コミックナタリー PowerPush - 村生ミオ「終のすみか」

「いつもキャッチャーのつもりで描いてる」孤高の恋愛マンガ職人がWEB初登場

「SとM」の村生ミオが週刊漫画ゴラク(日本文芸社)にて、笑いを封印して挑んだ最新作「終のすみか」の1巻が、3月18日に発売される。突然妻と子供に絶縁されてしまったサラリーマンが、本当の“終の住処”を求めてさまようラブストーリーだ。

コミックナタリーは1巻発売に合わせ、これまでインタビューでの露出は1度きりという村生を直撃。裏方に徹し続けてきた恋愛マンガ職人の貴重な発言から、「終のすみか」の魅力とその作家性を紐解いていく。

取材・文 / 井上潤哉 編集・撮影 / 唐木元

とにかく第1話で主人公を辛辣に陥れようと決めていた

──今日は最新刊となる「終のすみか」についてお伺いしたいのですが、もうひとつは村生さんご自身のこと、非常に長く堅実な支持を得てきた村生ミオという作家が何を考えていらっしゃるのかも、明らかにできればと。

ははは。あんまりね、考えてない。

村生ミオ

──(笑)。

いつも時間に追われてるんで、たいして深いことは考えてないと思う。まあ具体的に質問されれば答えられるかもしれません。とにかく日々執筆に追われて夢中で走ってる感じなんで。

──100万部ヒットとなった「SとM」の次回作、「終のすみか」ですが、前作から一転してシリアスな内容が続いていますね。

前は割と、笑いをエッセンスとして入れてたんですよ。でも今回は排除して、シリアスだけで読ませようっていう感じではありますね。それは編集長の意見だったんですよ。やっぱり変えたいっていうのもあるんでしょう。テイストを。

──では今後も、「SとM」に代表されるようなギャグ的展開は登場しない?

しません。でも油断するとギャグのクセが顔を出しちゃうんですけどね。1巻にもちょっとだけ、そのテイストを感じる箇所はあると思います。

「終のすみか」第1話より。妻に離婚を切り出され、主人公は仮住まいに別居することに。

──第1話では主人公がいきなり奥さんと子供に絶縁を宣言される、いたたまれないスタートでした。

とにかく第1話で主人公を辛辣に陥れようとは決めていたんです。それが読者にどういう感情を抱かせるのか若干心配ではあったのですが、反応は上々だったようで。もしかしたら「俺はここまで酷くはないよな」って安心感を抱いてもらえたのかもしれません。

──確かにあそこまでどん底の淵に叩き落とされる人はなかなかいないとは思いますが、一方でシンパシーを感じさせる部分もたくさんあります。息子が母親の財布からお金を抜いているのを見ちゃうんだけど、主人公はそれを叱れず、自分のお金で補填して揉み消すエピソードとか。

事を荒立てたくないっていう気持ちは、誰しもありますからね。大ごとにしたくない、知らないふりをしたほうが楽っていうのは、中年男性にはよくある感情です。

僕が描くセックスの技法なんて、完全にファンタジーです

──こういう身につまされるような描写の数々は、村生さんの実体験が反映されていたりするんでしょうか。というのもですね、大変不躾なことを言うようで恐縮ですけれど、村生さんのお顔が、ご自身の描く主人公にとても似てらっしゃると思いまして……。

えっ、そう?

──マンガには必ずどこかに作者自身が投影されている部分があるっていう話を聞いたことがあるんですが。

「終のすみか」第1話より。家族の写真を見つめて幸せに浸る田島。

あぁ……確かにね、描いてる以上は多少は、どうしても出るでしょうね。でも「終のすみか」は実体験ではないですよ(笑)。

──愛する妻や家族に裏切られて酷い思いをしたとか。

そういうのはまだ、してないですね。

──まだ(笑)。

これからは知らないけど(笑)。

──それこそ色恋とセックスの描写が豊かですから、作者ご本人はさぞ百戦錬磨の方なのではないかと。

そういう勘違いはよくされるんです。でも僕は未熟ですよ。得てして、女性のことがわからないからこそ描けるのかもしれません。僕が描くセックスの技法なんてファンタジーです。作っちゃってます完全に。

──そういうものなんですか。たとえばAVを観たりして着想を得るとかも。

ないですねー。大抵は担当編集から聞くことが多いですね。エロ情報とか。最近AVでどんなジャンルがあるんですか、とかね、雑談の中から教えてもらう。だから担当編集は非常に重要ですよ。担当といつも打ち合わせしてるわけで、私生活だって立ち入って聞くわけじゃないですか。そうすると人となりもわかってくるし、女性の編集者もいますからね、キャラの勉強にもなりますよね。

盤 [CD] / 000円 / 品番
作品紹介

田島修一は大手商社に勤める42歳。仕事もプライベートも充実、全てが順風満帆な人生を送っていた。が、ある日突然、妻から離婚を切り出されて彼の生活は一変する。

そして、失意の田島になぜか好意を示す社のマドンナ・神崎由佳。バツイチ中年と若い女の奇妙な関係は、やがて波乱を呼び…!?

大ヒット作「SとM」の村生ミオが描く、ショッキング・ラブ・ストーリー!!

村生ミオ(むらおみお)

1952年4月28日生まれ、徳島県徳島市出身。1972年、別冊少年ジャンプ(集英社)より「かっぱラブラブ大作戦」でデビュー。代表作に「胸騒ぎの放課後」「微熱 MY LOVE」「サークルゲーム」「バージン・ママ」「WOMEN」「SとM」など多数。現在はプレイコミック(秋田書店)にて「1夫5妻 ~僕がモテる理由~」、週刊漫画ゴラク(日本文芸社)にて「終のすみか」 、週刊実話(日本ジャーナル出版)にて「すえぜん」を連載中。