通することだが、「絶園のテンペスト」に描かれる人たちも、地位や能力、生活環境に差はあれど、持てる限りの力を尽くし楽に生きてはいない。第5巻18ページ、鎖部左門の台詞に象徴される、登場人物の「投げない、流さない」姿勢には、心うたれ勇気づけられる。魔法が使える身でも苦労は絶えないらしい、凡人が力を惜しんでどうする、と自分を鼓舞するよりどころになってくれるのだ。

推理小説的な枠組みに異世界の要素を加えたとき、城平京の才能はスパークするらしい。それは「絶園のテンペスト」の壮大さを見ていただければ論を俟(ま)たない。ただ、既存の概念を超えた世界を描く一方で、例えば「不破愛花を殺したのは誰か」というテーマには、人間関係を調べアリバイや動機を探るなど、古式ゆかしいアプローチを試みている。一個人が何を考えて行動するかという点でわれわれと乖離していない人物を創造し、「魔法? そんなん使ったら何でもありやん」の安直さを排することに成功している。細部は適宜解釈してください、と背負い投げを食わせる作者もいるだろうが、易きにつくことなく絵空事でない可能性というものを感じさせてくれる城平京のような創作者には、一生ついていきますと言いたくなる。

さて、「絶園」は佳境を迎えているようだ。滝川吉野の言う「最後は皆が幸せになる」結末がどのようなものか、とても気になる。知りたい。けれど物語の終わりは切なくもある。もうこの人たちと会えないのか……と。

東京創元社編集部 伊藤詩穂子

ミステリーズ!

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ミステリ、バトル、ラブコメ……
物語のノリがどんどん変わる

最新刊の巻末で、それまでのストーリーを象徴するような「あなたが正しいと思うことも、立場を変えれば、間違っていることがある」というテーマめいたセリフが、まったく無造作に否定されるような展開。率直に言うと、このマンガは、迷走している。おそらく、テーマなどない。

……というミスリードに、思わず引き込まれそうになった。ミステリ、バトル、ラブコメ……、物語の「ノリ」もころころ変わっていく。作品の目的はなんなのか、そもそも主人公が誰なのかすら、よく考えるとわからない。混沌としている。にもかかわらず、次巻を猛烈に求めてしまうこの感覚。「アメリカの人気テレビドラマが、昼も夜も気になって夜通し見てしまう感じ」に近い。

ただし、アメリカテレビドラマ的な展開のスピードを、冒頭のように「迷走」と受け取ったなら、作者の思うツボだ。みんな感じていることかもしれないが、本作はおそらく、この「破綻」を意図的に演出している。「絶園の樹とはじまりの樹どっちが敵なのか?」「愛花は?」「吉野と真広は?」という、いったん答えを出しかけたテーマを、引っ込めたりするのはこのためじゃないか? この「迷走」は、読者をいずれ待ち受ける、結末という心地よい裏切りのための伏線だ。いや、もしかしたら待っているのは、つまらない結末かもしれないけれど、「すごいはず」と思わせる力が、本作の吸引力の秘密だろう。なんて言うと、まるで簡単だが、この感覚がわからない人間に、感性の古さを突きつけるちょっと怖い作品でもある。

そんな小理屈をこねたくなる、2巻あたりの屁理屈合戦が、僕は好きだ。

このマンガがすごい!編集部 薗部真一

このマンガがすごい!

宝島社が発行する面白いマンガの年間ランキングガイドブック。書店員や大学のマンガ研究会、各界のマンガ好きなどが選評。

TVアニメ「絶園のテンペスト」あらすじ

絶園のテンペスト

“はじまりの樹”の加護を受ける魔法使いの一族・鎖部一族。その姫宮にして、最強の魔法使い鎖部葉風。彼女は“はじまりの樹”と対をなし、破壊の力を司る“絶園の樹”を復活させようとする同族の鎖部左門によって、無人島に樽に詰められて置き去りにされてしまう。葉風が孤島から流したメッセージを、妹・愛花を殺した犯人に復讐を誓う少年・不破真広が拾う。真広は犯人を魔法の力で見つけることを条件に、葉風に協力する。そして真広の親友で、愛花の恋人である滝川吉野は、危機を真広に助けられたことから、その復讐劇に巻き込まれることになる。

アニメ「絶園のテンペスト」PV
TVアニメ「絶園のテンペスト」オンエア情報
  • MBS 10月4日より 毎週木曜26:00~
  • TBS 10月5日より 毎週金曜26:25~
  • CBC 10月10日より 毎週水曜26:00~
  • BS-TBS 10月13日より 毎週土曜24:30~
  • キッズステーション10月19日より 毎週金曜24:00~
  • GyaO!でも10月22日より配信開始

※放送日時に変更の場合あり。

キャスト
  • 滝川吉野 内山昂輝
  • 不破真広 豊永利行
  • 鎖部葉風 沢城みゆき
  • 不破愛花 花澤香菜
  • 鎖部左門 小山力也
  • エヴァンジェリン山本 水樹奈々
  • 星村潤一郎 野島裕史
  • 鎖部夏村 諏訪部順一
  • 鎖部哲馬 吉野裕行 ほか
スタッフ
  • 原作:城平京・左有秀・彩崎廉(月刊「少年ガンガン」スクウェア・エニックス刊)
  • 監督: 安藤真裕
  • シリーズ構成: 岡田麿里
  • キャラクターデザイン:斎藤恒徳
  • 音楽:大島ミチル
  • 美術コンセプトデザイン:岡田有章
  • 色彩設計:中山しほ子
  • 美術デザイン:佐藤歩
  • 美術監督:岡田有章、佐藤歩
  • 総作画監督:大城勝、菅野宏紀
  • 撮影監督:神林剛
  • 編集:高橋歩
  • 音響監督:若林和弘
  • アニメーション制作:ボンズ
  • 製作:「絶園のテンペスト」製作委員会